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驚愕の人事

平岡の引き起こした騒動から一週間後、一年A組の委員長選挙が行われた。


結果は皆様ご存じの通り満票、全員一致で紅林美鈴が我がクラスの女王……ではなくて委員長になった。


「選挙では色々ありましたがこれからは皆クラスメイトの仲間です、わだかまりは捨ててみんなで頑張りましょう。私も全力を尽くします、みんなの力を貸してください‼」

 

美鈴の委員長就任の挨拶である。所信表明演説とでもいえばいいのか、仲間とかみんなとかの言葉を入れているのが実に美鈴らしい。


演説が終わり美鈴がぺこりと頭を下げるとクラス中に拍手が巻き起こる


特に紅林派のムードメーカーである小崎健一郎が周りを鼓舞するように盛り上げる


こうなると陽キャ軍団である紅林派の勢いは止まることを知らなかった。


こうして我が一年A組は完全に女王 紅林美鈴の支配下に置かれることになったのである。


「ではクラス委員長の最初の仕事として、各役職の任命をしていきます」

 

美鈴の通る声がクラス中に響き渡る。この学園ではクラス委員の役職が四つあり、その任命権は全て委員長にある。


ざっと役職を並べると、委員長を筆頭に副委員長、会計監査、広報担当の四つである。


そしてこのクラス委員の権限が普通の学校とはかなり大きな違いがある。

 

具体的にあげるとまずクラスの委員会ごとに百万円以上の年間予算が振り当てられるのだがその予算の使い道を委員会の裁量で使うことができるのである。


もちろん何に使っても良いという訳ではなく学園側に使用目的を記入した申請書を提出しなければならないのだが


それが生徒の将来の為や仲間との為とあればかなり融通が利く。


ぶっちゃけ〈クラスの仲間と結束を強める為の必要経費〉という理由で飲食費に使っても良いのだ。


だがこの予算をどう使うか?という事も各人の採点に入る為おいそれとおかしなことには使えない、責任が伴うのである。


つまりは〈君達はこの予算をどう活用する?〉と試されているのだ。

 

だからこそこのクラス予算の使い道を決める際には委員会で予算会議を開き役職四人全員の賛成が不可欠なのである。


だから委員会人事は自然と委員長になった人間の派閥から選ばれていた。


同じ派閥内の人間ならばもめることも少なくスムーズに事を運びやすいからだ。


しかし美鈴はここでもクラスの連中を仰天させるサプライズを披露した。


「では副院長に松金倫太郎君、会計監査に木村竜馬君、広報担当に小崎健一郎君を指名したいと思いますが、どうでしょうか?」

 

その瞬間クラス内がざわついた。それも当然でせっかく選挙で勝ったのだ。


クラス委員に他派閥の人間を入れてしまってはそのメリットも半減してしまう、なにより委員会会議で意見が食い違い


物事が中々決まらないとなれば美鈴のリーダーシップが疑われる事になる。


確かに上手くいけば〈他派閥の者を使いこなす人間〉と評価されるが


今まで敵として戦って来た相手がワザと足を引っ張り美鈴の評価を下げる事をするかもしれない。


だからこそこの人事は非常に危険な賭けでありリスクの高いやり方だった。


「どうかしら、松金君、木村君。一緒にやってはくれないかな?」

 

ざわつきが治まらない中で美鈴が二人に問いかけ右手を伸ばした。


その言動には迷いも不安も一切感じられず真っすぐ二人の方を見つめている。


そんな中で一番驚いているのはサプライズ指名された二人だった。


松金も木村もまさかの事態に言葉を失い呆気に取られていた。

 

しばらく茫然としていた二人だったがふと我に返り、気を取り直すように答えを返した。


「そ、そういう事であれば副院長の役目、謹んでやらせてもらう。こちらにはありがたい話であって断る理由も無い」


「そういう事だ、選挙で選ばれたわけでもないのに役職付きとあれば俺達にとってありがたい話だ。ぜひやらせてもらうぜ」

 

二人の言葉にクラス中から拍手と歓声が巻き起こる。美鈴は嬉しそうに微笑み皆に感謝を告げた。


前途は多難だが船出としては上々だろう。


俺は改めて紅林美鈴という女の度量の大きさに感心した。


俺だったら松金や木村など一生冷や飯食いの塩漬けにしてやるところだ。


やっぱりこの女王様は一味違う。クラスの連中から鳴りやまない歓声と称賛を浴びる美鈴の姿を見て俺はなぜか嬉しかった。



選挙の翌日に早速委員会会議が行われた。議題は予算の使い道と週に五時間ある自由授業の内容を決めるというモノである。


この選挙が行われる前まではこの自由授業の時間には通常授業や自習が割り当てられていたのだが


委員長が決定した時からこの時間を何に利用するかという裁量は委員会に一任されるのだ。


「私は色々な話を聞きたいわ、政治関係者に来てもらっていわば講演会のような事をするの」

 

委員会会議での第一声に美鈴は目を輝かせて言った。松金や木林も驚きの表情を浮かべた。


「講演会だと?それが授業といえるのか?」


「俺もそれは微妙だと思うが」

 

