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理想と信念と政治理念と

翌日一時限目の授業が終わると美鈴を先頭に委員会メンバーは早速となりのB組に乗り込んだ


勝負の種目を何にしたのか聞くためだ。もちろん俺も付き添いとして渋々同行する。


だが肝心の田所は教室にいなかった。B組の人間から〈昼休みに第三会議室に来てくれ〉と伝言を頼まれた。


と聞かされ美鈴たちは肩透かしを食らった気分になりぶつけようのない怒りをにじませた。


どこまでも人の神経を逆なでする奴だ、個人的にはこういう人をおちょくるやり方は嫌いじゃないが田所にペースを完全に握られてしまっているのは面白くない。


美鈴や木村は感情的になりやすいし松金は融通の利かない真面目君だ。


戦力にならない小崎も含めて完全に相手に主導権を握られてしまっている、この流れは何とか止めないとな。


美鈴たちにしてみればようやくというか待ちに待った昼休みだ、委員会のメンバーは昼食もソコソコに教室を出ていく。


昼飯ぐらいゆっくりと食べさせて欲しい、それに付き合わされるこっちの身にもなって欲しいモノだ。


美鈴に〈俺だけ後で行くというのはダメか?〉と聞いたのだが無回答のまま無言で睨まれ


シャツの襟首を掴まれて強引に立ち上がらせられそのまま連行された。随分と人使いの荒い女王様である。


「おう、早かったやないか」

 

第三会議室のドアをノックもせずに勢いよく空けると例のごとくトランプ占いをしながらくつろいでいる田所がいた。


こちらを見ながら終始薄ら笑いを浮かべ一人で悠然と構えている田所に対して


美鈴率いる我が組の者達は焦りと緊張感でピリピリとしていて無言で田所を睨みつけている。


ダメだ、このままだとまたペースを握られたまま話を進めることになる。仕方がないのでここは俺が話の口火を切ることにした。


「おい田所、お前のせいで俺は昼飯をゆっくりと食えなかったんだぞ、どうしてくれる」

 

田所は俺の言葉の意味を瞬時に理解し、口元を緩めた。


「それは災難だったのう、でもそれはワイのせいじゃないやろ。こっちに文句言われてもお門違いちゅうもんやで」


「俺たちは授業終了のチャイムが鳴ってからかなり早くここに来たはずだ


それなのにお前はすでにここでトランプをやっていた。授業終了はどのクラスも同じ時間なのだから


お前は昼飯も食わずに急いでここに来て余裕のフリをしてトランプを並べたという訳だ。


どうしてお前のペテンに一々俺が付き合わされなければならない。


俺は学園生活においては昼飯ぐらいしか楽しみが無いのだぞ、それをお前は……」

 

昼飯の恨みとばかりに田所を思いっきり睨みつけてやった。


「昼飯抜きで急いでここに来たことをバラすなや、せっかく余裕の演出かましているのに実は裏で必死にやっていましたとか、カッコ悪いやんか」

 

俺達がそんな会話を交わしていると、それを遮るように第三会議室に甲高い声が響いた。


「いい加減にしなさい、貴方達‼お昼ご飯がどうとか、どうでもいいわ‼」

 

少し息を荒げながら俺と田所に鋭い視線を向けている美鈴。


どうやら俺と田所は共犯扱いらしい、嫌がる俺を無理矢理連れてきておいてこの扱いはひどくないか?


「何や、嬢ちゃん。のっけからえらい剣幕やのう、何か嫌な事でもあったんかい?」

 

美鈴が苛立ちをぶつけるも田所は揺るぎもしない、それどころかシメシメといった様子だ。


「嫌な事といえば、昼飯を途中で切り上げさせられた事かな」


俺がそう答えると、田所はすかさず口を開いた。


「お前に聞いてないわい‼って、また突っ込んでしまったやないかい‼」

 

すると美鈴の表情が赤く染まっていき小刻みに震えだした。


これは尋常じゃない程怒りに満ちているな。さすがにもうこのぐらいにしておかないと後が怖い。


「それで、田所。例の勝負の種目は決まったのか?」

 

俺が潮時とばかりに本題を切り出すと田所は少し残念そうな顔を浮かべた。


「何や、もう終わりかい。もう少し引っ張れると思うとったんやけれどな。


しゃあない、ワイもこれ以上美人に嫌われるのは嫌やからな」

 

田所はわざと大げさに首をすくめた。


「安心しろ、田所。お前はもうこれ以上ない程に美鈴に嫌われているから」

 

