勝負の駆け引き
そんな俺達の思いを知る由もなく、各馬順調にゲートの中へと入っていく。
百人以上の生徒が息を飲んで見守る中でガシャンという音と共にゲートの扉が開き
勝負の火ぶたが切って落とされると各馬一斉にゲートから飛び出した。
「行け―――‼」
どこからともなく歓声が上がる、見守っている各クラスの生徒たちもこぶしを握り締め興奮を抑えきれないようである。
各馬は地鳴りのような音を立てながら意思を持った集団のように一団となってコーナーを曲がっていく
そんな中でB組の軸馬である一番人気⑤番のウインタイガーは先頭から見て三番手のポジションに付けた。
「よっしゃあ、絶好のポジションや。さすがはトップジョッキーのクリストフ・ルメールや、この勝負もろたで‼」
田所が勝どきを上げるように右のこぶしを突き上げた。
その勢いに釣られるかのようにB組の生徒たちから歓喜に似た歓声が上がる。
そのリアクションを見て我がA組の生徒たちに不安の顔が浮かぶ。
美鈴も気になったのか俺に問いかけて来た。
「ねえ大和。競馬って前にいる方が有利なの?」
実に素朴な質問だが競馬の事を何も知らないのであれば不安になるのも無理はないだろう。
「いや、一概にそうとは言えない。競走馬には脚質というモノがあってタイプ的に
最初から先頭に立ってそのまま逃げ切りを狙う逃げ馬、前半から前の方に付けて最後に先頭に立つ先行馬
道中は中団から進んで最後の直線で差し切る差し馬、最後方でジッと脚を溜めて最後に直線一気を狙う追い込み馬という四種類ある。
どれも一長一短があって基本的にどれが有利とかはない。
まあ直線の長さが競馬場によって違うから広くて直線の長い競馬場ほど後ろから行く馬には走りやすいとは言われているがな」
俺が説明すると美鈴はいぶかしげな眼で俺を見つめた。
「貴方はなぜそんなに競馬に詳しいのよ、まさか馬券を買っていたりしないでしょうね?」
「そんな訳ないだろうが、ソシャゲで競馬のゲームをしているから知っているだけだ。
まあ俺のやっているゲームは馬じゃなくて馬の名前の女の子が競馬を走るゲームだけれどな」
美鈴は目を細めながら〈ふ~ん〉と言ってこちらを見ていた。
「じゃあ私達の馬、今は中段にいるけれど別に不利という訳じゃないのね?」
「まあ……そうだな……」
俺の言い回しが気になったのか、美鈴はすぐさま問いかけて来た。
「何よ、その微妙な言い回しは?」
やはり美鈴にはバレてしまったか。ここで誤魔化すのも後々面倒だしここは全て話すか。
「競馬には色々なファクターがある、例えば騎手や展開、コース取り、馬場状態などもそうだ。
そして脚質や枠順によるによる有利不利もその一つ、それこそが今回の田所の狙いだ」
「どういう事よ、田所君の狙いって⁉」
不安げなまなざしでこちらを見つめる美鈴、大きなモニターに映し出られているレースは中盤の向こう正面に差し掛かっていた。
「今回の京都開催は阪神競馬場の改装により少し変則的な日程が組まれている
だから田所は明日の東京ではなく今日の京都を選んだのさ」
「どういう事?わかるように説明しなさいよ⁉」
まるで詰問するように俺に詰め寄ってくる美鈴。
「今回の京都は久々の開催、つまり非常に芝がまっさらできれいな状態だという事だ。
通常競馬というのは逃げ先行馬が内側を通り差し追い込み馬が外側を通る事が多い」
そこで美鈴は何かに気が付いた。
「でもそれじゃあ外を走る馬は余計に長い距離を走ることになるじゃない」
「その通りだ、トラック種目の陸上競技でも外の走者はスタート地点が前に設定されているからな
競馬でもそれは同じで外を回るのは距離的に不利だ」
「だったら後ろから行く馬は不利という事じゃない⁉」
「いや、そう一概には言えないところが競馬だ。内を走れば距離的に有利になる、だから皆が内を走りたがる
だからその分だけ内の芝から荒れてきて段々走りにくくなる。
