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緊急会議

その日の放課後、委員会のメンバーは緊急対策会議を行った。


とはいえ相手が勝負に何を指定してくるのか不明な為、できる対策は限られていたが何もせずにはいられなかったのだろう。


話の流れで委員会メンバーではない俺も会議に参加する事になってしまう。


ヤレヤレ、今日も帰って夕飯の支度をしなければいけないのだがどうやら断れる空気じゃなさそうだ。


夕食は簡単なモノで済ますとするか、冴子や沙羅はまたブツブツと文句を言うだろうが致し方ない


そもそも〈そんなにきちんとした食事がしたいのであれば自分で作れよ‼〉と声を大にして言いたい。


まあこれが言えれば苦労はしないのだが……


「今回相手にイニシアティブをとられてしまったのは不本意だけれど、今更嘆いていても問題は解決しないわ


今回の事も考慮して色々事前対策をしておきましょう」

 

やる気満々で皆に激を飛ばす美鈴、他のメンバー達も大きくうなずく。


仲間の団結をうながすには共通の敵がいればよいというが、今回の件で少し前まで争っていた者たちが一団となって団結した様子だ。


だがそれも良し悪しというか敵がああいう相手だとそのやる気が逆に仇になるケースもある。


気負い過ぎて空回りし、逆にそれを相手に利用されるという最悪のシナリオも考慮しておかなければいけないだろう。


美鈴は性格的に前しか見えない、いわば猪突猛進タイプだけに相手の術中にはまりやすい。


松金は典型的な優等生の頭カチカチ真面目くんなので今回の様な曲者とは相性が悪い。


本来は木村がこういった相手と渡り合ってくれなければいけないのだが


どうやら田所に手玉に取られたことが余程悔しかったのか、かなり感情的になっていて冷静な対処は期待できない


役に立たない曲者とかチームの足を引っ張るだけの存在にしかならないので論外だ。


小崎は元々場の空気を良くしてチームの協調性を強めるだけの存在だ。


よく言えばムードメーカーだが、悪く言えば単なる賑やかしの風見鶏だ。


どうやら田所とはタイプ的に俺と一番相性がよさそうなのだがここは委員会だ


なるべく発言を控えあくまでアドバイザーとして聞かれたら答えるぐらいのスタンスでいいだろう。


そう考えた俺はこのメンバーのやり取りを黙って見守る事にした。


「俺が聞いた情報だと、どうやら田所の奴は委員長選挙の時もライバルに勝負を仕掛けそれに勝って委員長になったらしい。


今回も何らかの勝負を仕掛けてくることは間違いないだろう」

 

木村が仕入れてきた情報をメンバーの前でこれ見よがしに披露した。


とはいえ昼でのやり取りからもそういった事は想像の範疇だし主導権が向こうにある以上


こちらとしては何らかの勝負を仕掛けられたとしても受けるしかないのだが。


「問題は奴がどんな勝負を仕掛けてくるかだな……」

 

松金が腕組みしながら当たり前のことを口にする。


「昼間のサイコロ勝負といい、奴がまともな勝負を仕掛けて来るとは思えない。


きっとイカサマを仕込んでくるに違いないぜ‼」

 

木村が吐き捨てるように言った。松金と木村は田所の事をすっかり奴呼ばわりで定着している様だ、まあ心理的にわからなくはないが。


「そうね、イカサマのできそうな勝負ならば受けない方がいいわね。相手がどう言おうとこちらとしては断固拒否する姿勢を示す必要があるわ」


ここで美鈴が初めて口を開いた、そしてふと視線を俺に向けた。


「ねえ大和、イカサマの可能な勝負ってどんなものがあるの?思いつく限り言ってみてよ」

 

ここでようやく俺の出番のようだ、あわよくばずっと黙って座っているだけやりすごせられれば


それが一番いいと思っていたのだが、どうやらそんな簡単に開放してはくれない様だ。


「そうだな……まず麻雀とか花札とかトランプとかカードゲームとかはイカサマを仕込みやすいから止めた方がいいだろう


基本競技に道具を必要とする種目はそれに仕掛けを施すことでイカサマが可能だ


それに伴ってリスクが伴うからそういった勝負は疑った方がいいな」

 

俺の助言になるほどと感心する委員会メンバー達。


まあこいつらは基本お坊ちゃん、お嬢ちゃんだからこういった事に疎いのはわかるが、俺でも簡単に騙せそうで本当に危なっかしい。


そんな時、木村が何かを思いついたかのように口を開く。


「じゃあ、将棋とかはどうだ?将棋は道具を使うがあれならばイカサマは無理だろう?」

 

何が〈じゃあ〉なのか全く意味がわからない、そもそも勝負種目を指定してくるのは田所の方なので俺がここでどうこう言っても意味は無いだろうに……だが木村は話を続けた。


「実は俺、将棋は得意で初段を持っているのだよ。相手が将棋で勝負を仕掛けてきたら俺が受けて立ってやるぜ」

 