その瞬間、美鈴の肘が俺の脇腹に突き刺さった。


「ぐえっ、何をする⁉」

 

俺はわき腹を抑えながらその場にしゃがみこみ美鈴を見上げると、そこには無感情なまま冷徹に見下ろす美鈴の姿があった。


「話が進まないから余計な事を言わないの」

 

これは先日冴子にやられた同質のモノである、美鈴もいよいよ女王様ぶりが板についてきたな。


「私は回りくどい事は嫌いだから単刀直入に言うわ、勝負のやり方は田所君に任せるけれどイカサマが可能なモノであるのならばこちらとしては承諾しかねるわ」


美鈴は田所の目を見てきっぱりと言い切った。


この手の人間を相手にするときは相手の様子をうかがいながら駆け引きとかするよりも


先に自分の考えをはっきりと主張した方がいいという事か、実に美鈴らしい考え方だ。


「イカサマとか何の事やらわからんな。ワイがそんな事をする訳ないやろ」

 

田所は大げさに両手を広げわざとらしい口調で言った。それにすかさず木村が反論する。


「昨日やったじゃねーか‼あのサイコロはイカサマだってわかっているんだ、お前も認めるようなことを言っていたじゃねーか⁉」

 

田所を指さし、糾弾する勢いで語気を強める木村。だが田所はおどけるように首をすくめた。


「おいおい、おかしな言いがかりは止めてもらおうか。ワイはそこの佐山大和君と友達になりたくて世間話をしていたにすぎないで


そもそもワイがいつ〈実はイカサマをしました〉とか言うた?ワイは繊細でナイーブなんや、そないなこと言われたらごっつい傷つくやんか」

 

悔しさで震える木村の反応を面白がるように田所はニヤついている。


それにしてもコイツ、俺の名前をしっかり調べてきやがった。


たった一日で何かがわかったとは思わないが勝つためにはしっかりと情報を集めるタイプだな。


「まあ、紅林嬢のいう事もわからんではない、ワイには身に覚えのない事やけれどインチキで負けるとか我慢ならんちゅう訳や。


まあでも心配せんでええ、今回ワイが提案する勝負はイカサマとか絶対にできんから安心してや」

 

まるで美鈴の主張を待っていたように饒舌に話す田所の姿には自信がみなぎっていた。


何だ?勝負の種目に一体何を選んだのだ?


コイツは絶対に自分が有利になる勝負法を選ぶはずだがイカサマが絶対にできないが田所が有利な決着方とは……


まさか予想に反して実力勝負で来るのか⁉俺が脳内でそんな事を考えていた時、田所はニヤリと笑って意外な事を口にした。


「なあ紅林譲、勝負の方法を言う前に一つアンタに聞きたい事がある」


「何よ、突然?」


美鈴はもったいぶるような田所の言葉に怪訝そうな表情を浮かべた。


「そんな顔をせんでもええやないかい、この質問は俺にとって重要な事であり、アンタにとっても大事な事や。


なあ紅林嬢、アンタもこの学園に来たという事は将来政治家になって国政に参加したいと思っているのやろ?


だったらアンタの政治理念というか理想の政治、そしてその為には何が必要と考えているのかを教えてくれへんか?」

 

普段つかみどころのない田所から突然このような質問を受け、さすがの美鈴も戸惑い驚きを隠せない様子だった。


だがここまで常にヘラヘラしていた田所が真剣な顔で質問している姿を見て、からかい半分で言っているのではないと感じたのか、美鈴も真剣に答えた。


「政治家は国民の為に働く公僕よ、常に国民の為になる政治を行う


私利私欲や権力争いなどくだらないモノは捨てて皆が幸せになる為に尽くす、国民の為の政治を行う。


これに尽きると思っているわ。それには高い理想、高潔な精神、奉仕の心、そして強い信念が必要よ。


そういった政治家が増えていけば自然といい政治が行えると私は考えているわ」

 

美鈴は田所の目をまっすぐ見つめ返して理路整然と言い切った。


その表情と言葉には何の迷いもなく、強い意志と決意が感じられた。


田所は美鈴の言葉を聞き終わると大げさなリアクションでパンパン両手の手のひらを打ち合わせ、拍手をし始めた


「大したものや、感心してしまうで」

 

田所のそんな態度が癇に障ったのか、美鈴は敵意のような目を向け田所をキッと睨んだ。


「馬鹿にしているの⁉」


「いやいや、本心で言っているのや。変な邪推は止めてくれへんか。


だがそれはあくまで理想や、誰もが幸せになれる政治。確かにそんなモノがあればええ、だが今まで誰もでけへんかった、なぜか?