その結果距離を考慮して内を走るか、走りやすい外を通るか騎手の判断がカギになるな」
「だったら後ろから行っても不利は無いのね?」
美鈴の表情がパッと明るくなる。
「いや、だから言っただろう。今回は久々の京都、つまり内の馬場状態が非常に良い……」
明るくなった美鈴の顔が一瞬で曇った。
「じゃあ内側を走って前に行く馬が圧倒的に有利だって事?」
俺はコクリとうなずいた。
「だから田所はここまでのレースでも内枠の逃げ、先行馬ばかり買っていた。
ちなみに明日の東京競馬場ではGⅠレースのNHKマイルカップがある。
普通ならばそちらを選択するが田所はあえて今日の京都を選んだ。
それはこの京都新聞杯が目当てではなくあくまで狙いは……」
「芝がきれいで内枠先行馬が有利な京都競馬場……」
その瞬間、美鈴の表情から血の気が引いた。
「何や、気づいとったんかい。おどれはホンマに抜け目ないのう」
俺達の会話を聞いていた田所が意味深な笑みを浮かべながら俺たちの会話に割り込む様に言葉を発し、話を続けた。
「そこまで気づいとって③番のダーティーキングを買ったんかい。
内枠というのはいい目の付け所やが今の京都で差し馬はあかん、前が止まらないから届かんへんで。ホレ見てみいや」
田所が顎でクイっとモニターの方へと示すとレースはいよいよ終盤に差し掛かっていた。
各馬一団となって勝負どころの第四コーナーに差し掛かる、
画面越しにもピリピリとした空気が伝わって来て皆息を止めて勝負の行く末を見守っている。
俺達の狙った③番ダーティーキングは内埒沿いの中団におり、周りを大勢の馬に囲まれていた。
「見てみい、③番のダーティーキングは周りの馬に囲まれて動けなくなっとるやないかい
そもそもあの位置から上手く外に出せたとしてもとても届かへんで‼」
田所が勝ち誇ったかのようにモニターを指さす、それに呼応してB組の者たちは盛り上がりA組の生徒たちの表情が曇る。
「さあ、最後の直線や、行ったれ、ウインタイガー‼」
直線に入ると田所の声が届いたのかのように⑤番ウインタイガーが力強く抜け出した。
日の光を浴びてキラキラと輝く栗毛の馬体が躍動するように先頭に立ち後続を引き離しにかかるとB組の者たちのボルテージは最高潮に達する。
「もろたで、そのままぶっちぎれ、ウインタイガー‼③番は馬群に囲まれとる
今更うまく外に出せたとしてもウインタイガーにはもう届かん、勝ったで‼」
田所が勝利宣言のように右拳を高々と突き上げた。
「まだだ、まだ勝負はついていない」
俺がそういうと田所は余裕の笑みを浮かべて反論した。
「負け惜しみかいな、もう勝負はついた。今更あの位置から外に出しても絶対に届かへんで」
「届かないかもしれないな、外に出したら……」
俺が独り言のようにつぶやくと次の瞬間、A組の生徒たちから大きな歓声が上がった。
「何や、何が起こって……」
田所が慌ててモニターに視線を戻すと、そこには信じられない光景が飛び込んできた。
③番のダーティーキングが周りの馬たちを弾き飛ばすかのように馬群をこじ開け、前を走る⑤番ウインタイガーを猛追し始めたのである。
「そんなアホな……何でや……」
信じられないモノを見る目でモニターを見つめる田所、俺はニヤリと笑ってこう告げた。
「田所、お前は馬場を考え内枠と脚質の有利さを最大限に生かして予想したのだろうが、俺達は別の視点で考えたのだよ。
つまり展開と騎手を考慮して予想をしたんだ」
田所は俺の言葉に思わず戸惑いを見せた。
「展開と騎手やて?馬鹿な、内の馬場が良い以上、内枠の先行馬が有利なのは変わらん
それに⑤番に騎乗しているのはリーディングトップのクリストフ・ルメールや、隙はないで‼」
田所が自分にいい聞かせるように言い放つが、俺はその意見に淡々と反論した。
「いや、今回人気馬は⑤番のウインタイガーをはじめ逃げ、先攻馬ばかりだった。
