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9 ペテン 茶番 欺瞞
「君とは付き合えない。君はまぶし過ぎて僕は失明してしまいそう」
誰かが溺れ死のうとしている。誰かではなく世界中がかもしれない。もしそれを食い止めることができる人がいるとすればそれは自分かもしれない、と男は思う。だが男には救えない。目の前で溺れて死んでいく友を手をこまねいて見ているしかない。
「君のようなかわいい恋人がいてくれたらな」
「あなたは美しすぎてCGに見える」
テレビではアフリカの貧困について議論されている。コメンテーターたちは男よりも高い学歴と知識と地位と名誉と金を持っている。
この人たちは一体何をしているのだろう、と男は思う。こんなに影響力のある人たちなのだから、議論なんかしてないで行動に移せばいいのにと思う。自分には何もできないと男は思う。こんなに力がある人たちに解決できない問題は自分の手に負えないどころか誰の手にも負えないと思う。それなのにアフリカの痩せた子供たちの映像を見せられて心を痛めていることは何の意味もないことのように思えてくる。ペテンにかかっているように思う。