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第2話 一ノ瀬亜里亜について

授業が始まる前。職員室にて教師によるミーティングを終えると、受け持っているクラスの教室へ向かい、大判の石板が敷かれた廊下を歩いていた。

灰色の塗り壁に嵌めこまれている窓ガラスからは眩しい太陽光が差し込んできている。

壁越しには、授業が始まる前に互いの情報交換をしている生徒達の楽しげな声が聞こえてきていた。

私が受け持つクラスは「1-A」。

今年の入試テストにて、上位20位までの点数を出した生徒達だ。

この世界へ転移してきて1年である25歳そこそこの私が、最も学力が高い生徒達を担任として受け持っていた。

学校にとって最も重要な生徒達を担当している要因は、平民学校の理事が私を養女として引き取ってくれた日比野家がしているためであるが、現状に至っては異世界で多くのことを学んできた私は、既に同僚となる教職員達からは一定の尊敬を得ていた。

生徒達は、教室の扉を開けた私の姿を確認すると、自身の席に戻り始めながら友達であるかのように挨拶をしてきた。



「「二估ちゃん。おはよー」」



騒しいかった教室内が少しずつ静かになっていく。

最初のうちは日比谷先生と呼ばれていたはずだが、1カ月の間で生徒の全員が二估ちゃんと呼ぶようになっていた。

この異世界は年齢による上下関係は存在しない。

とはいうものの、職業や階級に関していうとそうでもなく、教師については尊敬の対象とされているはずだが、陰キャの代表格である私は既に生徒達なら結構な感じで舐められていた。

こちらから生徒へ近づいていき、友達のような関係になったわけではないということだ。

転移してきた帝国は貴族社会の要素は極めて低いものであり、実力世界の環境へ向かっていた。

生徒達が各自の席についたのを確認し、出席を取り始めるため最初の生徒となる名前を呼んだ。



「出席を取ります。一ノ瀬亜里亜」

「はい」



窓際の真ん中くらいに座った女が小さな声で返事をしてきた。

一ノ瀬亜里亜。

小柄で目立たない容姿をしている。

両親は共働きで中流家庭に該当していた。

平民学校の授業料を支払っていくには厳しい年収であると推測される。

性格は内気で従順、努力家だ。

記憶力は一般的にいうと標準。

優秀な生徒が集まる学校内においては、勉強に付いていくのに精一杯だ。


彼女と初めて会ったのは面接時。

平民学校では、筆記試験と併用し、適正な生徒であるかを確認するために面接を実施していた。

一般的に面接で評価されるポイントは、理解力・学習意欲・自主性・マナー等となる。

具体的にいうと最も重視しなければならない要素は『EQ(Emotional Intelligence Quotient)値』であるが、その値を面接で推し量ることは不可能だというのが現実である。

EQ値の話については、また後日ということで…


話は戻るが面接は受験生1名に対し面接官3名で行われる。

一ノ瀬亜里亜は顔を真っ赤にし、汗をハンカチで拭いていた。

心臓の鼓動が速くなり体温が上昇しているようだ。

緊張しているせいもあり質問に対する返事の内容は、要領が悪いものであり、対応力・理解力は平均以下な評価であった。

――――――――――だがその時、意識することなく私は特殊能力である『話を聞くこと』を発動していた。

彼女の視線の動き、体温、仕草を細かく分析し、精神状態をほぼ完璧に把握していた。

話を聞いていくためには緊張をほぐしていく必要がある。

その効果的な手段とは、容易な返事が可能な質問をすることだ。

面接に備えて事前に受け答えのロールプレイングをしておけば、事前に自身の問題を洗い出すことができる。

つまり、日常的にしている会話とは普段から繰り返してロールプレイングをしていることに当て嵌まり、スムーズに答えていくことで緊張がほぐれていくのだ。

一般的には、天気の話であるとか、出身地、話題な事柄を聞くと効果的だと言われている。

更に言えば、出身地が一緒だったりする共通点や共通した認識が生まれてくると、面接官に対する警戒もやわらぎ、正常な精神状態へ近づいていく。

この作業は心理学の知識があれば、難しい作業ではない。

簡単な日常会話を交わし始めていくと、一ノ瀬亜里亜の言葉が少しずつ滑らかになり、流れていた汗が引き始めていく。

緊張がほぐれ始めていくことを確認すると、準備していた『本題に入る』ことにした。



私は、受験生達に事前に書かせていた履歴書に目を通しており、そこで彼女が抱えている疑問に対し興味を持っていたのだ。



少女は一般的に聞くと主に天文学と物理学について疑問を抱えていた。

それは世間一般でいうと非常識なものであり、同席していた試験管からすると心証を悪くするような事柄ばかりであった。

だが、その疑問は驚くべきほど論理的であり、更に正しく分析し、考察および仮説までたてていた。



会話を重ねて、一ノ瀬亜里亜のIQ値は『200』近くあることを確信した。



IQ値とは遺伝規定性が強い。

遺伝によって決定されている部分が大きいと言われているが、生活環境によっても変化するとされている。

亜里亜の場合は、育ってきた家庭環境の話を聞く限りでは幼児期は余裕で200を超えていたのではないかと推測される。

彼女の場合、驚愕するほどの理解力をもっているにも関わらず、記憶力は一般的な標準であり普通であった。

つまり、テストや試験結果は優秀ではないということだ。

IQ値が高いと勉強が出来るものだと思われがちであるだが、実際はそうでもない。

とはいうものの、人類史において影響を与えてきた偉人達は、IQ値が高い者ばかりであることも事実である。

テストで優秀な結果を出せない、つまり周囲から認められづらい一ノ瀬亜里亜が、この先、何かを成し遂げる可能性は極めて低いものであると推測されるが、個人的には偉業というものに興味がなく、そのあたりの事柄についてはどうでもいいと考えていた。



私の関心は脳そのもの。



外的要因を与えることで、少女にどんな化学反応が起きるのかを見ていきたいと考えていた。

だが、当面の課題は亜里亜の学力の向上になってくるだろう。

落第点を出してしまうと、私の受け持ちでは無くなってくるからな。

入試の際は不正な手段で加点をしたが、その手段はもう使用不可である。

私は生徒達へ補修授業を行うことについては苦にならない。

亜里亜の方もやる気があるので、学力面については何とかなるだろう。


本来の目的である『外的要因』を何にするかであるが、私は一人の生徒を抜擢することにした。

その生徒の名は、三賀莉耀。

一般的には、優秀な者に見られづらいタイプに該当する生徒だ。

だが私の見立てでは、ビジネス面に関しては特化した能力を発揮するのではないかと思っていた生徒である。

養女に迎え入れてくれた日比谷家から、優秀な人材を確保するために私は平民学校へ送りこまれた目的を果たすなら、彼女が突き抜けた存在となってくるだろう。





一ノ瀬亜里亜と、三賀莉耀の話はまた次回。

次の投稿は未定です。

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