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決戦は土曜日

「勝負法が競馬って……何よ、それ?」


美鈴は驚きを隠せず呆れるようにつぶやいた。


「何や、競馬を知らんのか?専用のレース場でお馬さんがパカパカ競争してそれに金をかける公営ギャンブルや」

 

まるでおどけるように田所が言うと、美鈴はすぐさま食い気味に反論した。


「競馬が何かぐらいは知っているわよ‼競馬でどうやって勝負するのかと聞いているのよ‼」

 

美鈴は語気を荒げ、ムキになって言うと田所は大げさに首をすくめた。


「おお怖い。まあそんなに怒るなや、女は愛嬌やで紅林嬢。


いや今時はこの発言もセクハラになるんか?ごっつ生きにくい世の中やで」

 

わざとらしく首を振る田所、しかし美鈴たちはその仕草が一々癇に障るようで明らかにイラついていた。


いかんな、完全に田所のペースに乗せられている。


「そうや、競馬での勝負法だったな。それは簡単。JRAつまり中央競馬会が主催する競馬は毎週末にどこかの競馬場で開催されている


そしてどの競馬場も大体一日12レースある。そこで馬券勝負をするんや


1~12レースの各レースで両陣営が一万円ずつかけて最終的にどちらが儲けたか?で勝敗を決するという事や


どや、簡単やろ?」

 

あまりに意外な提案に言葉を失う美鈴たち。田所の性格上ギャンブル性のある勝負法を指定してくることは予想されていたが


まさか本当の公営ギャンブルで勝負とは……

 

少しの間唖然としていた美鈴たちだったが、我に返った木村がすかさず反論した。


「ちょっと待て、田所。俺達は学生、しかも未成年だ。法律上馬券は変えない、俺達に法律違反をしろというのか⁉」

 

しかし田所は、ニヤリと笑うと、その質問を待っていましたとばかりに答えた。


「ワイもこの年で前科が付くのは嫌や、そんな無茶は言わへんで。


もちろん本当に馬券を買う訳やない。レースの発走時間前に互いがどんな馬券を買うのか紙にでも書いて同時に発表するんや


本当に馬券を買う訳じゃないから法律には触れない、いわば仮想馬券や。


しかも絶対にイカサマはできない、こんなに公平でまっとうな勝負はないと思うで」

 

美鈴たちは田所の意見に反論できず呆気に取られていた。


確かにこの勝負法ならばイカサマはできない、だが学生である俺達は競馬の事などほぼ知らないのだ。


この口調から察するに田所はある程度競馬に詳しいのだろう。


週末までまだ三日あるがそんな短時間で理解できるとも思えない。


競馬はその特性上知識があれば勝てるという訳ではないが無いよりあった方がいいのは間違いないだろう


完全に裏をかかれた形になった。


「しかし政治家を目指す俺達が、馬券を買う訳ではないとしても勝負をギャンブルで決めるというのは不謹慎というか、色々と問題じゃないのか⁉」

 

松金が反論する、やや苦し紛れではあるが筋は通っている、さて田所はどう出るか……


「何や、噂通り頭が固いのう松金君。今時競馬は漫画やゲーム、アニメなどでも取り扱われている健全なコンテンツやで


未成年が競馬の漫画を読んだり、競馬ゲームしていて捕まったという話は聞いたことがないやろ。


そもそもJRA中央競馬会は農林水産省の管轄やで、そう君の御父上である松金誠二元農林水産大臣の管轄だったこともある訳や


よもやそれを不謹慎なモノと否定はしないわな?」

 

痛い所を突かれ松金は言葉を飲み込んだ。


「で、でも未成年である私達が選ぶ勝負法が競馬というのは少し問題になるのではないか?


