1-12 改造、戦車
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店長は操縦室の手前、二階へと続く階段を上がる。階段の先は天井。行き止まりのように見える。しかし、暗がりの中を手探りで探すと、手に引っかかる物がある。それを掴んで押す。錆びた鉄の擦れる音を発しながら天井の一部が開いた。
白い埃が流れ落ちるように降り注ぐ。その埃に店長は思わず小さくせき込む。咳込みながらも階段を上りきり、開けた部屋に乗り込む。続いて兎も部屋に入った。
真っ暗で何も見えない。足元の階段から漏れる微かな光では部屋の様子は全く見えない。部屋中乾いた独特な臭いで満たされている。
店長は記憶を頼りに壁際を歩いていき、壁を触るとスイッチがあった。
「ここは結構広いから、今日一日かけてゆっくり掃除するんだな」
言い終わったと同時に部屋の灯りが点いた。淡い黄ばんだ光が辺りを照らす。
一階よりも天井は低く、店長の頭スレスレの高さだ。広さも下の店より一回り狭い。室内はうっすらと灰色に染まっている。全て埃だ。店長も久しぶりにこの部屋に入ったが、砂埃がかなり溜まっているようだ。
この部屋の汚さに兎も驚くと思いきや、どうやらそれ以上に気になる物があっらしい。部屋の中央に置かれたとある物体に目が釘付けになっていた。たしかにそれは部屋は大きく圧迫し、存在感もある。
「なんですか……それ」
兎が呟くそれとは、厚い重圧を放つ重機。黒い鉄でできた大きな台座。台座には何層かに格納されている巨大な筒がついている。そうこれは言わずもがな、
「見りゃ分かるだろ。大砲だ。戦車に大砲はつきものだろ?」
そう言いながら、懐かしむように砲台に手を触れる。すると手には大量の埃がこびり付いてしまった。叩いて落とす。
「す、凄い……てっきりこの店(?)って、輸送用の運搬車かと思っていました」
「まぁ元々はそうだ。俺が無理矢理改造したんだよ。……あぁ、これもずいぶん汚れちまったなぁ。ま、随分放置してたからな。換気するか。たしか手動でも開いたはず」
店長はひとりごちりながら、大砲の先端部に向かう。筒の先の壁に両手を掛け、力を込めて左右に引くと軋む音を唸らせながら扉がゆっくりと開いていく。
陽の光が溢れ、乾いた風が部屋に入り込む。この扉から大砲を伸ばすことで、この戦車は文字通り戦う車へと変わる。
「あ、そーだ。火薬とか危険な物が多いから、注意しろよ」
部屋の両壁に山積みされた鉄の箱を指差す。鉛色の箱には「火気厳禁」と書かれている。おそらく漢字が読めない兎のために忠告した。
「あともう一つ、言い忘れてた。昼休憩は適当にとれ。一時間くらいな」
「わかりました。……できれば、お昼になったら知らせてもらえませんか?」
「ん。たしかにここじゃあ時間が分からんか。しょうがねぇな」
店長はエプロンのポケットを漁る。ややあってお目当ての物を取り出し、兎に放り渡す。
「昔使ってた腕時計だ。ちょっと前に新しい腕時計と時間合わせをしたところだ。十二時になったら休憩しろ。……いいか、お前に「貸す」だけだ。「貸す」だそ。「あげる」じゃない。いつか返せ」
そう念押すと、「あ、ありがとうございます」と兎は礼と共に受け取り、腕にはめようとするが、その細い腕には大き過ぎるようだ。
「ブカブカだな。ポケットにでも入れておけ。落として壊すなよ?」
「だ、大丈夫ですよ。……多分」
「ま、壊したらその分働いてもらうから、別にいいけどな」
「……ケチ」
「なんだと?」と店長は睨むが兎はそそくさと掃除の準備を始めた。チッと店長は舌打ちし、階段を降りていった。




