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各学年の思惑

会場のざわつきが治まらない中で記念すべき第一試合が始まった。


皆が息を飲み緊張感が漂う中で三年生による論題が発表された。


【世の会社は週休三日制を導入すべきか?】 


政策的論題としては比較的スタンダードな論題である。


出題した三年生としてはこれで〈お手並み拝見〉といった感じなのかもしれない。


相手側の二年生もある程度想定内だったのか代表者はすぐに決まった様だった。


「この論題ならば当初の予定通り俺が行くぜ」

 

木村が意気揚々と立ち上がった。俺達もこういったよくある論題に関しては


〈この関連の論題ならば誰が行くか〉という事を事前に決めていたのである。

 

この論題に対して木村が代表になった理由は木村の父親が以前、テレビの討論番組でこの話題について話していたことがあったらいしい。

 

だがいざ試合が始まってみると木村の思惑は大きく外れた。


まずどちらサイドで討論するか?の要望が対戦相手とかぶり、その際のくじ引きで負け想定が崩れる。


そしてトップバッターの気負いなのか木村は明らかに空回りしてしいて要領の得ない内容になってしまったのだ。


ただ救いだったのは対戦相手もトップバッターの緊張からか明らかに動揺していて見るからにたどたどしい口調になってしまっていたのである。


学年の威信をかけたこの戦いの開幕戦は皆の期待を見事に裏切る形となり、非常にレベルの低い内容になってしまった。


わかりやすく言えば〈グダグダの泥試合〉になってしまったのである。

 

第一試合の判定は39対63。内容的にそこまでの差はなかったと思うのだが、どうやら木村の無意味で偉そうな語り口が判定員に不快感を与えたらしい。


結果的に我ら一年生は24Pのビハインドでの開始となった。


対戦が終わり木村も対戦相手の二年生もガックリと肩を落としうなだれながら引き上げていった。


会場から起こるパラパラとしたまばらな拍手がその試合内容を物語っており、見た目的には両者負けといった感じである。


第二試合の論題は【子供のCHATJPT使用は制限すべきか?】という今時というか、少しひねったテーマでの出題である。


我らの二番手は松金が出場することとなった。松金は上級生相手に奮闘するも少し硬さが見え


48対54という僅差ながらも6Pのビハインドを重ねる結果となり、合計で30P差となった。


「すまない、ここで盛り返したかったのだが……」

 

形的には二連敗というスタートに責任を感じている様子の松金。


皆が〈大丈夫、大丈夫。悪くなかった、これからだよ〉と声をかけるが流れ的にあまり良くないことを感じていた。

 

第三試合の論題は【消費税の比率は将来上げるべきか、下げるべきか?】という随分と踏み込んだテーマが掲げられた。


「ここはワイの出番やな、一発逆転と行くで‼」

 

意気揚々と出て行く田所。こういう時のコイツの性格は少し頼もしい。

 

いざ試合が始まると田所の弁舌は冴えわたった。


相手も決して悪くない内容だったのだが、田所は上級生相手にまるで格下を扱うように持論を展開し


時折ジョークを交えながら会場を沸かせた。結果は68対34という圧勝。


今までの嫌な流れを吹き飛ばすかのような大逆転である。こうして我ら一年生は二年生に対して4pリードしたのである。


「何や、満票やないんかい。判定員はどこ見とんねん」

 

討論の内容が会心の出来だったのか、田所は不満顔だったが一年生の応援席を含め我らの陣営は大いに盛り上がった。


そんな中で木村一人だけが複雑な表情を浮かべていた。

 

第四試合の論題は【社会において容姿は重要か?】という随分とセンシティブなテーマの出題である。


この論題は高校生ながらモデルをしていて誰もが認める美少女の美鈴が出てくることを想定した出題だろう。


このテーマにおいて〈容姿は重要である〉というサイドに立った場合、内容次第ではかなりの悪印象を与える事になる。


俺達一年生のトップである美鈴にダメージを与え俺達の勢いを消すために三年生が用意した論題なのだろう。


さすが生徒会も牛耳る三年生、一筋縄ではいかない様だ。


「少し意外な論題だけれど、このテーマなら私が出るしかないわね」

 

覚悟を決めたかのように美鈴が前に出る、もちろん誰も異論などない。


「じゃあ行ってくるわ」

 

背筋を伸ばし堂々と出て行く美鈴の姿は自信と気品と覚悟が感じられた。


俺はその後ろ姿に思わず見とれてしまう。それは美しいというよりかっこいいという言葉がピッタリきた。


二年生は学年トップの加藤匠。互いに学年の代表同士、事実上の大将戦という訳である。

 

