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所谷優明は目が覚めた。
病院のベッドの上だ。
まだ32歳なんだけど胃ガンにより入院中だ。
比較的早期に発見できたので外科手術はしてない。
内視鏡を使った粘膜切除術という治療を受けた。
発見が早くてガンの大きさが2センチもなかったので内視鏡治療で終わった。
酷ければ外科手術や抗ガン剤を用いた化学療法になっていた。
毎年受けている健康診断で胃の検査を受けてみたら見つかった。
これは運が良かったというべきだろう。
30代男で胃ガンになる確率としては10万人に10人ほどだと言われてるそうだ。
その中の1人になってしまったのは残念だが早期発見で早期治療できたのはタイミングが良かった。
優明は独身でもあったので入院しても見舞いに訪れる者はいなかった。
1週間の入院なので関係者以外に知らせることもあえてしてなかった。
自分の親などにもだ。
今日で無事に退院なので事後報告で十分だろうと考えていた。
午前中に医師の診察を受けてからめでたく退院。
まっすぐ大田区蒲田の自宅マンションに戻った。
和歌山県出身で上京してからはず〜っと蒲田で独り暮らしをしている。
病み上がりということもあって外には出ずに部屋ですごすことにした。
帰ってくる前にスーパーで買いものはしていた。
油っこいものなどはしばらくひかえておこうと思ってうどんとか野菜を買っておいた。
コロッケみたいな揚げものや肉類もひかえておこうと購入はしなかった。
よりによって胃ガンだったからだ。
胃に悪そうなものは避けておこうと思ってのことだ。
胃ガンであると告げられた時はどこか他人事のようで実感はまるでなかった。
入院してみて事の重大さに初めて気づかされた。
痛みがあるとかの自覚症状がなにもなかったのでピンときてなかったというのも大きかった。
とにかくしばらくは安静にしておくべきだとの思いが強い。
昼間のうちはまだよかったが夜になると急に不安になってきた。
窓の外はまっ暗。
そしてテレビもつけてないと静か。
そんな暗さと無音で急に心配になってくる。
相談できるような身内が近くにはいないのでますます不安になってしまう。
う〜んとなにを心配しているのかというとガンの再発と転移。
今回は治療はできたがこれからどうなるか?
再発するかもしれないし、もしかするとすでに転移してるかもしれない。
そう考えると転移のほうが現実的には怖い。
臆病者ではないと自分では思っているが病気は正直にいって怖い。