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異世界猫に異世界宮殿の侵略から地球を守ってくれと頼まれた件  作者: アルケミスト


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 レイはごきげんだった。


 ついにローユンを得たのである。


 親友との再会に狂気して、部屋中を跳び回り大騒ぎをした。


 後悔もしないですんだ。


 貴奈津がトランスに陥ったのは、レイのせいではなかった。


 ローユンからの呼びかけに貴奈津の潜在意識が反応したためだったのだ。


 電撃は、その引き金となったにすぎない。


 これで安心してまた、貴奈津に電撃を食わせることができるというわけだ。


「いやあ、よかった、よかった」


 と、レイは言うのだが、月葉はちっともよくなかった。


「なんということか、年頃の女の子がいる家の中に、若い男が二人も!」


 一人娘を溺愛する父親のような発想を、月葉はしていた。


 この考えを直接口に出すのは、さすがに月葉も憚られ、それとなく警告してみたのだが、眞鳥は気にかけた様子もなかった。


 イーライのことは、眞鳥も初めは警戒していたようだ。


 けれど、日が経つにつれて心配をしなくなった。


 イーライが貴奈津に興味を持ったようには思えなかったからだ。


 それでも、月葉だけはいまだに警戒を解いていない。


 そこへさらにローユンが加わった。


 眞鳥がさっさと、ローユンを客として迎えてしまったのだ。


 ローユンに対しては、眞鳥は一片の警戒心も抱いていないようだった。


 それどこ、なにかと世話を焼いたりした。


「お父さんは、ローユンをなんとなく、大切な人だと思い込んでいるんだな」


 眞鳥がいままで言っていたことからすれば、その感覚は月葉にもわからないことはない。


 しかし、である。


 ローユンの出現は、貴奈津と月葉を、より危険な状況に向かわせるものではないのか。


 眞鳥が手放しで歓待することができる相手ではないのではなかろうか。


 月葉にはそこのところが疑問である。


 しかし、実は眞鳥はただ気楽に考えていたのではなかった。


 楽観論を支えるものを、眞鳥は持っていた。


 それは、


「わたしの子どもたちは、なにがあっても、けっして不幸になることはないわ」


 という、亡くなった眞鳥の妻、つまり貴奈津と月葉の母の言葉であった。


 自分の死期を正確に予言して、そして逝ってしまった彼女の言葉を、眞鳥は大事な心のよりどころとしていたのである。


 そんなことは、月葉は知らない。


 知っているのは、貴奈津がハンサムに弱いということだ。


 心配の種が、月葉の目の前で、冷たいジュースをすすっていた。


「どうしたのよ、月葉。

 さっきから黙りこんじゃって」


 貴奈津がストローを口から放した。


 貴奈津はすでにパジャマに着替え、あとは寝るだけという態勢だ。


 月葉は自分に出されたジュースの氷を、ストローで突いた。


「ローユンの言ったことを思い出していたんだ」


「どんな」


「貴奈津は憶えていないよ、きっと。

 トランス状態だったから」


「あ、あれね」


 貴奈津が真面目な顔で肯いたので、月葉はストローに口をつけようとして、途中で止めた。


「トランスの時の記憶があるとか?」


「それは、ないみたいね。

 だけど月葉、じつはわたし、少し前世とかいうやつの記憶が甦ったみたいな気がするのよ。

 ローユンを見ているとね、そう思う。

 わたし自身としては、ローユンのことはなにも知らないわけ。

 なのに、ローユンを知っている誰かが、わたしの中にいる」


「ナーディ?」


「たぶんね。

 レイの言うには、わたしという個人は、ナーディの生まれ変わりではなくて、やっぱりわたしなのよ。

 ただ、ナーディのときの記憶だけが、どこかで繋がっているのよね。

 だから、わたし、ローユンのことをなんとなく知ってるの。

 これって、すごく変な感覚よ。

 完全に同化してしまえば記憶量が増えるだけで、違和感はなくなるはずだとレイは言うんだけど。

 でも、あんな猫の言うことだから、当てにはならないわよ」


 さりげなく、レイをコケにするのも忘れない。


 レイの言ったことが正しいか誤りか、そんなことは月葉はどうでもよかった。


 月葉の関心は一点に尽きた。


 トランス状態の貴奈津の口を借りて、ナーディとローユンがかわした言葉の意味である。


 単刀直入に月葉は問いた。


「そのナーディという人、ローユンの恋人だったとか?」


 貴奈津は飲みかけのジュースをプッと吹き出した。


「えーっ、なに言ってるのよ、月葉ぃ」


 いきなりテレテレして頬に手をあて、貴奈津はあちこちに視線を飛ばした。


 しかし、ふいに 我にかえる。


「わたしが照れることないか。

 わたしのことじゃなかったわね」


「やっぱり恋人だった?」


 頬杖をつく月葉に、貴奈津は手を振ってみせた。


「ない、ない、それはないわ。

 ナーディがいだく感情的なものは、よくわかったような気がしたんだけど、恋人とか、そういうのとはちがうわよ。

 なんていうんだろ、戦友っていうの?

