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闘志と決意と

俺の出した意見は概ね好評だった様で、不機嫌そうな田所を除き皆納得の表情を浮かべていた。


「どうやら佐山君の出した意見で異論はなさそうね?じゃあ我々一年生はこの内容で生徒会に提出します、いいですね?」

 

美鈴が皆の顔を見回しながら確認を取る。もちろん異論など出るはずもなかった。


そしてこの案はおそらく採用されるだろう。


このディベート対決はわかりやすく勝ち負けが決まるし、何より盛り上がる。


そしてもし二、三年が拒絶すれば〈逃げた〉と言われかねないからだ。

 

そんな盛り上がる中で田所だけは仏頂面を浮かべていた。


「佐山、また余計なことしてくれたのう、おかげでワイの計画は滅茶苦茶や」

 

隣に座っている田所が俺にだけ聞こえるような小声でボソリと話し掛けて来た。


「お前の計画とかどうでもいい、俺は自分の役目を果たしただけだ」


「自分の役目って……ワイの事を手下とかぬかしたがおどれこそ紅林嬢の手下やないかい‼」


「人聞きの悪い事を言うな。俺は手下じゃない、美鈴の忠実な下僕だ。間違えるな」

 

俺の返しが予想の斜め下だったせいか、田所は呆気にとられたまま何も言わなかった。


その時視線を感じた俺はふと顔を上げると美鈴が物凄い目で俺の事を睨んでいた。やべー聞こえていたのか、今の会話……


こうして我が一年生は【学年対抗ディベート対決】という提案を生徒会に提出し、予想通りそれが採用される事となったのである。



数日が経ち、いよいよ【学年対抗ディベート対決】が正式に開催されることになった。


我らが提出した草案を元に生徒会による細かなルールが設定された。それは以下の通りである。


・チームの代表は五人、各学年の対戦は試合時間が五分の四試合とする。


・論題は対戦していない学年から発表され、その後それぞれのチームから代表者を決めディベート対決を行う。


・判定は対戦していない学年の生徒全員が各自行い、獲得した票数をポイントとして加算する。


・代表者は一人二回までしか出場できない。


・論題が発表された後、各チームはどちらサイドで討論したいか希望を出し


それぞれの希望が重なった場合はくじ引き、分かれた場合は両者の希望通りのサイドにて討論をする。


・判定において票数の多かったチームに投票した者のみ個人成績に反映させる。


・各学年の対戦の順番は当日のくじ引きにて決める。


・論題はなるべく公的なモノが望ましい。



 改めて定められたこのルール表を見て美鈴をはじめ委員会メンバーは思わずうなった。


「概ね私達の草案が反映されてはいるけれど、このルールだとディベートが上手い人間が一人二人いたとしても勝てないという仕組みね」


「そうだな、一人二回しか出られないというのがキモだ、完全に総合力の勝負という訳だ」


「各学年との対戦は四試合、つまり対三年生に四試合、対二年生に四試合の計八試合か」


「誰をどこに投入するかが勝負のキモになりそうやな、ええところでワイの出番を頼むで‼」

 

皆、少し不安を抱えながらも勝負が待ち遠しいといった感じである。決戦を前に皆の熱が高まっていくのがわかる。


だがそんな士気上がる連中とは対照的に俺の気持ちはこれ以上ない程盛り下がっていた


目立つことが嫌いで何より孤独を愛する俺は全生徒を前にして堂々と討論を交わすなど言語道断である


俺は代表者に選ばれないようにできる限り気配を消しその場をこっそり抜け出そうとした。


だがその瞬間、後ろから美鈴にシャツを掴まれた。


「どこに行くの、大和?」

 

美鈴は表情こそ笑顔だが、それとは裏腹に言葉には凄まじいまでの圧を感じ俺は思わずたじろいだ。


「いや、その……ちょっとトイレに」


「もう少し我慢しなさい」


「できません、漏れてしまいそうです」


「じゃあ漏らしてもいいからもう少しここにいなさい」

 

天使のような笑顔で悪魔のような言葉を吐く美鈴。もちろん俺に拒否権などない、俺は女王様のおおせの通り粛々とその場に残ることになった。


「じゃあ代表者の五人を決めるわ。私と松金君と木村君、そして田所君と大和でいくわ。


これが今考えられる限りの最強メンバーだと思う。異論はないわよね?」

 

