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怒りと困惑の報告書

翌日も沙羅は俺を無視する形で一言も話さないまま学校へと出かけて行った。


そのくせ俺の作った弁当だけはちゃっかり持っていくのだからいい性格をしている。


俺も気を取り直して学校へと向かいいつものように教室へと入る。


相変わらず紅林派の連中が朝からパリピ感を前面に押し出していて〈これが私達の青春〉と言わんばかりの空気が鼻につく。


考えてみれば今の俺は紅林派の一員と言えるのだが、どうにもあの連中とは相容れない。


そんな事を考えながら連中を見ているとまた紅林と目が合う。


しかし今日の紅林は俺を見て小さくうなずいた気がした。多分気のせいだとは思うのだが確かに俺はそう感じたのだ。


「どうかしたの、美鈴?」

 

横にいた佐々木静香が何かに気が付いたのか紅林に問いかけた。


「ううん、何でもないわ」

 

紅林は慌てて取り繕うように笑った。彼女は考えている事や感情が表に出やすく、どうやらポーカーフェイスは苦手なようだ。



それから数日が経ち、弁護士から〈情報開示請求の結果が出た〉と紅林から報告があった。


まだ紅林もその結果を知らない。その理由は俺が〈その結果報告書を一緒に見よう、絶対に一人で見るな〉と釘を刺しておいたからだ。


それは〈二人きりで会いたいから〉などという浮ついたモノではない。


一つ気になる点があって紅林と一緒に知る必要があったのだ。

 

紅林は俺の提案をあっさりOKしてくれた。この計画の発案者でもある俺の意思を尊重してくれたのだろう本当に律儀な奴だ。


意思の尊重、それは我が家には無い言葉だけに嬉しかった。


翌日、学校が終わると俺達は教室を後にして別々に待ち合わせ場所へと向かう。


そこは駅前にあるショッピングモールのフードコーナー。


夕方の店内はそこまで混んでいる感じでは無く周りから家族連れや他校の生徒のグループの会話が聞こえてきて適度に騒がしい。


「私、こういう所に来るのは初めて」

 

紅林は辺りをキョロキョロと見回しながら、どうにも落ち着かない様子だった。


「ウチの生徒は基本、お坊ちゃん、お嬢ちゃんが多いからな。こういう所にはあまり寄り付かないだろうと思ってここにした、嫌だったか?」


「別に嫌じゃないわ、確かに今まで教室でもほとんど話すことのなかった私達が二人でコソコソと密談をしていたら


おかしなことを考える人もいないとは限らないからね」


「木村あたりは喜んでスキャンダルにしかねないからな」


「スキャンダルって……芸能人じゃあるまいし。でも用心に越した事は無いわね」

 

紅林はおどけるように首をすくめた。


「じゃあさっそく報告書を見ようか、紅林もまだ見ていないのだよな?」


「見ていないわよ、貴方が〈絶対に一人で見るな〉と強く言うから……」

 

紅林にしてみれば一刻も早く知りたくて仕方がなかっただろうに、俺の言葉を忠実に守ってくれたようだ。


我が家の馬鹿女どもに聞かせたりたい。

 

紅林は早速カバンから茶色の封筒を取り出した。そこには〇〇〇法律事務所と書いてある


俺も紅林もドキドキしながら封筒の中から結果報告書を取り出しそこに書かれている名前を見て言葉を失う。


特に紅林は信じられないとばかりに顔をこわばらせ唇を微かに震わせていた。

 

しばらく無言のまま固まっていた紅林だが、急に懐からスマホを取り出すと誰かに電話をかけようとしたので俺はすかさずそれを止めた。


「何をする気だ?」


「決まっているじゃない、確かめるのよ。どうしてこんな事をしたのか、直接本人から……」

 

紅林は怒りと困惑で顔を紅潮させていた。もはや居ても立っても居られない様子だ。


俺が懸念したとおりだ、やっぱりこうなるか。一緒に見ることにして本当に良かった。


怒りと戸惑いに震える紅林に向かって俺は静かに言葉をかける。


「止せ」


「どうしてよ‼こんな裏切り、私の……」

 

紅林は声を震わせており感情が込み上げてきて言葉にならない様子だった。


「俺に考えがある、この件は俺に任せてもらえないか?」

 

紅林は視線を逸らし黙っていたが、しばらくして無言のまま小さくうなずいた。


「悪いな、お前にも思うところは色々とあるだろうがここは堪えてくれ、悪いようにはしない必ず紅林にプラスになるようにするから」

 

うつむいたままの紅林はボソリと独り言のような小声で言葉を発した。


「任せるわ……」


「ありがとう」


「どうして貴方がお礼を言うのよ」


「言いたかったから……かな?」

 

紅林は悲しそうに顔を上げ、精一杯の作り笑顔を見せてくれた。


「では、俺が考えている作戦を伝える」

 

そこから俺は今後どうするのかをなるべく丁寧に説明した。


紅林的には納得できない事も多々あったのだろうが彼女は何も言わず黙ってうなずいてくれた。


感情的にはかなり複雑だろうに、本当に大した奴だと改めて感心してしまった。


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