そんな馬たちが皆前のポジションを取りに行って熾烈な先攻争いをしたらどうなると思う?」
その時、田所は俺の意図を理解した様だった。
「ハイペースか……」
田所が独り言の様な言葉を発すると俺はそれに無言でうなずいた。
「前に行く馬たちがこぞって先行争いをすれば自然とペースが上がり互いが潰し合うように体力を消耗する
そしてそれは後ろで控えている馬たちにとって絶好の展開になるんだ」
田所はゴクリと息を飲んだ。
「それでも今の馬場では外を通ったら届かへん、差し追い込み馬が内を突こうとしても、前が詰まったらそれで終わりやないかい‼」
田所が吐き捨てるように言うと俺はニヤリと笑みを浮かべながら反論した。
「前が詰まったらな、だが③番ダーティーキングに乗っているのはイン突きの名手、岩田康誠騎手だ
そして見事前に道が空けば、そこはビクトリーロードだ‼」
他馬を蹴散らし内埒に沿うように猛然と前を走る馬を追いかけるダーティーキング。
500kgを超える漆黒の雄大な馬体がまるで獲物を追うように前を走るウインタイガーとの距離をグングンと詰めていく。
先頭を走るウインタイガーの騎手は必死でムチを振るい逃げ切りを図るがその距離は目に見えて縮まっていた。
「行け――――、差せ‼」
「かわせ、捕えろ‼」
「いけいけーーー‼」
A組の生徒達が今までの鬱憤を晴らすかのように必至で声援を送る
B組の生徒達も負けずに必死で声援を送っていた。一年A組とB組の生徒以外誰もいない校舎の一室で悲鳴と怒号のような声がこだまする。
各人の思いが熱気となって会議室を満たしていく、それはまるで競馬場か場外馬券売り場のような鉄火場を思わせた。
直線残り200m、猛追するダーティーキングに必死で逃げ切りを図るウインタイガー
その脚色は歴然だがゴールはもう目前である、どちらが勝つのか全くわからない状態だ。
「気張れ、残せや、ルメール‼」
田所の必死の声援が会議室に鳴り響く、もうさっきまでの余裕は一切感じられない。
「差せ―――‼」
「勝って、お願い‼」
俺と美鈴も思わず声を出していた、こんなに熱くなったのはいつ以来だろうか?
そんな事を思う暇もないまま声を出す、そして一瞬にも永遠にも思えた時間は二頭の馬は並ぶようにゴールを賭けぬけた瞬間終わりを告げた。
皆が息を飲んでモニターを見守っている。
「ねえ、勝ったよね、私達の馬が勝ったよね?」
美鈴がモニターを見つめながら俺の右手の服の袖をつかみ揺さぶるように問いかけて来る。
「ああ、ハナ差だったが、俺達の勝ちだ」
モニターには【写真判定】の表示がされていたがすぐに結果は出た
勝ったのは③番ダーティーキング、ハナ差の勝利である。
「やったー‼」
③番の勝ちが確定した時、A組の者たちが歓喜の声を上げた。
普段仲間とか友達とかを冷めた目で見ている俺だったがクラスメイト同士が抱き合って喜ぶ姿にはどこか胸が熱くなった。
「やった、やったよ、大和」
美鈴も余程嬉しかったのか、俺の腕に抱き着いてきて飛び上がるように喜んでいた。
それとは対照的にB組の者たちは暗く沈みお通夜のような空気を醸し出していた。
誰もが押し黙り敗北を感じている様だった。
「まだや、まだ最終レースがある‼」
暗い雰囲気を吹き飛ばすように田所が叫んだ。それは負け惜しみにも聞こえたが確かにまだ終わってはいない。
勝負は下駄をはくまでわからないというのが勝負の鉄則である。
メインレースの京都新聞杯で単勝17倍を一点で当てた我々は一気に逆転を成し遂げた。
ここまでの経過を振り返ると我がAクラスは二十四万八千円、対してBクラスは十万八千円、その差は十四万円と大きく開いた。
「もう最終レースは今まで通りの送りバント作戦でいいのよね?」
「ああ、もう手堅くいって勝ち確定だ」
美鈴の問いかけに俺は笑顔で答えた。
「まだや、まだ終わらんで‼」
