2-6 休憩、雑談
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結局、トラの銃の整備方法の講習は午前中いっぱいかかったようだ。兎は店頭に並べていた数種類の銃の分解方法、メンテナンス方法、組立方法等々……とにかく多くの知識を詰め込まれていた。そろそろ頭のキャパシティが限界を迎えたのか、頭から煙が出ている様子。流石にトラもそれに気付いたのか、昼休憩をとることを提案した。店長も了承し、他の面々と共に食事を摂る。
今日も兎は携帯食料を持参してきたらしい。小さな袋から干し芋のようなものを取り出して食べている。トラとリュウは棚に並べられた干し肉を何個か選んで勝手に食べた。いつもだったらぶん殴ってるところだが、今日こいつ等が納品した武器の対価として水と併せて精算してやることにした。
しかし、せっかく昨日補充した新鮮な肉を早速消費され、少し腹が立つ……。
ふと、食事中の兎と目が合った。今朝来た時にはこの姉弟に怯えていたが、今はどうだろうか。
「どうだ、そいつ等には慣れたか?」
兎にそう聞くと、ゆっくりと干し芋を噛みしめた後に答えた。
「はい。最初は「うわぁ、今日は変態のバーゲンセールだなぁ」って思いましたけど。慣れるととっても良い人達です!」
「「な!?」」
「どっちかっつーと、ワゴンセールだけどな」
店長は無表情ながらかカカカと笑いながらそう言うと、リュウが涙目でツッコむ。
「んもう! 酷いわ店長! 誰が売れ残りよ! アタシは店長用の非売品よ!? っていうか、兎ちゃんも地味に酷い事言わないで〜」
「変態だとと思われてたのか……ヤバい、何かに目覚めそう」
「我が姉ながら、キショいわねぇ……」とドン引くリュウ。店長はフンと鼻を鳴らして兎を指さす。
「こいつ、しれっと暴言吐くから、お前らも気をつけろよ。無自覚なのがまたタチが悪い。」
「えぇ!? ご、ごめんなさい、多分、母に似て言葉選びが下手なもので……。と、とにかく、第一印象と違って二人は良い人だってことです!」
恍惚の表情をしていたトラが、ハッと元の表情に戻ると笑って応える。
「いいってことよ。オレ達、暴言には慣れてんだよ。フォローしてくれるだけでも有り難いぜ……。それに第一印象が悪い方が攻略し易いっていうしな。もしかして、もうチューならOKだったりする?」
「ごめんなさい、お断りします」
膝をつくトラ。
「短い言葉での拒絶が一番強いぜ……」
また店長は声だけ笑って言う。
「短い文言の方が強い、か。旧時代に流行ったTCGみたいだな」
「あら、また店長の旧時代雑学? ほんと好きよね〜旧時代文化。アタシはそんな博識な店長の方が、好♡き♡」
「死ね」
膝をつくリュウ。
「二文字……」
姉弟揃って膝をつく姿は滑稽だ。兎も少し遠慮がちだがケラケラと笑い、「w」と言うとリュウは「一文字で煽るんじゃあないわよ!!」とキレた。
どうやら兎はこの二人と上手くやっていけそうに見える。トラは無類の女好きだから心配はしていないが(別の意味で心配はあるが)、女に当たりの強いリュウと親しくなるとは思っていなかった。何かしらの処世術で上手く切り抜けたのだろう。三日連続で出勤したこと自体に驚いていたが、曲者姉弟の懐に入り込むとは。
少しだけ、兎を見直すことにした。
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昼食も食べ終わり、一息つく。時刻は一時。
午前から引き続き、銃の扱いについて説明をするらしく、トラと兎は改めてカウンターに座り直していた。が、そこで店長はあることを思い出し、二人の間に割って入る。
「トラ。座学も良いが、こいつに銃の撃ち方も教えてやってくれないか?」
「ん? あぁ、たしかに陽の出てる間にやった方が良さそうだな。わかったぜ! どうせなら店長やリュウも混ざって「弾丸ミントン」でもするか?」