美鈴の言葉に誰もが納得の表情を浮かべていた。美鈴の独断と偏見によって選出した代表選考案は民意を反映し圧倒的過半数で可決したらしい。


ここに一人異議、反論したい者がいるのだがその小さな声はどうやら届きそうにない。


少数派の声は大勢には届かないというのが世の常である。昨今言われている様な個人の意思の尊重とか多様性の時代とか


そんな言葉が綺麗ごとで空しいモノである事を証明した瞬間だった。


 

いよいよ【学年対抗ディベート対決】の日が来た。


全校生徒が収容できる第一会議室には特設会場が設置され各生徒には座る位置が指定されていた。


この会議室は国会議事堂をモデルに作られており、学年の威信と名誉をかけた決戦となれば否が応でも気持ちは高まっていく。


そしてこの【学年対抗ディベート対決】はヨーチューブでもライブ配信されアーカイブには記録として残る。


もし醜態をさらせば多くの人の目にさらされ、未来永劫恥として語り継がれる可能性もある


つまり政治家希望の人間にとってデジタルタトゥーになりかねないという訳だ。

 

第一会議室に入るとその雰囲気に思わず息を飲む。


俺達一年生にとっては初めての第一会議室であり、その国会会議場を彷彿とさせるフォルムに圧倒される者


感動する者、緊張する者とそれぞれであった。

 

そんな中でひときわ目を輝かせている者がいた。もちろん我らが女王様 紅林美鈴である。


「ねえ、大和。ここからよ、ここから始まるのよ」

 

美鈴は具体的な事は何も口にしていないが彼女の言いたい事は何となくわかった。


「未来の事に思いをはせるより、今日の対決の事を考えて集中しろ」

 

俺の忠告に水を差されたのか、美鈴は不機嫌そうに振り向いた。


「ちゃんと考えているわよ。でも論題がわからない今から気負っても仕方がないじゃない」


「いや、そういう事じゃなくて。今日は全部で八試合ある訳だから


美鈴と松金、木村、田所がそれぞれ二試合出場すれば俺の出番は必然的に無くなるだろう?だからそういう方向で頼む」

 

俺がごく自然な流れで正当な主張をすると、なぜか美鈴はさっきとは打って変わった呆れ顔を浮かべながら大きくため息をついた。


「ハア、大和。貴方はあくまで出場したくないというのね?」


「当然だろう」


「ここで活躍すれば貴方という人間を皆に知ってもらい、名を売るチャンスなのよ⁉」


「そんなモノはチャンスと言わない、俺にとっては単なる苦行であり迷惑だ」

 

美鈴は〈こりゃあダメだ〉と言わんばかりに首を振った。


「わかったわ、大和はあくまで秘密兵器として温存する方針で行くわ」


「ああ、それで頼む。秘密兵器は最後まで秘密にしていてくれ」

 

美鈴は〈ハイハイ〉と脱力した声で返事をした。彼女がこの公約を最後まで守ってくれることを祈るばかりだ。

 

対戦の順番は各学年の代表によるくじ引きによって決められた。


第一試合は一年生VS二年生。第二試合は三年生VS二年生。


そして最終戦の第三試合は一年生VS三年生となった。


「これより第一回【学年対抗ディベート対決】を開催する‼」


三年の代表であり現生徒会長である杉本会長から開会宣言が行われると広い第一会議室は大きな拍手に包まれた。


この学園ではまだ卒業生がいないので今は昨年の生徒会の人間が暫定として生徒会活動を行っているのである。


「あれが生徒会長の杉本さんか……」

 

美鈴は拍手しながら三年の杉本会長の姿をジッと見つめていた。


「確かにあの杉本という男は来月の生徒会選挙においてお前にとって最大のライバルになる存在だが、今はこの大会に集中しろ」


「わかっている、わかっているわよ……」

 

美鈴は言葉でそう言いながらも気持ちが抑えきれない様子で


〈見ていなさい、必ずその席から引きずりおろしてやるから〉と言わんばかりに目をギラつかせていた。

 

ヤレヤレ、女王様の負けん気の強さと上昇意識にも困ったものである。

 

この学園の生徒会選挙は六月に行われる。将来政治家を目指すこの学園の生徒において生徒会選挙は最重要イベントであることは言うまでもない。


今回の【学年対抗ディベート対決】は学年の威信をかけた戦いであると同時に生徒会選挙に向けての前哨戦的な意味合いも強い。

 

そんな理由もあり新入生であり知名度もない一年生の美鈴にとってはこの戦いは絶好のアピール場所であり


生徒会長を狙う彼女にとっては絶対に負けられない戦いなのである。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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