スポーツ新聞の競馬欄を見つめながら目を血走らせてオッズを睨みつける田所。
ここでスゴスゴと引き下がるような男ならばこちらも苦労はしない、さて、ならば少し揺さぶりをかけてみるか。
「田所、もう諦めたらどうだ?最終レースはダートの1400m。枠や脚質による有利不利もない。しかもダントツ人気の馬がいて荒れそうにないぜ⁉」
「黙っとれ、ワイはまだ諦めへんで‼」
田所はこちらを見もせず逆転を狙うべくオッズとにらめっこしていた。
闘志は衰えていない様だが明らかに追いつめられ切羽詰まった感じを受ける。よし計画通りだ。
いよいよ両陣営による最終レースの買い目が発表された。B組はダントツ一番人気である⑨番を一着固定で
二着に四番番人気の⑦番の馬単一点買い。オッズは16・5倍で的中すれば我々が一番人気の複勝を的中させたとしても見事逆転となる。
「どや、これを的中させて逆転サヨナラホームランや‼」
田所は目をぎらつかせて語気を強めた。だが次の瞬間、俺達の買い目を見て愕然とした。
「何や、その買い目は……」
「田所、お前が一発逆転を狙ってくることはわかっていたからな、だからそうはさせない買い方をしたまでだ」
田所が唖然とするのも無理はない。俺達が一番人気の複勝を当てたとしてもそれを逆転するためには一点買いで16倍以上
二点買いならば32倍、十点買いならば160倍以上のオッズが必要だ。
だから俺達は逆転させないように田所が買いそうな目を予想して買い
相手が当てても逆転させないように掛け金を配分したのである。
もちろん田所と同じ目も買ってある。
「そんなアホな……最後は手堅く送りバント作戦じゃないんかい⁉」
アテが外れた田所は明らかに動揺していた。それも無理からぬことでこの互いの買い目だと
もし田所の馬券が当たっても外れても逆転は不可能、つまり最終の12レースの結果を見るまでもなく我らA組の勝ちが確定するからである。
「この勝負は儲けることが重要ではなく、あくまで相手に勝つことが目的だ。
馬券が当たろうが外れようが結果的に勝てばいいのだからな。
ちなみにさっきの手堅く送りバント作戦で行くと言ったのはお前を油断させるための演技だ。
俺も美鈴も内心は冷や冷やしていたぜ」
俺達に踊らさられた事を悟った田所の顔色が変わる
「買い目を変更や、今から買い目を……」
焦った田所は買い目の変更を主張する。俺が美鈴を見つめると美鈴は無言で小さく頷いた。
「悪いな、田所。買い目の変更は認められない。あくまでそれがルールだからな」
田所は力なく膝から崩れ落ちた。こうして長かった学年統一戦は俺達A組の勝利で決した。
A組の者達はいかにも陽キャらしく勝利の感動を全身で表現した。
対してB組の者達はガックリと肩を落とし俯きながら押し黙ってしまいくっきりと明暗が分かれる結果となった。
こうして異例の馬券勝負による学年統一戦はわがA組の勝利に終わった。
競馬勝負が終わり日が傾いて来た頃、興奮も冷めやらぬまま皆が家路へと戻って行った。
あれほど熱狂の渦に包まれていた会議室も皆がいなくなるとガランとした静寂とどこか寂し気な空気が漂う。
薄暗くなった会議室で俺と美鈴だけが最期の戸締りの為に残っていた。
「窓の戸締りは確認したぜ」
「こちらもOKよ、じゃあ帰りましょうか」
俺と美鈴は管理人のおじさんに鍵を返し校門を後にした。駅までの帰り道で俺の方をチラリと見た美鈴がふと口を開いた。
「ねえ大和。一つ聞いていいかしら?」
「何だよ、改まって?」
「どうして大和はそんなに競馬に詳しかったの?ゲームをやっているというのでは説明できないくらい知っていたじゃない。
それに田所君の買い目も何となく予想できていたみたいだし」
さすがに美鈴も何かに気づいたようだ。
「何てことはないないさ。田所が必ず自分に有利な条件で勝負してくることはわかっていたからな。
問題はなぜ田所が競馬を自分に有利な勝負だと思ったのか?