おそらく聞き慣れないであろう単語に兎は首を傾げる。トラはすかさず補足した。
「「弾丸ミントン」ってのは、銃で撃った弾をナイフとか刀で弾き返し合う遊びだぜ! 基本的にはプレイヤーの眉間を狙うのがマナーだ! 楽しそうだろ?」
「なんですかそのデスゲーム……そういう処刑方法か何かですか?」
その兎のツッコミにトラとリュウはいまいちピンと来ていないらしく首を傾げる。
「やっぱりアレってアタシ達だけのローカルな遊びだったのかしら……」
「まじか。じゃあ、前にこの遊びに誘ってミスってた奴はルールも知らなかったのか。可哀想なことしたな」
兎がドン引きしてる。そんな遊びが大衆向けなわけないだろうに。店長は溜め息混じりで言う。
「久しぶりにやりたい気分だが、お遊びじゃなく、真剣な狙撃の練習をしてくれ」
「へいへい、わかったよー」
そう言うとトラは片腕で数種類の銃を抱え、もう片方の腕で兎を赤子のようにヒョイと持ち上げた。「わぁ」と小さく悲鳴を上げた兎はなすすべなく連れていかれた。パッと見、人攫いのソレである。
本来なら店番としては銃の撃ち方なんて不必要なスキルだが、あることが気掛かりでトラにもそれを確認して欲しかったのだ。
二人が店を出ると、リュウがいつの間にかこちら側のカウンターに入り込み、すぐ傍まで来ていた。
「店長、やっと二人きりになれたわね……♡」
リュウの頬を染めながらの呟きに悪寒&イラつきが走り、店長は気付くと殴っていた。リュウはそれすらも喜んでいるようだったのが更にムカついた。
兎とトラが帰ってきたのは午後三時頃だった。「帰ってきた」と言っても、店内からでも銃声が聞こえるほどの近い場所からだが。
二人は汗だくになっており、少し休憩しようとカウンターの傍に近寄る。すると、何者かによってボコボコにされたリュウが足元に転がっているのに気付いたようだ。驚いた兎に「気にするな」と店長は言うが、兎はあまりの様子に見兼ねてリュウの手当てを行った。
「あ痛たた……んもぅ、店長ったら、激しいんだから……♡」
嬉しそうに頭を押さえるリュウ。介抱する兎は真剣に心配そうに「頭、大丈夫ですか?」と聞いている。……やっぱりわざとやってんだろ、コイツ。
トラが一杯の水を飲み干すと、介抱の終わった兎に言う。
「そんじゃ、銃の授業は今日は一旦ここまでかな。一日に全部覚えるのは無理そうだしな。ちょっとずつ覚えようぜ。というわけで、続いては保健体育の授業だ。まず実習で女同士のセックーー」
「ありがとうございました。また明日よろしくお願いします」
「スルースキル高ぇ〜」
嘆くトラをこれまたスルーして兎はカウンターの店長へ歩み寄る。店長は日課の硬貨作りをしていた。
「銃の扱い、ちょっとずつ覚えてきました! 正直、まだあんまり銃自体は好きにはなれませんが……」
報告を受け、店長は硬貨作りを続けながら頷いた。
「好きになれとは言ってない。売る上での最低限の知識さえ付けば十分だ。銃の説明が終わったんなら、次は刃物か。おい、リュウ。出番だ」
ボロボロになったリュウの方に目配せすると、リュウはすぐさま立ち上がり「O〜K〜、店長〜」と嬉しそうに返事した。
「それじゃあ兎ちゃん、店内にあるアタシの子達の紹介からしましょうか。ちょっとこっち来て〜」
「は、はい! わかりました」
店内の武器の棚へと案内するリュウ。銃の説明や実習で疲労したのか、兎はワンテンポ遅れてリュウの後を追う。
それを見送ると店長は再び硬貨作りを再開する。カウンターの向かい側では、トラが実習で使った銃の手入れをし始めた。砂漠では細かい砂が銃の機構に入り込みやすい。小まめに掃除しなければすぐに故障してしまう。
一瞬、トラと目が合い何か言いたげな表情をしたように見えたが、すぐに目を伏せた。おそらく、後で話すのだろう。店長も聞きたいことがあったが、兎が帰った後にでも聞くことにした。少し離れたところでリュウが刃物についての説明しているのを聞きながら、お互い作業に没頭する。




