第1話 日比谷二古(自己紹介)
私の名は日比谷二估。
異世界へやってきた転移者である。
年が25才の独身女であり、1年前にこの世界へやってきた。
転移前の世界では『脳科学』に携わる職に就いていた記憶があるものの、その他の事柄についてはほとんど覚えてない。
現在は日比谷家という貴族の養女として異世界で暮らし、帝国首都にある女学校で教諭の仕事に就いている。
顔立ちはおでこが広く、左右対称に整い、綺麗な骨格をしているが、何故か髪の毛が針金のボサボサ頭であり、生徒からは二估ちゃん、もしくは残念微人と言われていた。
身長は高く出る所が出ていない、いわゆるツルペタのモデル体型だ。
生徒につけられたあだ名である『残念微人』の『微』の由来が何かというと、『微乳』の『微』であるそうだ。(おい、生徒達。それ、なんとかハラスメントラに該当する禁止事項なはずだぞ)
おそらくだが、私は化粧をすると相当の美人になるはずで、転移前の世界では、イケメン達を弄んでいた悪女だったのではないかと自己分析をしていた。
とはいうものの、スッピンの私を鏡で見ると、自分でいうのもいかがなものかと思うのだが、少しばかり怖いかもしれない。
特殊メイクはしていないのだが、ホラー映画で出てくる、死霊役に見えるのだ。
名前の記憶がない私に、義母がニコニコするようにと願いを込めて日比谷二估と名前を付けてくれたのだが、笑った顔は更に怖くなる。
義母に懺悔をさせてもらおう。二估という名前を活かしきれてなくて、マジですまないぜ。
私は平民の女子達が通う高校に勤務しており、この世界の読み書きについては完璧に学習し記憶していた。
現在のIQは140くらいだろうか。
記憶力が極めて高く、特に語学力が高いようだ。
いわゆる秀才に分類される者であるが、天才というものでは決してない。
私が日比野家の養女として迎え入れられた理由は、容姿ではなく、頭脳明晰であるところを認められたからだ。
平民学校の教師として派遣されている目的は、日比谷家に優秀な人材を確保するため。
そう。平民学校は学力試験を行い上位の点数を出した者達だけが通ってくる。
上昇志向が高く、平民の中では裕福な家庭環境にある者がほとんどである。
現在の皇帝の地位にある者が女帝であり、女性の社会進出を目的とし、女学校が開設されたのだ。
私は志というものが欠如していた。
自分に関心がなく自己肯定感が低い、自身のことを無価値な女と思っている。
そんな私は可哀想な者であると思われる傾向が強く、励まそうとしてくる者が結構いるのであるが、大きな迷惑だというのが正直な気持ちだ。
お前達という人種は、自己肯定感が低い可哀想な者を励ましている自分が好きなだけなのだろ。
そして励まされている方はお前に感謝し喜ぶものと思いこんでいるようだが、マジで迷惑の一言だ。
マジで放っておいてくれ!
とにかくだ。自分のことは自分でやるということだ。
自身に価値を見出せない場合の対応策とは、それは他人に価値を見出し『依存』することが最良な方法となる。
つまりだ。私のような者は、一歩間違えると危ない女になってしまう。
だが私の場合は、特定の男に依存する可能性は極めて少ない。
何故なら、男達のことを見下しているからだ。
所詮は、奴等は盛りのついた犬。
エッチが出来るなら誰でもいいと思っている生き物だらかな。
話を戻すが、自己肯定感の低い私が依存する対象は『他人の脳』だったりする。
脳というものに異常に関心を示していた。
そして現在。
異世界にやってきた時、よくある『特殊能力』を私は身につけていた。
女神のミステイクで死亡した謝罪として貰ったものであるかは定かではないが、経緯についてはどうでもいい。
その特殊能力とは『話を聞くこと』。
聞き上手と言えばそうなのだろうが、私の前では、全員が本当の気持ちを『ゲロ』してしまう。
もしかしたらであるが、前いた世界では『叩き上げの刑事一課長』であった可能性もあるかもしれないか。
それはさておきだ。
私が教師として受け持っている生徒は、平民学校へ入学してまだ1カ月の者達である。
その数が20人。
競わせるにしたら少ない数であるが、個性を伸ばすと考えたらこれくらいの人数が限界になってくるだろう。
とはいうものの、私には生徒の個性を伸ばすという概念、思考は存在しない。
生徒達は、私の食材であり、研究対象なのである。
私は極めて規則正しい生活を心掛けていた。
朝6時には起床して、ストレッチから毎日の生活が始まる。
決まったことをしないと落ち着かないという感情は全く無く、単に健康的に生きることを目的としているだけのことなのだ。
そもそも論を言うならば、健康的でいる理由も全く無いが、他に優先することも持っていない。
生きている限りは精一杯というよりは、とりあえず人らしくなるように努力していた。
現在は日比谷家から出て、平民学校の敷地内にある宿舎を借りて住んでいる。
食事への興味についても一切ない。
大人の女性として見られることを目的に、とりあえず珈琲を沸かし、人の真似ごとみたいなことをルーティン作業としていた。
朝7時には既に登校をし、仕事の準備を始めている。
私が受け持つ科目が、国語と数学。
大学入試のための勉強を教えるわけではなく、淡々と学問を教えるだけの作業だ。
とはいうものの、上昇志向の高い生徒達からすると、学校の成績が卒業後の進路に影響するのが実際であり、皆真剣に勉強をしていた。
まったくもって真面目な奴等だ。
朝8時になると、職員室内で教師によるミーティングが始まる。
ここの勤務している教師のほとんどは、平民学校を優秀な成績で卒業した者達ばかりだ。
私と違い、意識が高く話をすると価値観が全方位に噛み合わないことを実感させられていた。
そして教師によるミーティングが終わると授業が開始されるという流れだ。
先にも書いたとおり、私が受け持っている女子生徒の数は20名。
全員が選りすぐりの優秀な生徒であるが、実はその中で一人だけ、私が『えこひいき』をしている者がいた。
その生徒の名前が、一ノ瀬亜里亜。
20名いる中で、唯一、中流家庭の娘である。
入試の成績は至って普通。
合格には遠く及ばない点数であり、平民学校へ通えるものではなかった。
にもかかわらず、なぜ平民学校に通っているのかというと、それは、私が不正をしたからだ。
誰にも分からないように、入試の点数を引き上げたのだった。
当然、裏口入学という類ではない。
理由は至極簡単。
私がこの生徒の『脳』に興味をもったからだ。