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イメージ払しょく作戦

〈ねえ、大和。あなた木村君に何をしたの?〉

 

その夜に美鈴から電話がかかってきて開口一番まるで尋問するかのような声がスマホから聞こえて来た。


「別に、特に何もしていないぜ。ただ俺は〈紅林美鈴さんに協力してもらえませんか?〉と素直かつ丁寧にお願いしただけだ」


〈嘘言わないで、そんな訳ないじゃない‼〉


美鈴は感情的な言葉で抗議するように言った。


「その言い方だと木村の方から連絡があったみたいだな」


〈ええ、さっきあったわ。今後木村派は全面的に紅林美鈴を支持すると。


しかも特に要求は無いから先日言った事は全て忘れてくれって……貴方が裏で何かやったのでしょう?〉


「知らんな、木村が突然良心に目覚めて心を入れ替えたのではないのか?」


〈そんな訳ないじゃない‼〉

 

本日二度目の〈そんな訳ないじゃない‼〉をいただきました。まあそりゃあそうだ。


「でもいい事だろうが、素直に喜べばいいじゃないか」


〈それはそうなのだけれど……それにしても大和、何をしたか、白状する気は無いようね〉


「白状って何だよ、俺は犯罪者扱いか?」


〈そういうつもりじゃないのだけれど、貴方ばかりに嫌な思いをさせているのではないかと思うとモヤモヤするのよ。


大和は【勝手にやっているだけだ】と言うけれど、知らないのは単なる責任逃れで


貴方に嫌な事を押し付けているだけじゃない、そういうの、何か嫌なのよ〉


「俺が好きでやっているのだからいいだろう、逆に俺のやりがいを奪うなと言いたい。美鈴はあくまで正道で行けばいい。


裏の事は俺に任せておけ。言っておくがこれは自己犠牲じゃない、あくまで俺が楽しくてやっているのだ、勘違いするな」


〈でも……〉


「例え美鈴が止めろと言っても俺はやるからな。わかったか


俺はお前の為にやっているんじゃない、あくまで自分の為にやっているんだ。


いいか、いくらお前が美人だからって誰もが自分の為に犠牲になってくれると思うなよ、そこを勘違いするな」


〈そんなつもりじゃ……でもわかったわ、これで委員長選挙は勝てそうよ、ありがとう〉


「こちらが礼を言いたいぐらいだ、今の俺は最高に充実している。


何度も言うが美鈴、お前は俺にとって単なる神輿に過ぎない。


俺が楽しむための最高のパーティーメンバーというか、そんな感じだ。


だから過剰な感謝とかはいらない。それにまだ選挙は終わっていないからな」


〈そうね。でも気を緩めるわけではないのだけれど、木村派がこちらに付いた以上、もう勝利は揺るがないと思うけれど〉


「まあな、だが将来総理大臣になろうという人間がこんなところで(過半数獲得で可決)とか恰好が付かないだろう


やるなら全員一致。判定勝ちではなく完全KO勝ちを狙う」


〈勝ちは勝ちじゃない……ていうか、大和。貴方また変な事を考えているでしょう?〉

 

