次の大勝負
学年統一戦から三日が経ち、俺は再び美鈴に呼ばれて会議に出席することになった。
前にも言ったが俺はクラス委員ではない、したがって会議に出席する理由が無いのだがもう今更である。
今回は我がクラスというよりA組とB組の合同であり、学年会議という意味合いがある。
A組からはいつもの四人と俺、B組からは田所と取り巻き三人が出席する。
今回俺は何の議題について話し合うのか聞かされておらず、相変わらずの雑な扱いになぜか少し安心した。
約束の時間になっても会議室に姿を見せないB組の連中に対し、美鈴を始め皆少し苛立っているように見えた。
「よう、お待たせ。競馬勝負以来やな、A組の諸君‼」
田所が取り巻きを連れフレンドリーな感じで姿を見せた。遅刻してきた癖にこの態度は相変わらずである。
そんな田所の言動に美鈴をはじめ松金も木村も思わず顔をしかめた。
「何や、ごっつ空気悪いのう。これからは仲間やんか、仲良くしてや」
軽快、というより軽妙なトークで話のペースを握る田所。勝負には負けたがイニシアティブは譲らないとでも言いたいのか?
おいおい、こんなので仲間としての話し合いができるのかよ。
仕方がない、ここは俺が……
「おい田所、約束した時間に遅れてきておいてその態度は何だ、まずは謝罪じゃないのか?」
俺の指摘に田所の後ろの三人の顔が強張る、そのリアクションからもどうやらこの遅刻は田所がワザと仕掛けたものでこいつらはそれに渋々従っただけのようだ。
「何や、固いこと言うなあ佐山君。ワイら共に戦った仲でこれからは仲間として一緒に戦う仲間やん
ジャンプ漫画なら熱い展開やで。それをそないに堅苦しいこと言わんでも……」
「勘違いしているようだな、田所。お前らは学年統一戦で負けたんだ。
したがって俺達の関係は仲間じゃなくて主従関係、つまりお前らは手下だ」
軽口をたたいていた田所の顔から余裕が消えた、田所は主導権を握るためにかき回そうと仕掛けて来た
田所はおそらく俺達はここから仲間としてやっていかなければいけない為、美鈴なら穏便に上手く収めてくれるのだろうとの読みだったのだろう
つまり田所の思惑としてあえて小さな火種を発生させ小火を起こし慌てて鎮火作業に入る美鈴たちをニヤニヤと見つめ〈ただでは従わない〉という意図があったのだろう。
だが俺はそこに躊躇なく油を注いだ。そっちがその気ならば小火どころか大火事にしてやるぞと言ってやったのだ。
それは田所に主導権は渡さないと明確に示した事になる。そもそも俺は正式な委員会メンバーではない
俺と田所の仲が悪くなってもいざとなったら俺がクビになればいいだけの話だ。
これぞトカゲの尻尾である俺の最大の強みだ。ピリピリとした空気が漂い他の者達が息を飲んで事の成り行きを見守っている。
そんな時、美鈴がパンパンと手を叩いて自分に注目を集めた。
「もうそのくらいにしなさい、大和。いくら何でも言い過ぎよ。
田所君のいう通り私達はこれから学年グループとして動いていく仲間よ、だからおかしなもめごとは止めて、いいわね」
それは俺に言いながらも田所へのけん制も含まれているのだろう。
思い通りの展開にならなかった田所は少し不満げな表情を浮かべていた。
もしかするとこういった展開を見越して俺を呼んだのか?だとしたら美鈴も中々にしたたかではあるが……
「じゃあ会議を始めるわ。議題は五月の学園行事の提案よ」
美鈴の言葉に松金と木村が小さく頷いた。田所はまだ機嫌が直らないのか目を閉じ腕組みしながら身構えるように俺の横に座った。
美鈴はそんな田所を気にすることもなく話を進める。
この学園ではいわゆる学校行事と呼ばれるモノがない。
普通の学校ならば当たり前のようにある学園祭、体育祭、修学旅行といったイベントが無いのだ。
そしてその代わりとなるモノを生徒側で決めてそれを実行するのである。
三年生、二年生、一年生と各学年の意見として学園側に提出しその一つに決められるシステムとなっていた。
「去年まではどうなっていたのだ?」
松金がふと疑問を口にした。
「一昨年はまだ一学年しかなかったから何もなかったみたい。去年は選ばれた数名の生徒が論文発表をしたみたいよ」
美鈴が答えると、木村が呆れるように口を開いた。
「論文発表⁉そんなの誰が喜ぶのだ?想像しただけであくびが出るぜ」
木村の意見を補足するように美鈴が答えた。
「実際あまり評判は良くなかったみたい。その時の動画もヨ―チューブにアップされていたけれど100回も再生されていなかったわ」
まあ当然だろう、いくら将来政治家を目指す優秀な生徒とはいえ短時間で考えた高校生の論文発表が面白いはずはない。完全な企画失敗だろう。
「やっぱりさ、盛り上がる事がしたいよな。文化祭や体育祭、修学旅行に変わるモノなのだから。学園全体で盛り上がる派手なイベントがいいと思う」
珍しく小崎が意見を出した。単なる賑やかしの盛り上げ要因としてしか存在意義のない男だが
ここで自分の存在をアピールしておきたかったのかもしれない。
ただ具体的な意見ではなく、単なる要望の域を越えない、いかにもパリピの意見と言った感じのモノだったが。
「盛り上がる事とはどういうモノを言っているのだ?具体的に言ってくれ」
