名前の由来
「ちょ、おま、自分の言っている事がわかっているのか?お、男の部屋に一人で入るとか……」
美鈴が俺の部屋に⁉あまりの超展開に挙動がおかしくなり思わず言葉が裏返る。
「何をキョドっているのよ、隣の部屋には沙羅ちゃんがいるのでしょう?
いくら何でもそんな状況で変な事はしないでしょう?」
思い切り動転している俺の言動とは裏腹に美鈴は至って平静だ。
「な、何が目的だ、理由を述べよ⁉」
「理由なんかないわよ、何となく興味があるだけよ」
まるでそれが当然とばかりに言い切る美鈴。女王様はどこまでも気まぐれなのである。
特に反対する理由もないので俺は仕方がなく美鈴を自室に入れる事にした。
「じゃあ……どうぞ……」
俺は緊張しながら美鈴を部屋へと案内する。普通緊張するのは向こうですよね?
普通じゃない俺が世間一般の普通というモノをどの程度理解しているかは甚だ怪しいが。
「ふ~ん、これが大和の部屋か……」
俺のベッドに腰かけ、物珍しそうに部屋を見回す美鈴様。俺の部屋に家族じゃない女がいるという状況がまだ信じられないでいた。
これは夢か?夢ならばどこから……俺がそんな的外れな考えを巡らせているのも知らず美鈴は警察の鑑識班のごとく俺の部屋を観察していた。
「あんまりジロジロと見るなよ」
俺の一言に美鈴は〈どうして?〉とばかりに無言のまま不思議そうな顔をこちらに見せた。
そんな仕草も一々絵になるというか、普通に可愛くて腹が立ってくる。
「恥ずかしいだろうが……」
俺がボソリとつぶやくと美鈴はニヤニヤしながら返事をする。
「何、乙女みたいなことを言っているのよ」
「プライバシーの問題だ、俺は単にセキュリティ意識が高いだけだ」
「何よ、それ、意識高い系の真似?あっ、わかった。もしかしてHな本を隠しているとか?」
右手を口に当ててイヒヒヒヒと笑う美鈴、悪乗りに拍車がかかり益々調子に乗ってきた女王様。
だがこのままやられっぱなしの俺ではない、さあここからが反撃開始だ。
「馬鹿言うな、今時紙媒体のエロ本とか持っている訳がないだろうが。
秘蔵のエロ画像は全てこのパソコン内に保存してある」
俺は自分のPCを軽く叩きドヤ顔を見せると美鈴の熱が一気に冷めているのがわかる。
これを世間一般では〈ドン引き〉というのだろう、俺はまた一つ人生の貴重な経験をした。
「大和……どうしてそういう事は恥ずかしげもなく言えるのよ、貴方の羞恥心の基準がさっぱりわからないわ、全く……」
呆れ顔でゆっくりと首を振る美鈴、どうやら俺はまたどこかで間違えたらしい。
俺の親友に猫型ロボットがいれば今こそ縋りつくところだ、なぜ人生にはセーブポイントが無いのだろう。
「俺に常識的な反応を期待する方が無茶なのだ、つまり美鈴が悪い」
俺はさりげなく責任の所在をすり替えた、自分の失敗の原因を女性になすりつけるという実に男らしい行動に出たのである。
最低クズ野郎の定義にも当てはまってしまうのは心外だが……
「はいはい、わかったわよ。でも貴方は自分で言う程非常識ではないと思うけれど」
「じゃあ、今の会話は間違っていなかったと?」
「そんな訳ないじゃない、大間違いよ‼テレビなら二度と出られないレベルの放送事故よ‼」
どうやら女王様の心のコンプライアンスに引っ掛かったようで叱責を頂戴する羽目になってしまった。
きちんと反省し、もう流れと勢いで話すのは止めにしよう。
そう俺はちゃんと反省のできる男なのでである。ただその反省を次につなげられないだけなのだ、つまり俺は何も悪くない。
俺が自己弁護の理屈を必死で考えていた時、美鈴は相変わらず俺の部屋を見回していた
そして何か気になる物が目に留まったのか、視線を止めある物を見つめた。