どうやら美鈴の方も俺の性格を理解し始めているようだ。


「ああ、今度は松金派に揺さぶりをかける、上手くいけば完全に奴らを分裂させ紅林派に取り込む事も可能かもしれん」


〈どうしてそこまでするの?選挙の勝ちはほぼ決まったのだから、これ以上波風を立てる必要はないと思うのだけれど〉


「甘いぞ、美鈴。この学園に在籍する以上、これからもお前は戦っていかなければいけないんだ。


だから敵は今のうちに徹底的につぶして味方に引き込む。今度の委員長選挙もただ勝つだけじゃなく圧勝するのだ。


つまり過半数による可決ではなく満票で美鈴に決定させる。


日本人初の女性総理大臣になりたいのだろう?だったらそれぐらいの気概を見せろ」


〈わかった。それにしても大和は電話だと本当に強気で言いたい事を言うわね〉


「あまり前だ、面と向かってこんな恥ずかしい事を言えるか。俺を見くびるなよ」


〈何よ、それ……でもありがとう、大和は優しいね〉


「おい、今の会話のどこに優しさの要素があった?変な褒め方は止めろ」


〈わざわざ言葉にしなくても貴方の優しさは伝わって来るわ、敵にしてみれば容赦なのない悪魔みたいに見えるのだろうけれどね〉


「俺を悪魔とか言うな、俺はせいぜい小悪党か使い魔程度のものだ」


〈その変なこだわりは全然理解できないけれど。あまり無茶な事はしないで〉


「美鈴、お前は一つ大きく認識違いをしている様だから教えてやる。


美鈴のような美人から〈無茶な事はしないで〉と言われて頑張らない男はいない。


それをワザとやっているのであればいいのだが、もし本心で言っているのであれば逆効果だから止めろ


〈私の為に頑張って〉と言われたほうが寧ろ清々しい。将来〈私の為に死になさい〉ぐらい言えるようになれ」


〈そんな事を言えるわけが……そうね、言葉だけの気遣いとか上に立つ者としては卑怯ね、じゃあ改めて言うわ。


お願い大和、今度の選挙で私が圧倒的な勝利を収められるようにして〉


「アイアイサー」


〈クスっ、何よ、それ?でも頼むわね。それで私にできる事って無いの?〉


「そうだな、他陣営の切り崩しは俺がやるから、美鈴は派閥内の結束をより強めるように努力してくれ。


満票で当選する為には誰一人欠けても駄目だからな。


佐々木静香の例もあるし、皆の心をがっちりと繋ぎ止める必要がある」


〈そうね、わかった。でも具体的にはどうすればいいのかしら?政治家が選挙前にやる決起集会みたいなモノをやればいいのかな?〉


「決起集会という発想はいいな、ついでに美鈴の弱点を解消しておくのもいいかもしれんな」


〈どういう事、私の弱点の解消って?〉


美鈴は素直に問いかけて来た。


「まず整理しておくと、美鈴の長所は〈美人でモデルをしている〉〈金持ちのお嬢様〉〈誰にでも優しく気を使える〉


〈コミュ力が高い〉〈気さくで話しやすい〉とこんな所か……」


〈大和に言われると何か素直に喜べないわね。どこか馬鹿にされている気がするわ〉


「それは受け取り方の問題だ。まあお前ら陽キャ共が群れて騒いでいるのを見ると馬鹿に思えるというのは本当だが


それはあくまで俺の見解だ」


〈やっぱり馬鹿にしているじゃない‼〉


「ちゃんと聞いていたのか?あくまで俺の見解だと言っただろう


そして俺は普通の人間に備わっている感覚や神経を持ち合わせていない。


つまり俺の考えることは基本的に世間一般と著しく違うという事だ。


つまり美鈴は世間一般の常識を持ち合わせた正常な人間で俺の見解は歪んでいるという事になる。


これでも俺が悪口を言ったと思うのか?」


〈何よ、その滅茶苦茶なロジックは。変な説得力だけあって何か釈然としないわね。


そもそも自分を貶めることによって理論の正統性を測るとか、どういう理屈よ〉


「納得できなくても理屈が理解できればいい。大体俺の性格が歪んでいるとか今更だ。


話は逸れたが美鈴の最大の弱点はやはり(お高いイメージ)だろうな」


〈私そんなに気取っているかな?〉


