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女の戦い

「では三年生側が【女性】、一年生側が【男性】で決定です。それではディベート開始です‼」

 

開始を告げる合図と共に会場の視線が二人の美女に集まった。


先ほどまでの騒がしい雰囲気は鳴りを潜め異様なまでの静寂が会場を支配する。そんな中でまずは金本先輩が口を開いた。


「日本のジェンダーギャップは世界で125位と先進国の中でもかなり低い順位とされています。


これはアジア諸国の中でもインドネシア、フィリピン、ベトナムはもちろんの事、隣国の韓国や中国にも劣る順位です。


これはいかにこの日本において男女平等がなされていないか、男女格差が激しいか⁉という証明なのではないでしょうか」

 

のっけから強烈な先制パンチをくらわしてくる金本先輩。もはや勝ちを確信しているのか、その語り口には随分と余裕が感じられた。


今やジェンダー問題を含めた男女格差というのはもはや逃れられない程の波が来ていた。


さて美鈴はここからどう切り返すのだろう……

 

俺のそんな心配をよそに美鈴の表情には随分と余裕が感じられた。


「今、金本先輩は男女格差とおっしゃいましたが具体的にはどのような格差があるというのでしょうか?」


「それは色々な方面であります。例えば賃金格差などがあげられます。


男性と女性では平均賃金格差がかなりありますからね。これ以上わかりやすい差別はないと思いますよ」

 

金本先輩の言い回しは〈そんな事も知らないの?〉とでも言いたげな口調であった。


「しかし賃金格差と一括りにおっしゃいますが、私は同じ仕事をしているにもかかわらず女性の賃金だけ少ないという事例は聞いたことがありません。


具体的にはどういった職業において女性は差別されているのでしょうか?」

 

美鈴が鋭く切り返す。思いもよらない角度からの反撃に金本先輩は思わずたじろいだ。


「そ、それは……どの職業が?という具体的な事例は上げられませんが


実際賃金平均において男女格差が出ているというデータが出ているのですから、全体的に女性は差別されていると見ても良いと思いますが」


金本先輩がやや苦しい口調で答えると美鈴はすかさず反論する


「賃金というのは労働における対価であります。それは男女差別というより会社の規模や地位などに大きく左右される事が多いのではないでしょうか?


大きな会社の重役や経営者に男性が多い以上、必然的に男性の平均賃金が高くなるのだと私は判断しますが」


「そ、それは屁理屈よ。そもそも大会社の重役や経営者に女性が少ないのが大きな原因じゃない。


それこそこの日本という国が男性社会であるという動かぬ証拠だと思うわ」

 

理路整然と話す美鈴に対し焦りからか少し口調が変わって来た金本先輩。


二つも年下の相手に絶対有利だと思っていたのが思いの外苦戦を強いられ戸惑っているのがわかる。


「今、金本先輩は〈日本が男性社会という動かぬ証拠〉とおっしゃいましたが


どういうエビデンスをもって動かぬ証拠と定義付けたのでしょうか?


女性が重役や経営者になれない具体的な障害があるのであればそれはどのようなモノなのか、教えてください」


「そ、それは……だってそういうモノじゃない。日本は男性が中心で社会を動かしている。


全てが男性主体で女性は常に虐げられてきたわ。女性が大会社の重役や経営者が少ないのも全て女性が不遇だからに決まっているじゃない‼」


やや感情的な言葉遣いの金本先輩とは対照的に美鈴はあくまで冷静に言葉を発した。


「決まっているとはどういう事なのでしょうか?何らかの具体的な理屈や根拠があっての主張ならばともかく


〈そういうモノ〉とか、〈決まっている〉とか言われても正直判断しかねます。


もう少し具体的かつ論理的な説明をしていただけると助かるのですが」

 

金本先輩は顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。形勢は完全に美鈴に傾いていた。


このままではいけないと判断したのか、今度は金本先輩の反撃が始まった。


「ならば今度はこちらから聞くわ。この日本社会において女性の方が優遇されているという根拠を示してちょうだい」

 

金本先輩が強い口調で言い放った。これまでは向こう側の予想していない角度から意表を突く反撃が決まっただけに過ぎない。


いわば攻撃に対しうまくカウンターを取れたというだけなのだ。 


今度は攻守を変えてこちらの言葉尻を捕らえて反撃しようという意図なのだろう。


さすがにこのまま楽に勝たせてはくれない様だ……


「日本では女性専用車両という女性しか乗れない電車の車両もありますし


各サービス業では〈レディースデー〉などの女性のみが得られる特別な日が設定されています。


そして男女がデートをした場合、〈食事代は男性が出すべき〉、もしくは〈男性が多くを負担すべき〉という意見が多いのも特徴です


これは世界的にも日本人に多い傾向とアンケートなどで出ています」


「それは意識の問題じゃないかしら。デートの際には女性は服装や化粧などで時間とお金をかけているのだから


その対価として食事代ぐらいは男性が出すというはマナーだと思うわ」


金本先輩はそれが当たり前と言わんばかりに語った


「確かに、私はモデルをしているのでファッションや化粧などには非常に興味があります


そしてそれらに時間やお金がかかる事も否定しません。


男性でもおしゃれな人はいますがおしゃれに関しては女性の方が関心を持っている人が圧倒的に多いでしょう……」


「ほら、やっぱりそうじゃない‼女性の方が多く負担を強いられているのだからその対価として男性側が食事代ぐらい負担するのが当然のマナーだと思わない?」

 

