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魔法の力を失った人魚姫のようなマッチ売りの少女のような深いカタルシス、例え様もなく訳もなくしみじみとしたカタルシスが体中の皮膚の表面を伝わって行って、そしてこのカタルシスもいつかは消えてなくなってしまうことを自分で分かっていて、それが消える時には自分もいっしょにそれに包まれてなくなってしまいたいと考えています。どうせ消え行く身ならば、この空っぽの状態のままで消えてなくなりたい。そのようになくなってしまえれば、消え行く身の痛みと苦しみへの恐怖が、素直な心地良さと無邪気な安心に消されていくはず。満足した私とはきっと、そのように消されていく私なのだ。
カタルシスに包まれた私は全ての思いを消し、心も体も静かにして待っています。私は静かにまぶたの裏に、いつまでも消え失せない永遠の深い悲しみへの憧れを秘めて、祈りを潜めているのです。祈りが祈りではなく、私が私ではなく、祈りが私で私が祈りで、そしてやがては祈りも私も何もないようになることを待っているのです。
でも、そんなふうに思っていても、やはり私だけが悲しみに取り残されてしまいます。映画で見たときのようにカタルシスからはいつか覚めてしまいます。
私はまたここで一人で何かを見つけに行かなくてはならない。この旅をここで消して終わりの映像に私を溶かし込んで、この私をも終わりにしたい。でももう少し飛んでいく。なぜなのか?ここから先に何か興味深いものが待っている。でも、だからそれが何だと言うのか?興味があるから行くのではない。何の興味もないから行く。何も考えないでいられるから行く。何も考えていないのであれば、うれしくても悲しくても何があっても、もうどうでもいい。何をしようがどうせ同じで、ここで終わってももう少し行っても同じことで、元に戻るという選択肢だけはありえない。