松金からごもっともなツッコミが来た。当然予想できた意見だろうが問われた小崎は驚いた様子で明らかに動揺していた。
「えっ⁉それは、その……例えばみんなでキャンプしてBBQするとか、カラオケ大会とか、ボーリング大会とか……」
慌ててひねり出すように意見した小崎だったがそこにいるメンバー達から明らかに失望するようなため息が聞こえて来た。
「そんなのをやるくらいならば普通に学園祭や修学旅行をした方がマシだろ」
「そうだな、なぜこの学園が他校と違う行事をやるのか、その意義を示さなければいけない。今の意見にはそういったコンセプトが全く感じられない」
木村と松金に即否定されシュンとなる田崎。だがこれに関しては木村と松金のいう事が正しいだろう
そもそもそんな意見を出したらどういう扱いを受けるのかわかりそうなものだが。
「確かに今の小崎君の提案は却下だけれど皆が盛り上がるモノをしたいというコンセプトは正しいと思うわ。
政治にしても国民の心にダイレクトに訴えかける事が必要だと思うし
学園行事である以上自分達が盛り上がらないモノは見ている人達はもっと楽しくないと思うの」
美鈴が田崎を少しフォローするように補足した。その時、ここまで無言を貫いてきた田所がスッと手を上げた。
「田所君、何か意見があるの?」
美鈴が少し驚いた様子で問いかけると田所はギラついた目を美鈴の方に視線を向けた。
「意見はあるで。だがその前に紅林嬢に一つ聞きたい事がある」
「何かしら?」
「今回の学園行事はワイら一年にも存在意義を示す絶好の機会や。
つまり来月にある生徒会選挙、それを見据えての事なんか?」
反応を観察するように問いかける田所だったが美鈴は躊躇することなくキッパリと答えた。
「当然よ」
まるで迷う事のない美鈴の態度に田所の方が逆に驚いていたようだった。
「それで紅林嬢はどこまで狙っているんや?今回の選挙で生徒会入りを目指すのか
来年以降に生徒会会長を狙えるように布石を打つのか、それともいきなりテッペンを目指すのか?」
その答えにここにいる皆が注目していた。自分達のトップである美鈴の方針というか
どこを見て動いているのかはそれに従う者達にとっても最重要事項と言ってもいいからである。
そんな皆の思いを汲み取ったのか、美鈴は自信に満ち溢れた顔で言った。
「来月の生徒会選挙で私は生徒会会長になる、そして三年間生徒会会長のまま卒業するわ」
まるでそれが当然とばかりに美鈴は言い切った。松金は嬉しそうに小さく頷き
木村は口を半開きにしながら驚きを隠せない様子だ、そして田所は両目を見開き口元を緩めた。
「ええやないか、ええやないか⁉それでこそ我らの大将や、さすがワイに勝った女や‼」
皆が美鈴を認めひれ伏し一体になった瞬間だった。参謀としてこれほど気分のいい事は無い
俺は心の中で〈これが紅林美鈴だ、どうだ、凄いだろう‼〉と思わず口にしそうな気分になる。
まさに胸のすく思いだった。
「そういう事ならば結論は一つや。今回は学年対抗勝負で決着をつける、それしかないで‼」
意気揚々に田所が意見を出した。
「学年対抗勝負って、具体的には何をするのだよ⁉」
反射的に木村が問いかけると松金もそれに続いた。
「ひとえに勝負と言っても色々あるからな。学業や運動などではさすがに上級生に一日の長がある。
高校生という年齢を考えるとこの二年の差は大きいからな」
「そうだ、この前のような競馬勝負じゃ二、三年生は受けてこないぞ⁉」
木村が詰問するように問いかけた。松金はともかく木村は田所に対してまだわだかまりがあるようだ。
だが当の田所は気にする様子もなく大げさに両手を広げ笑いながら否定した。
「さすがにワイも上級生相手に学園行事として競馬勝負は仕掛けへんで。
そもそもこの学園では勉強や運動は評価されてへんがな、それなのにワイがそないな提案を出すわけあれへんで」
妙に持って回った言い回しをする田所に木村は明らかにイラついていた。どうやら田所には何か考えがあるようだが……
「ねえ、田所君。貴方はどんな勝負を提案したらいいと思うの?」
美鈴が皆の考えを代弁するように質問するが田所はチッチッチと人差し指を左右に振った。
「そこはもうちょっと自分で考えて~な、少し頭をひねればわかる事やで。
この学園の生徒が必要とされていて上級生に勝負を仕掛けられても逃げられにくく、そして抜群に盛り上がるモノや‼」
田所はどこか楽しんでいるかのように言い放った。何となく田所の言わんとしていることがわかってきた。
コイツ本当に駆け引きが大好きの勝負師だな。
田所の思惑通りなのかはわからないが美鈴をはじめ皆はまだわからないようだった。
特に木村は田所への対抗意識があるせいか苛立ちが頂点に達している様子だ。
またいつの間にか田所のペースになっていた。俺はもう口を挟まないつもりでいたのだが
美鈴が目くばせをするようにチラリとこちらを見てきた。ヤレヤレ仕方がないな……
「田所の言いたいのはおそらく【ディベート】による対決の事だろう」
その瞬間、皆があっと驚いたような声を上げ、田所がつまらなそうにガッカリとした表情を浮かべた。
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