金本先輩はここぞとばかりに目を輝かせ反撃に出た。しかし美鈴は少しもひるむことなくゆっくり首を振る。


「いえ、そうは思いません。そして今の話では私と金本先輩とではおしゃれに関する見解が全く違うと言わざるを得ません。


そして世間的にもその感覚はズレているのではないでしょうか?」


「それ、どういう意味よ⁉」


一気に畳みかけようとしていた金本先輩だったが美鈴の思わぬ言葉に表情が一気に強張った。


「私はファッションが好きなのです。可愛い服を着たい、化粧をして綺麗になりたい、素敵な装飾品を身に着け美しくなりたいという思いです。


デートの際には〈少しでも可愛い自分を見て欲しい〉という思いでおしゃれをするものでは無いのでしょうか?


決して相手の男性に媚びて食事代をおごらせるために時間とお金をかけておしゃれをするのではありません。


相手の為ではなくあくまで自分の為、自分が好きだからやっているのです」

 

美鈴の言い回しに金本先輩の顔から余裕が消え去った。


「誰が男に媚びて食事代をおごらせるためだけにおしゃれしているって言うのよ⁉いい加減な事を言わないで頂戴‼」


感情的になり言葉を荒げる金物先輩。美鈴はずっと意味深な微笑を浮かべている。


それは見かたによっては金本先輩を見下しているようにも見えた。それも癇に障ったのかもしれない。


「そうでしょうか?先ほど金本先輩は〈女性の方が多く負担を強いられているのだから


その対価として男性側が食事代ぐらい負担するのが当然のマナーだ〉とおっしゃいました。


確かに男性側からしてみれば食事代をおごるというのは金銭的な支出ですので負担といって差し支えないでしょう。


しかし女性のおしゃれを【負担】と評するのはどうなのでしょうか?


【負担】とは義務の仕事とか重荷という意味を指します。金本先輩がファッションを義務とか重荷ととらえている以上、


それは自分が好きでやっているのではなく目的の為に仕方がなくやっている事なのでしょう。


そしてその目的とは何か?と考えた時、金本先輩の理屈でいけば男に媚び食事代をおごらせるため……と結論したのです。


一部の男女に格差があるというのであればそういった考えを改めることがまずは先決だと思いますよ」

 

この短いやり取りで会場はにわかにざわつき始めた。戦前では金本先輩の圧勝もある⁉


と考えていた観客が予想外の展開に驚きを隠せずにいたのである。


「紅林嬢、エグいな……言葉尻を捕らえて反撃しようとした相手に逆にカウンターを食らわすとか。


しかも物語を勝手に作ってあたかも金本先輩がそう思っているかのように話を進めていくとか。


可愛い顔してやる事がえげつないで……」

 

俺の横にいる田所が小さな声で呟いた。おれも全く同じ意見である。


以前美鈴は俺に対して〈貴方とは口喧嘩はしない、勝てる訳がないもの〉と言っていたが


俺は心の中で〈何を言ってやがる、本気出したら口喧嘩も滅茶苦茶強いじゃねーか⁉〉というのが偽らざる気持ちだ。


俺は今後美鈴をからかうのはほどほどにしておこうとこの時強く思った。


「ちょっと、勝手におかしな理屈で人を決めつけないで、貴方の言っている事は滅茶苦茶よ‼」

 

縦ロールの髪を振り乱し、必死で反論する金本先輩。それは美鈴にではなく観衆に向かって〈私はそんな人間じゃない‼〉と訴えている様にも見えた。


「私の言っている事が滅茶苦茶だとおっしゃるのでしたらきちんと説明してください。


おしゃれやファッションを【負担】と評した意味を。


もしそれが単なる言い間違いという事であれば〈負担と言ったのは間違いでした、ここに訂正します〉と説明してください


であれば私もそれ以上この件について追及しませんが」

 

金本先輩は返答に困ったのか言葉が出なかった。それもそうだろう


ここで言われるままに訂正すればそれは美鈴の追求に追い込まれて頭を下げたように映るだろう。


それが見ている者たちにとってどのような印象を与えるのか、考えなくともわかる。


だが〈間違いではなかった〉と突っぱねれば おしゃれ=負担の発言の明確な説明を求められる。


さすがにそれは無理ゲーだろう。つまり金本先輩は美鈴の言葉巧みな理屈によって


行くも地獄引くも地獄というルートに追い込まれたのである。




頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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