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嫌な奴にはヨイショしろ

翌日、美鈴が仲間達との団結を深め万全の勝利に向け足固めをしていた時、俺は別の目的で動いていた。


そう第二勢力である松金派の切り崩しである。

 

放課後に立ち寄ったファミレスは夕方のせいか客もまばらで席は空いていて学園の生徒も見当たらない


窓際に座っている家族連れの子供が少し騒がしいが込み入った話をするのに特に気にすることもなさそうだ。


店内に入ると案内役の女性店員による〈お一人様でしょうか?〉


という定番の質問に俺は思わず〈俺はいつも一人ですが〉と答えそうになったが、そこはグッとこらえる。


「連れが来ているはずなのですが……」


俺が店内を探すように見回しながら言うと、奥の席で〈俺はここだ〉と手を振る男が視界に入ってきた。


俺は店員さんに小さく頭を下げそそくさと男の向かいの席に座った。


「遅かったな、もっと早く来られないのか?」


「すいません、色々ありまして……」


到着早々思いやりの欠片も無い言葉を発したのは俺の前に座っている松金派のナンバー2、平岡だ。


俺はなるべく平身低頭に答えた。


平岡真一は民自党参議院議員 平岡誠二の息子でいわゆる二世である。


父親の誠二は都議会議員二期務め国政選挙に出馬し当選した国会議員であり、一般家庭からコネもなく政治家になった苦労人である。


その反動なのか、遅くにできた一人息子の真一を溺愛し甘やかして育てた結果


平岡真一は上流意識の高い尊大な性格になった、端的に言えば〈嫌な奴〉なのである。


「早速だが何かいい情報はあるのか、佐山?」

 

平岡は店のソファーの背もたれに両肘を乗せながらふんぞり返り偉そうに言い放った。


言葉遣いといい、横柄で尊大な態度といい随分とわかりやすい嫌な奴である。


「すいません、今のところこれといった情報はないです」

 

俺は身を縮めるようにボソリと言った。


「ちっ、使えないな。せっかく俺が目をかけてやったというのによ」

 

平岡は舌打ちをした後、吐き捨てるように言った。


自分では何もしないくせに人への要求は高い、自分に甘く他人に厳しいというお手本のような嫌な奴である。


数日前、平岡が俺に声をかけて来た時はこんな態度ではなかったのだが、俺が下手に出るとどんどん態度が大きくなり


俺を子分のように扱うようになるまで二日とかからなかった。


こういう馬鹿はすぐに調子に乗る、そして聞いてもいないことをベラベラとしゃべり自分がいかに優れているかと自慢が始まる。


当然他人の事などボロカスだ。それが立場上自分の上に立つ松金でさえ例外ではない。


「大体、あの松金って奴は前から気に入らなかったんだ、父親が元大臣だからって勝手に派閥の長になりやがって


トップに必要なのは能力とカリスマ性だろうが、クソが‼」

 

平岡は自分の事を棚に上げて松金批判を繰り返す。まるで自分に能力とカリスマ性があるような言い方だ。


聞いての通り本当に嫌な奴である。


「そうですよね、平岡さんこそがトップにふさわしいと思います」

 

俺のゴマすりに嬉しそうに笑みを浮かべる平岡、客観的に見ればこれ程までにわかりやすい社交辞令も無いのだが


当人はそれを正面から受け止め満足げだ。嫌な奴の上に馬鹿である。


「だよな」

 

平岡はニヤリと笑った。その笑顔ですら癇に障る、何かわからんが嫌な奴である。


松金派は元大臣の父親を持つ松金倫太郎を中心とした派閥である


その流れで現役国会議員の息子である平岡がナンバー2として治まっている。


だが平岡は自分が一番じゃないのが気に入らない様子だ。俺に言わせればこいつがナンバー2の方がよほど分不相応と思うのだが。


「そういえば、紅林と木村がこの前校舎裏でこっそり密談していましたよ。


もしかしたら今度の選挙の話じゃないですかね?」

 

俺がそう言うと、平岡は身を乗り出して話に食いついてきた。


「馬鹿、何でそれを早く言わないんだ、全く使えないな、お前は‼」


「すいません、平岡さん」

 

感情に任せて俺を罵倒する自称カリスマ平岡くん。もちろん俺は平身低頭で謝罪した。


なぜ俺と平岡がこんな関係になったか?を説明するとしよう。


平岡は美鈴が俺に話しかけて来るより前に俺に何度か声をかけてきていた。


それは俺がどこの派閥にも属していない一匹狼であり


外から各派閥の情報を探るための手駒とするには絶好の人材だと思ったのだろう、だから俺はその思惑にあえて乗っかった。


嘘を含めた情報をこの馬鹿に流すことによってコイツの考えを誘導し松金派に決定的なダメージを与えてやろうと考えたのだ、属に言う二重スパイである。


「いいか、俺は将来確実にビックになる。絶対にトップに昇り詰めてやる‼」

 

