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嫉妬と友情と

翌日の放課後、紅林に頼んで今回の犯人を呼び出してもらった。もちろん要件は伝えていない。


誰もいない校舎の裏庭で一人たたずむ紅林。そこに一人の人物が現れた。


「二人で話したい用事って何、美鈴?」

 

そこに姿を見せたのは佐々木静香、紅林派の事実上ナンバー2であり、紅林美鈴の親友ともいえる人物である。


気づかれていないと思っている佐々木は何食わぬ顔で微笑んでいた。


それに対して紅林は腕を組んだまま何も話さない、ジッと佐々木を見つめ無言を貫く。


「どうしたのよ、美鈴?自分から呼び出しておいて……」

 

何かを感じたのだろう、佐々木は少し声を上ずらせながら問いかけた。


「それについては俺が説明しようか」

 

満を持して佐々木の前に姿を現す俺。今回の件を効果的に演出するため


今まで向こうからは見えない様に物陰に隠れていたのだが待っていた間、思いの外体勢がきつくて体中が痛い。


だが今はそんな事を言っている場合ではないので、それっぽく登場してみたのである。


「佐山君?どうして君が……」

 

俺の思わぬ登場で戸惑いを隠せない佐々木、それを見越したかのように紅林が口を開いた。


「今回、佐山君には個人的に手伝ってもらっていたのよ」


「手伝いって、何を?」

 

どこか不穏な空気を感じたのだろう、佐々木の声は微かに震えていた。


目は泳ぎ、言動にも動揺が明らかに見て取れた。


だが自分のやった事がバレるはずがないと思っている彼女は何とか動揺を隠そうと必死で取り繕う。ここでようやく俺の出番だ。


「紅林から〈掲示板にけしからんことを書きまくっている【ピクシー】とかいう人物を探し出してくれ〉


と頼まれたから俺が手助けした。その後はもう言わなくてもわかるよな?」

 

俺は佐々木を上目遣いに睨みつける。我ながら何ともキャラに合わない台詞と態度だが仕方がない


この演出、脚本、配役共に全て俺の発案なのだから。


その間も紅林は腕を組みながらジッと佐々木を見つめている


何も言わず、一切の感情を表に出さず、ただただ真っすぐ親友を見つめる紅林。


もちろんこれも俺の演出だ、感情が顔と態度に出やすい紅林にとってもキツイ演技だろう。だがその効果は覿面だった。


佐々木は顔面蒼白で膝をガクガクと震わせ、見ているこちらが哀れに感じるほど動揺していた。


「何の事?へ、変な言いがかりは、止めてよね⁉」

 

佐々木は必死で取り繕うが声まで裏返っていて既に〈自分が犯人です〉と自白しているに等しかった。


ここで〈そうよ、全て私の仕業、だからどうだというの?〉


と開き直るようであれば別の手を打たなければいけなかったのだが俺の予想通り、彼女は悪役になりきれない根は小心者の女子だったようだ。


我が家で放し飼いになっている悪魔共より余程善人なのだろう。


「ここに証拠がある、これでもシラを切るつもりか?」

 

俺が報告書を差し出すと佐々木はそれをひったくるように手に取り目を通す


そして目を大きく見開くと報告書を持つ手が震えはじめた。


自分の完全な敗北を知った瞬間だったのだろう。


だが次の瞬間、佐々木は予想外の行動にでた。


〈ワアアアアア〉と奇声を上げ何かを振り払うように報告書を破り始めたのである。


長い黒髪を振り乱し、まるで何かに取り憑かれたかのように一心不乱に目の前の報告書を破るその姿には


かつての物静かで清楚そうな美少女の面影はなかった。意外と往生際の悪い奴だったようだ。

 

佐々木は俺達の前でこれでもかと報告書を細かく破り捨てると、ハアハアと気を荒げ焦点の合わない目で地面を見ていた。


そんな彼女の姿を無言のままジッと見つめる紅林。その目にはすでに怒りはなく、かつての親友に哀れみの様な視線を向けていた。


「破り捨てても無駄だぜ、それは単なるコピーだからな」

 

俺の言葉にハッとこちらを見る佐々木。


「当然だろうが、本物はウチに置いてある。それとも今から俺の家に侵入してみるか?」

 

その瞬間、佐々木は絶望的な表情を浮かべ膝から崩れ落ちた。


まさか彼女がそんな奇行に走るとは予想していなかったので俺は


〈やべ~、今破ったのは本物でコピーなど取っていませんでした〉と心の中で呟いた。


さて、ここからが俺の出番だ。気合を入れないと。


「紅林、コイツをどうする?この事を皆に知らせてこの裏切り者を吊るしあげてやろうか?」

 