そんなモノやりたくても出来ないんや、絵に描いた餅なんや」

 

田所はやや寂しそうに語った。だが美鈴にとっては自分の信念が馬鹿にされたように感じたのか、田所の発言を看過できず、すぐさま問い返した。


「じゃあ貴方の政治理念というか貴方ならどんな政治を目指すのか、教えてちょうだい」

 

睨むように美鈴は言った。まるで自分の理想と信念を全否定されたように思えたのだろう。


「ワイか?ワイならば国民の為の政治ではなく未来の日本の為の政治をする」

 

田所はきっぱりと言い切った。


「未来の為の政治?具体的にはどういう事よ、説明して」

 

美鈴がすかさず問いかけると田所はニヤリと笑みを浮かべて説明を始めた。


「さっきも言ったが国民すべてを幸せにすることなどはでけへん、無理なんや。


今日本が抱えている大きな問題、少子高齢化。しかし年寄りに寄り添い子供にやさしい社会を作るには莫大な資金がいる


社会福祉とは金がかかるのが現実。防衛費にしてもそうや、国防には莫大な銭がかかる、ここまで言えばわかるやろ


この日本が資本主義国家である以上、何よりも必要なのは銭なんや


どのみちこのままではジリ貧なのは目に見えとる、だったら未来の為に一旦少子高齢化対策など全て捨てて経済対策に全振りや‼」


自信満々に言い切る田所に美鈴も思わず気おされ気味になる。


「じゃ、じゃあ貴方の主張はお金もうけの為にはお年寄りも子供も見捨てるという事?


それはいくら何でも極論過ぎない?」


「言い方が少し引っかかるがまあ極端に言えばその通りや。


どのみちこのままだと日本は持たん、日本に銭がぎょうさんあれば少子化対策だろうが高齢社会への対応だろうがバンバン銭をつぎ込める


だが今の日本には無理なんや。だったら緩やかに衰退を待つよりも一発勝負で逆転を狙うのが正解やと思うで‼」

 

随分な極論ではあるが田所の言い分にも一理あると思えた。


だがもしもそんな方針で政治を進めたらマスコミと野党から袋叩きに合い、国民からの支持率は急落し間違いなく失脚するだろう。


だがこの考え方からも田所という人間が少しわかった気がした。


「それと人を選ぶという事や。政治も所詮人がやるモノ。


最近の政治家は汚職だの失言だの、まるでなっとらん、だから国民にそっぽ向かれるんや。


だから政治家は実績じゃなく能力で決める、初当選の若手だろうが能力のあるものはバンバン大臣にも任命することや


派閥争いとか知った事じゃないわ、そうでもせえへんと国民が政治を信用でけへん」

 

田所は自信満々に言い切るとギラついた眼を輝かせて前のめりになった。


「これでワイの政治理念をわかってくれたか?つまり政治は銭と人、これが全てや‼」

 

どうだと言わんばかりに言い切る田所、その姿には一切の迷いも不安も感じられなかった。


「貴方の主張はわかったわ、一部を除いてとても賛同できるモノではないけれどそれはそれとして覚えておく。


それで、そろそろ肝心の勝負の方法を教えてくれないかしら」

 

美鈴が待ちきれないとばかりに問いかけると田所は少しがっかりしたような仕草を見せた。


「何や、つれないのう紅林嬢。ここから互いの政治思想を語り合うところやないかい。


まあええわ、それでワイの考えはわかってくれたやろ。政治に必要なのはまずは銭、そしてそれを行う人や


つまり情勢を見極めて銭を稼ぐ分析力、そして人を見極める観察力が必要なんや、それを最大限に発揮できる勝負法や」

 

田所が何を言いたいのかイマイチわからない美鈴は怪訝そうな表情を浮かべていた。


だが俺には何となく田所の言わんとしている事がわかってきた。


「おい田所、お前まさか……」


俺が思わずそう口にすると田所はニマリと口元を緩めた。そして田所が提案した勝負は俺達の想像をはるかに超えたモノだった。


「そう、競馬や」


やっぱり……話の流れでそうではないかと思ったが、まさか本当に勝負の方法に競馬を指定してくるとは思わなかった。


あまりに意外な提案だったのか、美鈴をはじめ松金や木村も驚きを隠せない様子だった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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