という事だ。さすがの田所も本当に競馬はやっていなかっただろうからな」
「じゃあ田所君が競馬を選んだ理由がわかったの?」
美鈴の質問に俺は小さく頷いた。
「調べたら田所の母親の弟、つまり叔父さんにスポーツ新聞の競馬記者がいる事がわかった。
それで勝負に競馬を選んだことが判明したのだよ。実際奴は競馬新聞ではなく東都スポーツを持っていただろう?」
「そんなの気が付かなかったわ、ていうよりどうやってそんな事を調べたのよ⁉」
「田所の親父はそれなりに有名人だからな。今の世の中、調べようと思えばかなりの情報が手に入るモノだ。
個人情報とかプライバシーとかそんなのは言葉の上だけといういい証明だ。
東都スポーツの競馬記者、小森が田所の叔父だ。だから奴の買い目もある程度予想できた」
俺がカバンから東都スポーツを出し種明かしをすると美鈴は呆れたように俺を見つめた。
「田所君がなぜ競馬に詳しいか、大和がなぜ田所君の買い目を予想できたのかはわかったわ。
でもどうして貴方があんなに競馬にくわしかったのよ?」
「勉強したからな」
「勉強?本とかネットとかを調べたの?」
美鈴の質問に俺はゆっくりと首を振った。
「いや、今回の京都だけ徹底的に調べた。情報源はネットというよりヨ―チューブだ。
あそこには競馬の予想チャンネルとか一杯転がっているからな
データ的に評判の良くて回収率の高いチャンネルを調べて徹底的に勉強した
だから競馬に詳しくなったのはこの三日間だ」
俺の言葉を聞いた美鈴は目を閉じ呆れたようにゆっくりと首を振った。
「びっくりするぐらいの付け焼刃というか一夜漬けなのね。
でも助かったわ。今回勝てたのは本当に貴方のおかげよ、私達だけではおそらく田所君に負けていたわ」
「まあ、あの手の曲者は俺の担当だろうからな、それに勝てたのはたまたまだ。
競馬なんて知っていれば勝てるというモノじゃない。特にギャンブルにはビギナーズラックという言葉もある
案外美鈴がやった方がもっと楽勝だったかもしれないぜ」
俺は何か照れくさくて目線を逸らしながらそう答えると、美鈴は軽く俺の胸を叩いた。
「感謝しているのだから素直に受け止めなさいよ。貴方は何というか自己評価が低すぎると思う。
もっと評価されていい人間だと思うわ、お母様もそう言っているのでしょう?」
美鈴は俺を上目遣いで見つめ、まるで言い聞かせるように言葉を発した。
「買いかぶりすぎだ、それに冴子のいう事は大体間違っているから聞き流しておけばいい」
俺は再び照れ臭さをかくしつつ美鈴から顔を背ける。
「だからそういう所が……」
美鈴は何か言いかけて大きくため息をつく。
そしてもうすっかり日も落ち暗くなった道中の街灯の下で俺の前に回り込み例の笑顔で俺に告げた。
「もういいわ。じゃあこれからもよろしくね、自虐参謀さん」
その眩しい笑顔に一瞬息が止まる。ちくしょう、可愛いじゃねーか。
コイツは本当に卑怯だ、俺の心が歓喜と動揺で激しく揺れ平静を装うのに必死だった。
本当にこの女は男の本能にダイレクトに踏み込んできやがる、そんな事をされたら勘違いしてしまうだろうが‼
落ち着け俺、冷静にクールに行け。
「まあ、あまり俺に期待するなよ」
「ハイハイ、わかりました」
美鈴はそう言うと上機嫌のまま突然腕を組んできた。俺は再び激しく動揺する。
「だからそういう事をするなと何度も……」
「いいじゃない、今日ぐらい」
学園統一戦で難敵に勝てたことが余程嬉しかったようで少し舞い上がり気味の美鈴姫
ヤレヤレ、女王様の気まぐれに付き合わされるこっちの身にもなって欲しいモノだ。
こうして波乱の学年統一戦は幕を閉じた。
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