俺の言葉を聞いた佐々木はすかさず顔を上げると、悲壮感を漂わせながら口を開いた。


「止めてよ、そんな事をされたら私は……本気じゃなかったの、ごめんなさい、謝るから」


「はあ?謝って済むなら警察はいらねえんだよ‼」

 

俺は柄にもなく声を荒げて恫喝気味に言い放った。う~ん、今の台詞はいくら何でも陳腐すぎたな


しかも俺のキャラに合わない事この上ない。だが佐々木には相当堪えているようだ。


目に涙を浮かべ顔面蒼白でガクガクと震えている。ここまでくるとさすがに佐々木が可哀そうになって来るが


今回の俺の役目はまだ終わりではないのだ。


「ふざけるな、裏で散々悪口を書いておいて本気も嘘もあるかよ‼


紅林はな、お前を親友と思っていたんだ。それをこんな形で裏切りやがって、どう落とし前をつけるつもりだ、ああ‼」

 

俺は恫喝気味に佐々木に言葉をかけた。これでは恐喝罪が適用されかねないがまだ終われない。俺は更に佐々木を追いつめにかかる。


「本当にごめんなさい、美鈴……本気じゃなかったの、でも……」


「でもって何だよ⁉デモもストライキも無いんだよ‼」

 

俺はさらに言葉を続けた、やや調子に乗りすぎたか?センスの欠片も無い台詞でこれ以上ない程のチンピラ感で追いつめる。


佐々木は涙目でガタガタと震えながら完全に怯えてしまっていた。よしここで……


「ああ⁉黙っていたらわからんだろうが‼何か言って……」

 

その時、紅林が右手で俺を制し佐々木に近づくと、地面にへたり込んでいる佐々木と目線を合わせるようにしゃがみ、静かに話し掛けた。


「聞かせてくれる、なぜ貴方があんなことをしたのか?」

 

悟ったような表情で語り掛ける紅林は佐々木から見ればまるで菩薩に見えただろう。


そして佐々木は声を震わせながら静かに語り始めた。


「わ、私、悔しかったの……中学まで生徒会長やクラスのリーダーとしてやって来てこの学園でもそれができると思っていた。


でも、美鈴を見て勝てないと思った、美鈴は可愛くて、しっかり者で、みんなに好かれていて、裏表がなくて、本当にいい人だった……


だから悔しかったの、美鈴の存在によって私が凄く惨めで、美鈴がいる限り絶対に一番になれないとわかったから……


でも美鈴を嫌いにはなれなかった、こんな私にも凄く優しくて本当に友達だと思ってくれて……


美鈴を友達だと思っているのは本当よ、でもその清廉潔白さがどうしても許せなかった


嫉妬でドス黒くなった私のところまで落としたかった、汚したかった、それでやっと対等になれる気がしたから……


ごめんなさい、謝って済む問題ではないけれど、本当に……」

 

佐々木はそれ以上話す事ができなかった。感情が溢れて言葉に詰まっている様子だ。


そして美少女に似合わないくらいに顔をクシャクシャにしながら涙と鼻水を流していた。


「ああ、何を寝とぼけたことを言っているのだ⁉テメエが嫉妬に狂って誹謗中傷を書き込んだだけだろうが‼


何を下手な言い訳しているんだ、大体テメエは……」


「待って」

 

俺が罵詈雑言で佐々木を追いつめていると、それを制するように紅林が俺の言葉を遮った。


「わかったから、静香」

 

優しく声をかける紅林を驚きのまなざしで見つめる佐々木。


そして紅林は佐々木静香をそっと抱きしめると耳元で静かに語り掛けた。


「ごめんなさい、静香。私、友達なのに気づいてあげられなかった。ごめんね」

 

紅林の言葉にボロボロと大粒の涙を流す佐々木。そして子供のようにワンワンと泣きながら嗚咽交じりに謝罪の言葉を口にした。


「ご、ごべんなざい、美鈴。ほ、ほんどうに……ごべんなざい、ああああああ……」

 

嗚咽交じりに何度も何度も謝罪の言葉を口にする佐々木静香、それを優しく抱きしめる紅林の目にも薄っすらと涙がにじんでいた。


誰もいない放課後の校舎裏で涙を流しながら抱きしめ合う二人。


今度こそ彼女たちは本当の友達になれたのだろうと思った。


こうして紅林美鈴の抱えていた問題は解決した。

頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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