7 ハルキのベストセラー本
本屋では村上春樹の小説がたくさん積まれていた。売れているらしい。男は春樹の本を立ち読みしてみた。相変わらず春樹の本の中の主人公はなよっちくてガッツがなかった。春樹の小説の主人公たちは大概がヤッピーで最大公約数的な人物たちで、ヒーローと呼ぶには平凡すぎた。春樹の本は男の求める本ではなかった。登場人物に共感できる部分があまりないように思えた。
ノーベル賞の候補に挙げられているのも納得できなくはないし、小説が売れるのもまあ良しとしよう。だがそれにしても、ガッツがない。こんなんでノーベル賞じゃ世の中ますますなよっちくなってしまう。よし、オレは現代の黙示録でも書いてやろう。男は思うのであった。だがきっと男は10分で筆を置いてしまうことだろう。
春樹の本はもはや世界文学で世界中の読者を相手にしているのだから、現代の日本人の腑に落ちなくてもいい。目覚しい経済発展を続けるアジア地域でも春樹の本は読まれる。それらの地域は一昔前の日本だ。そういった地域に住む人々が春樹の本を読んで何か感じればいいのではないか。彼の本には少なくとも戦争と暴力は似合わないようだから。多少売れすぎてもそれは仕方がない。
ちなみに男は、太宰も三島も嫌いだった。