美鈴は当然のように〈容姿は重要である〉というサイドを取った。


どちらかというとアウェー感が強い中で美鈴は上級生の代表相手に堂々と討論を繰り広げた。揺るがず、怯まず、媚びず、大胆に、そして誇らしげに語ったのである。


その姿には威厳すら感じられた。まさに美鈴にしかできない討論だったと思う。


相手側の加藤匠先輩もさすが学年代表と思わせる語り口であったが客観的に見て美鈴の方が押していた。


俺が立場的に客観的に見られているのか?という疑問はこの際おいておこう。


討論時間の五分はあっという間に終わりをつげ、いよいよ判定となる。結果は61対41 美鈴の快勝である。


単純なポイント差だけならば田所の方がつけているがこれは学年代表同士の戦いなのである。


そこで快勝したという事は事実上我ら一年生が二年生に完全勝利したと言っても過言ではないのだ。


これにより一年生対二年生の対決結果は216対192となり、24ポイント差というリードで終わることができたのである。

 

一年生側の応援席では抱き合って喜ぶ者もいてこれ以上ない程の盛り上がりを見せていた。


それとは対照的に二年生側の応援席と陣営は誰も喋らずお通夜のように静まり返り重苦しい空気が漂っていた。


そんな時である。


「まだだ、俺達はまだ負けた訳じゃない‼」

 

二年生代表である加藤匠が皆を鼓舞するように叫んだ。


「まだ三年生との試合が残っている、諦めるのはまだ早いぞ‼」

 

すると二年生全体が少しずつ元気を取り戻していった。自身の敗戦直後にこれだけの事を言えるのはさすが学年代表だ。


それを見た俺と美鈴は思わず微笑んだ。


「さすがだな」


「ええ、そうね。まだ二年生は死んでいないわ」


「俺達にとってもここで二年生が死んでもらっては困るからな。最も強敵と予想される三年生に食い下がってもらわないと」

 

俺の言葉に美鈴も小さく頷いた。ここで二年生がモチベーションを下げ


三年生相手に大差で負けるようなことがあれば最終戦は俺達一年生と三年生による完全なマッチレースとなってしまうからだ。


俺達にしてみれば二年生には三年生と互角の戦いをしてもらい、リードを保ちながら最終戦に持ち込みたいという思惑がある。


二年生VS三年生の対決まで10分の休憩があり、その間、俺達は用意していたメモを取り出し急いで話し合いを始めた。


俺達には事前に考えて来たプランがあった、それは状況に合わせてどんな論題を出題するか変動させるというモノである。


わかりやすくいえば今現在、俺達一年生は二年生に対して24Pのリードを保っている。


それはつまり二年生と三年生の戦いが互角、もしくは24P以内で二年生がリードして終わってくれれば


我々一年生は三年生と戦う時、事実上リードを保ったまま迎えることができるという訳である。


その為に二年生と三年生の代表者の事を一人一人徹底的に調べ上げた。


得意科目、家族構成、趣味、交友関係、バックボーン、性格などである。


判定員の裁定を誘導できない代わりにどちらかが勝ちやすいように論題で調整しようというのだ。


今回の場合、なるべく二年生に有利な論題を出題する事に徹するという訳である。


もちろん二年生がリードしすぎては元も子もないのでそこはその都度論題を変更して調整が入るという訳である。


そして各学年の思惑と願望が交錯する中で三年生VS二年生の試合が始まった。


我々は集めたデータを駆使しなるべく二年生が有利になる論題を出題したのだがさすがは最上級生


第三試合まではほぼ互角の展開で進んでいた。そして迎えた第四試合


三年生がややリードの状況で二年生のエース、加藤匠先輩が奮闘し大逆転勝利をもたらす。


三年生VS二年生は二年生の32Pリードで終結した。歓喜に沸く二年生の応援席と陣営。


特に加藤匠先輩の喜びようは凄まじく、全身で勝利の感激を現していた。


学年を背負って戦った最終戦などは物凄いプレッシャーもあったのだろう、目にはうっすらと涙も浮かんでいた。

 

だがこの結果は我々一年生にとって悪くない展開であり概ね想定していた範疇での結果となる。


ただ気になった点が一つだけあった。それは二年生との対決において三年生のエースであり現生徒会長である杉本正信先輩が一度も出てこなかったという事である。

 

この大会では一人の人間が二回までしか出られない、つまり杉本先輩は我々一年生との対決において二回出てくる可能性が高いという事だ。


これは単なる偶然か?それとも我々一年生を警戒してあえて温存してきたのか?


それがわからないだけに不気味であった。わかっているのはそう簡単に勝利することはできないだろうという事だけである。


不気味さと不安を残して我々一年生は三年生との決戦に挑むことになるのであった。

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