「そんな事は無いがこの際本質はどうでもいい。そう思われているという事が最大の問題なのだ。


あの美人でハイスペックお嬢様の佐々木静香でさえ美鈴に嫉妬してコンプレックスを感じていたのだぞ


ましてや何も持たない下々の者共がどう感じているのか少しは察しろ」


〈うっ、それを言われると言葉もないわね。でも下々の者って……〉


「つまりだな、いくら周りに気遣って気さくに接していても〈美鈴はやっぱり上級国民だし〉とか思われていたら意味がないという事だ」


〈上級国民って……でもこの学園に来ている生徒は大半がお金持ちの家庭じゃない〉


「確かにそうだが、ひとえに金持ちと言っても〈大金持ち〉と〈世間一般の家庭に比べれば裕福な家庭〉というのでは全く違う。


美鈴は社長令嬢だし、美人でモデルをしていて、しかも頭が良くて友達も多い。


つまり存在そのものがコンプレックスの対象になりかねないのだ」


〈何か凄く嫌味を言われている気がするのは気のせいかしら?〉


「気のせいだ、俺の言い回しが一々相手の神経を逆なでして癇に障るという


無駄なスキルを持ち合わせているという理由もあるが、この際それは置いておこう」


〈それは根本的に治した方がいいと思うけれど……〉


「俺はこの性格を改める気はないからこの問題に割く時間はない。


それで美鈴のお高くて嫌味なイメージを払拭するためには逆の印象を与える事にすればいい」


〈今さりげなく嫌味なイメージとか付け加えたわね。アンタ本当に嫌な性格しているわね〉


「スマン、つい本音が出た。話が進まないから余計な事は割愛するぞ。その美鈴のお高くて嫌味な……


じゃなくて、どこか鼻に付いて勘に障る……違うな、悪印象を払拭する為には……」


〈もういいわよ、どうとでも好きに言いなさいよ‼〉


「一々キレるな、俺が言いたいことは単純なのだから。つまりだな、お高いイメージの逆をすればいい。つまり庶民派をアピールするんだ」


〈庶民派をアピールって……どうすればいいのよ?〉


「そうだな、手っ取り早いのは手料理、できれば家庭料理をみんなに振る舞うとかどうだ?」


〈私、料理はあまり……〉


「全くやった事が無いのか?」


〈クッキーなら作った事が二度ほどあるわ〉


「出た、インスタだのⅩで、お菓子だけは作った事があるという謎のアピール人間か⁉」


〈大和、貴方は私にアドバイスをくれるの?それとも私をディスりたいの?〉


「スマン、今のは俺が悪い。つい……でも料理なんか簡単だ、レシピ通りに作ればいいのだからな。


今はネットでどんなレシピも簡単に手に入る。そもそも家庭料理というのはそこまで手の込んだ物は少ないからな。


適当に作ってそれっぽく振る舞えばいいだろう」


〈そこは一ひねり欲しいわね。一般的な料理だけれど、ちょっと皆とは違う……みたいな〉


「美鈴……お前、普段料理しないくせに言う事だけは一丁前だな。


そういう見栄っ張りなところは嫌いじゃないが、そういうのは世間からは嫌われる傾向にあるぞ?」


〈うるっさいわね、わかっているわよ⁉でもみんなに好かれたいじゃない、本音で語り合える本当の友達になりたいじゃない。


だからその為に少しぐらい見栄を張ってもいいじゃない‼〉


「自分は背伸びしているくせに他人には本音で語れと?まあそれも政治家っぽくていいけどな」


〈アンタは一々嫌味を言わないと気が済まないの⁉〉


「悪い、悪い。で?何を作るつもりだ?」


〈う~ん、そうね、改めて言われると……そういえば大和は料理ができるのよね?〉


「ああ、子供の頃から料理はしている。今では食事の準備や妹の弁当まで全てが俺の担当だ。


だからよほど凝ったものでない限り作れるぞ」


〈ふ~ん、人間どこか長所はあるモノね〉


「ここまでの報復か?だが言っておくがこの話題での口喧嘩だと美鈴に勝ち目はないぞ」


〈どんな話題でも貴方と口論する気はないわ、勝てる訳ないもの。


それより貴方の家はお母さんが食事を作ってくれる事は無いの?〉