「これって……」
彼女が指さしたのは俺が作った船のプラモデルである。
「ああ、それか。それは一年前に俺が作ったのだよ」
「ふ~ん、貴方にはこういう趣味もあったの?」
美鈴は珍しそうに俺の作ったプラモデルを見つめていた
「いや、そうでもない。プラモデルを作ったのはそれだけだし」
「そうなんだ、どうしてこれだけ作ったの?」
「その船は俺にとって特別だからさ、何せそれは戦艦大和のプラモだからな」
「へえ~これが有名な戦艦大和か~」
美鈴が物珍しそうにジロジロとプラモデルを見つめ、ふと俺に問いかけて来た。
「この船が貴方にとって特別って名前が同じだから?そういえば漢字も同じだね」
「名前と漢字が同じなのは偶然じゃない、俺の名前はその船からつけられたモノだからだ」
「そうなの⁉」
美鈴は驚いた様子でこちらに振り向いた。
「ああ、冴子が〈強くて、有名で、かっこいいから〉という理由でつけたらしい。
息子の名前をノリとフィーリングでつけてしまうあたり冴子らしいといえば冴子らしいが……」
「へ~、そうなんだ。じゃあこの戦艦大和は凄い船だったのだね?」
美鈴はこちらに視線を向けることなく大和のプラモデルをジッと見つめながら、まるで独り言のようにつぶやいた。
「まあな、性能的には凄い船だったよ」
「何、その含みのある言い方は?」
俺の言い回しが気になったのか、今度は視線をこちらに向けて問いかけて来た。
「戦艦大和は太平洋戦争時に日本帝国海軍の威信をかけ巨額の費用をつぎ込んで建造された
その費用は当時の国家予算の約4%だから今で換算すると約2兆7千億円という事になる」
「そんなに高かったの⁉」
あまりに予想外の値段だったのか、美鈴は目を丸くして驚いていた。
「ああ、ゼロ戦が一機十七万円の時代に一億三千五百万円だからな。
だが戦艦大和が完成した時にはもう戦争の主役は戦艦から飛行機に変わってしまっていた。
時代に取り残された大和は活躍の場を与えられることもなく終戦近くまで残り
敗色濃厚の中で沖縄に侵攻してきたアメリカ軍を撃滅する為、僅かな護衛艦を引き連れて沖縄の救援に向かった。
飛行機の時代に護衛の飛行機もなく裸同然で挑んだ。世にいう〈大和の水上特攻〉だ。
そして待ち構えていたアメリカの大飛行機部隊によって袋叩きに合いあえなく撃沈された。
時代に取り残され孤立無援で多勢に袋叩き似合うという未来を暗示して俺の名前を大和にしたのならば
冴子も中々の先見の明があるけれどな……」
ニヒルを気取る俺だったが、なぜか美鈴は呆れ顔でこちらを見ていた。
「何で歴史に重ねて自虐が入るのよ〈貴方も日本を代表するような立派な人間になりなさい〉という意味を込めて付けられたのでしょ?
自分の名前をそんな風にいうモノじゃないわ」
俺は気分を出してキメ顔で言ったのに美鈴にマジ気味に説教されてちょっと恥ずかしい気分になった。
だが彼女にそう言われると〈この名前も悪くないな……〉と思えるのだから不思議である。
それから俺達は三十分ほどとりとめのない話をして美鈴は帰って行った。
そしてその週の日曜日の午後五時ごろ、美鈴からライン画像
が送られてきた。
そこにはエプロン姿の美鈴と紅林派の仲間たちが満面の笑顔でテーブルを囲んでピースサインをしていた。
テーブルの上にはカレーとハンバーグが置いてあり、メッセージには〈大成功〉と書かれていた。
それを見た俺は自然とニヤついていた。そのニヤついた姿を不覚にも妹に見られてしまいその後キモイと散々罵られる事となったのだが。
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