平岡は事あるごとにこの言葉を口にした、典型的な小物の癖に夢と望みだけは大きいのだ。


全く身の程を知らないというか、分不相応の望みというか、厚顔無恥というか、恥知らずというか


厚かましいというか、分際をわきまえないというか、とにかく嫌な奴である。


そして俺の情報収集の対象には平岡自身の所属する松金派も含まれていた


その理由はよしんば松金を出し抜いて自分がトップに……という野心を持っているからだ。


能力もない癖に野心だけ大きいのは漫画やアニメによく出て来るいわゆる雑魚キャラと特徴が同じである。


しかし本人は〈俺こそが主役〉と思っているのだからタチが悪い。


だがこういう勘違い馬鹿こそつけ込みやすいのも事実だ、本意ではないが俺は平岡の子分になることによって松金派に斬りこむことができたのである。


「それにしてもマズいな、まさか木村が紅林派に付くとは……想定外だ」


平岡は難しそうな顔で考え込むふりをする。


まさかも何も木村派は紅林派か松金派のどちらかに付くことは明白なのだから想定外も何も無いだろう。


多分それっぽい雰囲気を出して、この〈想定外だ〉というワードを使ってみたかったのだろう。馬鹿丸出しである。


「他に情報は無いのか?」


「そうですね……そういえば紅林の奴なのですが、アイツ〇〇駅裏の店によく寄るのですよ」


「〇〇駅裏って、あの飲み屋街の事か?」


「はい、夕方なのでまだ店は殆ど開いていないのですが、どうやらあの辺りにある小物店がお気に入りのようでして


よくそこに出入りしているみたいです。それで先日その店に向かっていた紅林が三人くらいの男にナンパされていました」


「ナンパ?他校の生徒にか?」


平岡は驚いた表情で問いかけて来た


「そうです、あの制服は筋脳工業だと思います、あそこは偏差値もガラも悪い馬鹿高校ですからね。


紅林は見た目だけはいいので声をかけられたのだと思います。


ただ、あの時間だと飲み屋も開いていないので人通りが少ないじゃないですか。


だから紅林の奴怯えちゃって、やっぱりお嬢様はああいう事に耐性が無いのか見ていて哀れなぐらいでしたよ。


その時たまたま警官が通りかかったので事なきを得ましたが、あのままだとどうなっていたのでしょうね?


あっ、こんなつまらない話ですみません」

 

俺がワザとらしく頭を下げると、平岡は口角を上げ満足げに微笑んだ。


「いや、悪くない情報だ。お前のような人間には大したことがない情報に思えても、俺にとっては重要な情報だ。まあ見ていろよ」


何故かキメ顔で大物ぶる平岡、そんな彼の言動に俺は必死で笑いを堪えた。


「俺にはよくわからないですけれど、紅林派と木林派が手を組んだら松金派は負けちゃうじゃないですか⁉


そこで平岡さんが〈ここは俺に任せてくれ〉とか言って起死回生の逆転劇とかやっちゃえば


派閥内の人間も平岡さんの力を認めるというか目が覚めて、松金から乗り換えるのではないですかね。


いよいよ平岡派の誕生ですよ‼」

 

平岡は嬉しさを隠しきれないのか、ニヤつきながら真剣に考えこみながら時折ウンウンと満足げにうなずいているのがとても滑稽だ


【下手の考え休むに似たり】という言葉があるが今の平岡は自分がシャーロック・ホームズにでもなった気分なのだろう。


嫌な奴だがここまでくると笑えるのでそこは評価するべきポイントだろう。


「そうだな……ウン、その通りだ。俺にいい考えというか作戦がある、ちょっと耳を貸せ」

 

平岡は俺に手招きしていかにも極秘機密を話すように小声で作戦とやらを伝えて来た。


ここは最後まで付き合うべきだろう。平岡の作戦はびっくりするぐらい俺の予想通りだった。


「いいじゃないですか⁉さすがは平岡さん、その神のごとき智謀は計り知れませんね


帝都学園の孔明と呼ばせてください‼」

 

ちょっとヨイショが過ぎたか?しかし平岡は得意げだ、むしろ〈もっと言え〉とばかりの表情を浮かべている。


ああ、コイツが嫌な奴だけでなく馬鹿で良かった。


「じゃあ、作戦には俺にも参加させてくださいよ、平岡さんの力になりたいっす。


それでこの作戦が上手くいって平岡さんがトップになったら、俺にもいい目を見させてくださいね」

 

俺がそう言うと、平岡は溢れんばかりのホクホク顔でうなずいた。


「任せておけ、俺がトップになった暁にはお前にも相応の待遇を与えてやる。


それと……紅林美鈴を俺の彼女にするというのもいいかもな、その際にはお前にも女を回してやる」

 

平岡は下卑た笑みを浮かべ嬉しそうに口元を緩めた。


それにしてもコイツもか……どいつもこいつも美鈴の色香に惑わされやがって。


まあ、あれだけ可愛いのだから仕方がない事ではあるのだが、美人というのは本当に……


俺は心の中で思わずため息をついた。


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