何故か自信満々で自慢げに語る木村を見て俺は思わずため息をついた。


「ハア、将棋にイカサマは無理という認識を改めろ。やり方次第で十分にイカサマが可能だ」

 

俺の言葉に木村が反射的に立ち上がった。


「馬鹿言え、将棋にイカサマなんて無理に決まっているだろうが‼」

 

木村が俺に向かって抗議するように反論すると松金がそれに続いた。


「俺は将棋については詳しくないが、さすがに将棋でイカサマは無理だろう」


「私もそう思うのだけれど、どういうことか説明して大和」

 

美鈴も松金と同じ意見のようだ。仕方がない面倒だが説明するか。


「まず将棋の場合、駒や将棋盤に仕掛けを施すことは無理だ、そもそもそんな事をしても勝負には勝てないからな。


だが将棋でイカサマをする方法が一つある、それはカンニングだ」

 

美鈴が不思議そうな表情を浮かべてこちらを見た。


「カンニング?それってテストなんかでこっそり教科書を見たり他の人の答案用紙を覗き見たりするというあのカンニング?」


「ああ、そのカンニングだ。今の将棋ソフトはAIの発展により人間では到達できない領域まで進化している


PCの性能にもよるが今のAIは一秒で8千万手読むらしいからな。


将棋のトッププロでも今のAIには歯が立たないのが現状だ。


そして将棋は棋譜といって指した手を記号で表す事ができる、〈4二金〉とか〈5五歩〉とか聞いたことがあるだろう?


つまり将棋ソフトAIの示す手を何らかの手段でプレイヤーに伝えることができれば絶対に勝てない。


将棋のプロの試合では専用の対局場や立会人、そしてテレビカメラなどが周りを囲んでいるからそういった不正が防げるのだ。


仲間を使ってAIの導き出した最善手をこっそりと伝えそれで勝つ、田所ならばそれぐらいやりかねない」


 木村は言葉に詰まり美鈴と松金は唖然としていた。俺は話を続ける。


「それと将棋のヤバいのは〈運の要素が殆どない〉という事だ。


もし田所がイカサマをしていなくとも両者に実力差があった場合絶対に勝てないのが将棋だ。


俺も将棋は二段を持っているが相手が将棋で勝負を挑んできたら絶対に受けない。


もし田所が四段、五段を持っていたらまず勝てないからな。


なぜ木村が初段程度でそこまで自信満々なのかは不思議だが、相手の情報がわからない以上


将棋に限らず完全な実力勝負で決まる種目はできれば避けた方がいい」

 

美鈴と松金は言葉を失い木村は唇をかみしめ俺を睨んでいる。


意見を求められたから素直に答えただけなのに、なぜ俺が悪いみたいな雰囲気になっているのだ?ここは話を変えるか。


「田所が何で勝負を挑んでくるのかわからないのに、今あれこれ考えても仕方がないだろう。


イカサマが可能なモノや完全に実力勝負になってしまうモノは避けた方がいい、それだけの話だ。


サイコロ勝負の時のように敵の策略に乗って馬鹿みたいに軽々と勝負を受けない事だな」

 

俺が忠告するように言葉を発するとメンバー達は押し黙ってしまった。


ただ美鈴たちには言わなかったが田所が完全実力勝負になる種目を選ぶ可能性は低いと思っていた。


こちらと同様に向こうもこちらの情報がわからない以上、田所のような人間はそういったリスクを避けるはずだ、少なくとも俺ならばそう考える。


しかし何だ、この空気は?俺まで完全に悪者扱いじゃねーか。もうこれ以上発言するのは止めておこう。

 

しばらく重苦しい沈黙が続いたが、その空気を払拭するように美鈴が口を開いた。


「わかった。では田所君がどんな勝負を挑んでくるかわからないけれど、一旦熟慮して答えを出すようにするわ。


それとその際に何か思う事があったら遠慮なく言ってよ、大和。サイコロ勝負の時のような傍観は許さないわよ」

 

美鈴はまるで子供に言い聞かせるような口調で俺に告げる。


はた目から見ると俺が説教されている様な図式に映るが、まあ松金や木村の手前こうでも言わないと示しがつかないのだろう俺は美鈴の忠告を甘んじて受け入れた。


「わかった、何か気が付いたことがあれば言うよ」

 

美鈴は無言のまま大きくうなずくと松金と木村の方をチラリと見て〈これで納得して〉と視線で訴えかけた。


両者釈然としないながらも小さく頷く。こうして緊急対策会議は終わった。


俺は急いで家に帰り急いで夕食の用意をするが作った料理が手抜きだと冴子と沙羅にタラタラ文句を言われた。


全く散々な一日だった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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