という松金君の意見はまっとうだと思うけれど」

 

美鈴が松金をフォローするように発言するが田所はヤレヤレとばかりに首をすくめる。


「今や日本では競馬は無くてはならないモノや、さっきも言った漫画やゲームもしかり


日本では競走馬や騎手もアスリートのように扱われメディアで称賛される。


これは世界でもあまりない現象や。そして日本ダービーや有馬記念などの大レースは競馬に興味のない人間もお祭り気分で何となく買ってしまうのが競馬や。


こんな話知っとるか?日本の競馬の売り上げは世界全体の約40%を占めている、つまり日本は世界一の競馬大国なんや。


例えば年末の有馬記念だけで伝統あるドイツの競馬の年間売り上げの約二十倍の売り上げを記録するんや


たった一レースでドイツの二十年分の売り上げやで⁉日本人どんだけ競馬好きやねん。


まあ競馬だけやない競艇、競輪、オートレース、そして宝くじ、パチンコなど、その売り上げたるや相当なモノや。


日本人は堅実で貯金が好きっていうイメージあるが世界でもこれほど金をつぎ込む民族はおらん。


つまり日本人はどうしようもないくらい博打好きなんや、ギャンブル狂といってもええで。


将来日本を背負って行こうとするワイらにとって競馬勝負はこれ以上ない勝負やと思うけれどな」

 

悪びれる事もなく堂々と持論を展開する田所の前ではさすがの美鈴もたじろいだ。


「でもやっぱり競馬がちゃんとした勝負とは思えないのだけれど……」

 

美鈴はもはや理屈ではなく感覚で言い返した。いかにも苦しい反論だがこのまま田所に言いくるめられたように終わるのはマズいと感じたのだろう


だが田所はニヤリと笑い口を開く。


「じゃあ逆に聞くで、紅林嬢。ワイがどんな勝負を提案すれば公平だと思うんや?」


「うっ、それは……」

 

まさかの質問返しに戸惑う美鈴。


「アンタは最初に言ったよな、イカサマが可能な勝負はダメだと。


だったらこの競馬勝負以外で絶対にイカサマのできない勝負というのを教えてくれへんか?


もちろんジャンケンとかの単純な運ゲーはダメやで」

 

田所の問いかけに窮する美鈴、ある程度頭脳を要するゲームで絶対にイカサマができないモノとなると電子ゲームくらいしか思いつかない。


もちろんそれもやり方によってはイカサマができなくはないしそれを美鈴や松金が得意にしているとも思えない。


これは決まったな。

 

反論できずに戸惑う美鈴たちの様子を見て田所は不敵な笑みを浮かべると、椅子からスッと立ち上がり勝利宣言でもするように言い放った。


「どうやら反論も無いようなので決まりという事でええな。勝負は今週末の土曜日


京都競馬場で行われる全12レースで勝負や。場所は第二会議室、学園側に許可はとってあるから安心してや


あそこならば大型モニターもあるし全レースをネット中継で見ることも出来る


ある程度の人数も入れて観戦できるからな。ほな、さいなら」

 

田所は勝ち誇るように背中を向けると、上にかかげた右手をヒラヒラさせて部屋を出ていこうとする。


完全に田所のペースで話を進められた美鈴たちは下を向きこぶしを握り締め押し黙ってしまっていた。


う~ん、このまま田所を気持ちよく返してしまっては流れが非常に良くないな、ここは無理にでも何か言っておくか。


「おい、ちょっと待て、田所。一つ聞きたい事がある」

 

俺の呼びかけにふと立ち止まった田所は、首だけこちらに振り向いて口を開いた。


「何や、佐山大和君。このまま気分良く帰らせえや」


「この質問は嫌がらせも込みだからな、まあ別に時間はとらせない、少し付き合え」

 

俺がこれ見よがしにニマリと笑うと田所は少し不機嫌な表情を浮かべた。


「で、ワイに何を聞きたいんや?」


「勝負は土曜日の京都競馬場なのだな?日曜日の東京競馬場ではなく」

 

俺の質問にピクリと眉を動かす田所。


「自分、ホンマに嫌味な奴やで。土曜日開催の京都競馬場にした事に大した理由はない。


しいて言えばワイは東京よりも関西の京都が好きなだけ、それだけや」


「足立区民のクセにか?」


「別にええやろ、ワイの気持ちはいつでも関西なんや」

 

田所は少し怪訝そうな顔をして部屋を出て行った。美鈴から〈今の質問は何なの?〉と聞かれたが特に理由はないと答えた。


そして三日後には決戦の土曜日を迎えることとなった。


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