松金も木村も怪訝そうな顔をする、紅林派の小崎でさえ苦笑いを浮かべていた


だが連中の反応を気にする様子もなく美鈴はニコリと笑って話を続けた。


「私達がこれから進む道は普通の人とは違うのよ、政治の世界に飛び込む前に少しでもあの世界の事を知っておく必要があるわ。


まだ社会も知らない私達が政治という荒波の中でどう戦っていくのか、少しでもそのヒントというか参考になれば有難いじゃない」

 

美鈴の言葉を聞いて松金が腕を組んで考え始めた。


「なるほど、紅林のいう事にも一理あるな。父さんもそうだが政治家というのは本来話が上手いし基本話したがりだ


将来政治の世界に入って来る有望な若者が自分の話を聞きたいというのであれば喜んでその依頼を受ける可能性は高い」

 

松金に続くように木林も口を開いた。


「確かに、元々政府の肝いり政策でこの学園が設立された事を考えても


この学園で講演を行うという事は世間へのアピールも込めて自分に対してもメリットが大きい。


本当に深い所までは話してくれないだろうが政治関連の裏話とかも聞けそうだ、いけるかもな⁉」

 

そこに広報担当である小崎も続く。


「その講演内容もヨーチューブやSNSで公開すれば世間へのアピールと講演者の好感度を上げる事にもつながるし


互いにとってウインウインという訳か⁉」

 

この盛り上がりに美鈴は満足げだ。その時松金がハッと何かに気が付いた。


「まさか、この事を考えて俺と木村を委員会に引き込んだのか⁉」

 

木村も驚いたように美鈴の方を見た。松金の父親は元大臣、そして木村の父親は元々政治系のジャーナリストだ


世に出ていない裏話的なモノもいっぱい知っているだろう。


「そこまで見越して俺達を引き込んだのか……食えない女だな」

 

目を見開いて美鈴の方をマジマジと見つめる松金と木村。そんな二人の視線をあざ笑うかのように美鈴はニコリと口元を緩めて口を開いた。


「偶然よ、貴方達を委員会に引き込んだのはあくまで貴方達の能力を認めての事よ」

 

それが当然と言わんばかりに美鈴は言うと松金は苦笑し、木村はゆっくりと首を振った。


「どうやら俺達が勝てる相手じゃなかったようだな」


「ああ、相手が悪かったようだ」

 

こうして委員会会議は順調に進み、美鈴の出した案でそのまま決定され予算は講演者への依頼料へと使用される事になった。


だが美鈴の計画はここで終わりではなかった。この政治関係者の講演会の提案を他のクラスや学上級生に対して話を持ち掛けたのだ。


クラス単位ではなく学園全員で講演会を聞くのはどうか?という提案をしたのである。


これにはクラスごとに様々な反応があったが結局は全てのクラスがこの美鈴の提案に同意し賛同した。


それは同時にこの件でイニシアティブをとった〈紅林美鈴〉という人物を学園中に知らしめる事となった。


こうして週に1、2度、学園の体育館で政治関係者の講演会が行われることになった。


その記念すべき第一号に選ばれたのは松金倫太郎の父親で元大臣の松金慎吾だった。


松金氏は息子からこの依頼を聞いた時は非常に上機嫌で受けたらしく講演料などいらないと言ったらしい。

 

松金氏の話は非常に興味深く、度々ジョークも交えながら聞いている者達を飽きさせない


口達者ぶりを見せつけるモノであり、この辺りはさすが元大臣だと思わせた。


ちなみにこの元大臣の松金氏はその口が災いして問題発言や失言を連発し大臣職を失脚したのであるが……


 

それからしばらくして二回目の委員会会議が行われた。今回の議題は【学年統一戦】である。


この学園には一年、二年、三年生ともに各学年に二クラスあり


【学年統一戦】というのはその二クラスを一学年として統一し、一つの集団単位で行動するための取り決めである。


この学園では個人単位で何かをするという事は殆どない、基本的には集団単位で決定し行動する。


クラス内の派閥単位、各組ごとのクラス単位、そして年代ごとの学年単位である。


今回はその一年生を統一するための戦いであり、ぶっちゃけて言えば


〈両クラスで優劣を決め、どちらのクラスが学年の主導権を握るか〉という戦いなのである。


実際の政治のリアリティを追求し今のうちに慣れておけという意図なのだろうが


未成年である高校生にこんな生々しい現実を突きつけるのはどうなのだろうか?と少し思う。


つくづく派閥とか勢力争いとかが大好きな民自党らしい発想だ。


一年生は我が一年A組と一年B組があり人数も全く同じ五十一人。


つまり選挙では決着がつかないので別手段で決着を付けなければいけないのだが、その決定手段をどうするのか?


という事で毎年かなりモメるらしい。どちらも自分たちがイニシアティブを握りたいのだから当然だろう


少しでも自分たちの有利になるような決定手段を相手に押し付けようとしてその結果当然モメる。


それでもどうにかして決着を付けなければいけないのだ。


二年前、現在の三年生が初の学年統一戦を行ったときはどちらも互いの主張を譲らず最後まで決まらなかった為


最終的にはクラス全員のじゃんけん勝ち抜き戦になったそうだ。


美鈴をはじめクラス委員の人間は当面の相手である一年B組にどういう話を持っていくか?


という議題で会議が始まったが、そんなにすぐに良い案など出るはずもなく、結論は出ないまま保留という形となり会議は終了した。

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