 特別な状況下で一緒にいると、強い絆ができるっていうでしょう。

 そういう感じね」


「ふーん。

 それで、貴奈津をみると、すぐ抱きしめちゃうわけなのかねえ」


「でしょ。

 レイと抱き合っていたじゃない、同じことよ」


「それだけかな」


 月葉は疑いを拭いきれない。


「それだけよ。

 ほら、最初にローユンが現れたとき、ローユンは月葉も抱きしめようとしたじゃないの。

 月葉が避けるものだから、諦めたみたいだったけど」


「あたりまえだろう。

 いきなり見ず知らずの男に触られたくない」


「ま、それもそうかもね。

 とにかく、そういうことよ。

 ナーディはローユンの恋人じゃないわ。

 もし恋人だったりしたら、あまりにも可哀想じゃないの。

 大昔に離ればなれになっちゃって。

 わたしだったら、そんなのイヤよ」


 言いながら、貴奈津の瞳が潤んでくる。


 思いやりが深いというか、感情移入が激しいというか、どちらにしても、これは貴奈津の美点であるには違いない。


「わかった、わかった。

 それじゃ、ぼくはレイに頼まれたことがあるから」


 狼狽え気味に、月葉は椅子から立ち上がった。


 自分の言い出したことで、貴奈津に悲しい夢を見られてはたまらない。


「おやすみ」


 言いながら月葉は、貴奈津に顔を寄せた。


 頬に軽くキスをする。


「うん、おやすみ、月葉」


 笑みを取り戻して、貴奈津があいさつを返した。


 貴奈津の部屋を出た月葉は、自室の前を通りすぎ、階段へ向かった。


「ふーむ。

 貴奈津の感覚が当たっているとすれば、ローユンがいきなり貴奈津に手を出す危険は、とりあえずなさそうだな」


 おそろしく無遠慮なことを呟きながら、階段を降りていく。


 ふわふわした薄手のクッションのようなものを、小脇にかかえていた。


「貴奈津の部屋から持ってきてくれ」


 と、レイに仰せ付かったものである。


 場所は一階の、イーライの隣の部屋まで。


「しかし、まだ油断はできないぞ」


 自分を戒めておく。


 月葉はレイに指示された一階の客室をノックした。


「持ってきてくれたか」


 ドアを開けたのはレイだった。


 普通に床に立ったのでは、ドアノブにぶら下がってしまうので宙に浮かんでいる。


「うん、これだろう」


 クッションふうの物をレイに手わたし、月葉は何気なく視線を室内に向けた。


「うっ……」


 思わずうめく。


 客室にはビクトリア王朝風の家具が備え付けてあって、その長椅子にローユンがかけており、それはいいのだが、イーライが隣にいた。


 そして、そこまでなら月葉も呻きはしない。


 イーライの手がローユンの胸元をなぞっていた。


 これは何事か。


 個人の趣味をとやかくいうつもりは毛頭ないが、女性を口説くにせよ、男性を口説くにせよ、ぼくの目の前では慎んでくれ。


 月葉が口に出してそう要求しかけたとき、イーライが振り向いて月葉を手招きした。


「月葉も見てごらん。

 ローユンの身につけているアクセサリー。

 すばらしく芸術的な細工がしてある」


 ネックレスをなぞっていたらしい。


 月葉はカクッと膝を落とした。


 危ないことを言うところだった。


 気を取りなおし、体勢も立てなおす。


「いえ、けっこう。

 ぼくは興味ないから」


「ファッションに気を配らないと、モデルにはなれないよ。

 せっかくのよい素材なのに惜しいね」


「ぼくはファッションモデルなんかになるつもりはないよ。

 なりたかったら、あなたがなればいい」


 イーライは白い歯を見せた。


「アルバイトでやってみないかと持ちかけられたことがあるけれどね、本業とバッティングするので断った」


 顔からは、事実なのか冗談を言っているのか判断はつかない。


「この男なら、ありえないことじゃない」


 と月葉は思ったが、それを口に出すとイーライが喜びそうなので止めておく。


「あっ、そう。

 じゃあ、用はすんだから、ぼくはこれで。

 おやすみ、レイ」


 そっけなくイーライを突き放し、挨拶はレイにだけして、速やかに月葉はドアを閉めた。


 呼び止める暇もなかった。


「うまくいかないものだ」


 閉じられたドアを見つめ、ローユンがつぶやく。


 レイが素早くベッドの上で起き上がった。


「気にするな、ローユン。

 あいつら、てんで昔の記憶が甦らないんだ。

 おまえは月葉の中にスゥーディを見ているかもしれないけど、月葉はおまえを憶えていないんだから」


 慰めの言葉をかけて、またベッドに寝ころがる。


 レイの頭の位置に、月葉が持ってきたクッションがあった。


 どうやらレイの枕だったらしい。


「ありがとう、わかっている」


 素直にうなずくローユンを見て、イーライはめったにない気分になった。


 励ましてやりたくなったのである。


 イーライは咳払いした。


「月葉のことは心配ない。

 彼は少し複雑なタイプなんだね。

 時間はかかるかもしれないが、それだけのことだよ」


 言ったイーライを見つめ、ローユンは微笑んだ。


 ローユンの深い海色の瞳が、けっして落ちこんでなどいないことを示していた。


「よし、よし。

 こうでなくてはね」


 口の中で呟き、イーライはなぜか満足した。


 そして、満足した自分に気づき、内心で首を傾げたのだった。


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