「無いな……あ、いや二度ほどあったか。俺が熱を出して寝込んでいた時に冴子はお湯を沸かしてパックのご飯にお茶漬けの素をかけて作ってくれた。


だから俺にとって【おふくろの味】とは、永谷園さんの企業努力によるところが大きい」


〈そ、そうなんだ……それより大和、どんな料理を作るのがいいと思う?〉


「そうだな、庶民の料理で個性を加える余地がある物。カレーとかハンバーグとか、かな?」


〈カレーとハンバーグか、いかにも家庭料理の代表って感じね。でもその二つに手を加える余地とかあるの?〉


「ああ、あるぜ。俺の作っているレシピで良ければ教えるよ。結構凝っているつもりだ」


〈そうなの?大和は男子高校生のくせに料理に凝るとか、意外ね〉


「お前な、世界的に有名な料理人は男の方が断然多いだろうが。


それに今時〇〇のくせにとかの発言は炎上待ったなしだぞ、気を付けろよ」


〈大丈夫よ、こんな事は大和にしか言わないし〉


「ハイハイ、特別扱いしてもらえて光栄ですよ。じゃあカレーとハンバーグの一般的なレシピと俺のオリジナル料理法を教えればいいのか?」


〈そうね……いや、やっぱり直接教えて欲しいわ。明日そっちに行っていい?〉


「そっちって、もしかして俺の家に来るつもりなのか⁉」


〈そのつもりだけれど、ダメ?〉


「ダメじゃないけれど……美鈴はいいのか?」


〈問題ないわ、一応両方の親からは公認をもらっているし。


ウチに来てくれてもいいのだけれど、大和は家の夕食の準備があるのでしょう?


だったら私が行く方がいいじゃない〉


「まあ、それはそうだが……」


俺にしてみれば友達を自宅に呼ぶことすら十年ぶりくらいなのに同級生の女子を呼ぶとか、どう考えてもハードルが高すぎる。


ましてや来るのはあの紅林美鈴なのだ。あの超絶美少女を相手に俺が変な気を起こさないか心配になってきた。


ここはストレートに聞いてみるか。


「明日だとウチは誰もいない可能性が高い。二人きりとか危険だと思わないのか?」


〈大丈夫よ、信じているから〉


何だ、それ。俺自身が自分を一番信用していないというのにどうしてそんなに無条件で信用できるのだ?


まあ俺が男として見られていないというのが一番の原因だろうけれどな。


「わかった、じゃあ明日な。一緒に行動すると誰かに目撃される可能性があるから別々で行動しよう。住所はラインで送る」


〈ありがとう、材料は私が用意するわ、どんな食材必要なのか住所と一緒にラインで送って〉


「わかった、じゃあ明日」


〈じゃあ明日、おやすみ〉


「ああ、おやすみ」

 

いつものように通話を切ったが、明日の事を考えると何か複雑である。


部屋を出るとこちらもいつものように沙羅がジッとこちらを見ている。


今回は聞き耳を立てて聞いていたわけではなさそうだが相変わらずこちらに何か言いたげな顔をしていた。


「なあ、沙羅。お前明日の帰りは遅いのか?」


「何でそんな事を聞くのよ」


「沙羅の帰りが早いか遅いかで明日の夕食のメニューを決めようか、と思って」


「別に、明日は友達と約束があって遅くなりそうだから夕食はいらない」


「そっか、じゃあ明日は簡単なモノで済ませるよ」

 

さりげなく聞いたつもりだが沙羅はどこかいぶかしげな表情でジッとこちらを見ている。


別に後ろ暗い事は何も無いのだから堂々としていればいいのだが,美鈴が来たときに沙羅がいるとさすがに気まずい。


美鈴本人に聞けば俺と付き合っていないことが一発でバレてしまうからだ。


もし嘘でマウントを取っていたことが妹に露見した場合、俺を心底馬鹿にする沙羅の顔が目に浮かぶ。


〈だったら最初からそんな嘘をつくなよ〉という話なのだが……


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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