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35-10

 私の知らないうちに、あの子供も扉を通ってこちらに来ています。子供は座って西の行列を見ています。私もそばに座って行列を見ます。でも私は、その子供とは口を利かないようにしています。目を合わせないようにもしています。私はただ、行列を見ます。草の上に座って黙って見ています。座って自分が息をしていると感じられるだけでとても心地よい、座り心地もとても気持ちのよい草原です。ただ静かに座っているだけで、私の内面もすっきりと静かで透明で波のない海面のように穏やかになっていきます。でも、そう思えるのもほんの束の間の事です。私は行列を見ます。すると、しばらくは普通の長い行列のように見えています。普通では考えられないくらいにその行列は長いと言うだけで、それ以外は普通の行列だと、ついさっきまではそう思って見ています。けれどもしばらく見ていると、行列の周りには何か影のようなものがいるのが見えてきます。夜の森の中をすばやく飛ぶ鳥の影のような感じです。それはとても速いので、おぼろげな影にしか見えません。少し止まって影のようなものが見えたかと思うと、またすぐにどこかへ飛んで行って見えなくなってしまいます。私の動体視力がその速さについていけません。その影のようなものは行列に近づいたりすることもありますし、遠くから離れて観察しているような動きをすることもあります。そしてその影のようなものは、一つだけではないようです。かなりたくさんいるように見えます。行列の人たちはその影のようなものがいるのかどうかを分かっていないようです。私はそれでますます居たたまれない思いになります。もう私には分かるのです。影のようなものが見えてないように感じられるあの行列の人々ですが、人々は十分知っていると分かるのです。急にそれは分かるのです。それまでは誰も知らないのでと私は思っていたかったのです。でも私が考えているより、彼らはよく知っているのです。けれどもそのことについては、もうこれ以上考えない。思いを揺らされないようにしていたい。そのことをただ単に知っている、という状態に留めておきたいと思う。これから起きることについて、予想を立ててはならない。このことについてはこれまでもすでに知っていたのであって、何も新しいことなど起きていないことにしなくてはならない。

 私の父や母はこのようなことを知っていたのだろうか?そんな疑問がふと沸いて来ても、私にはもうその答えを聞く機会を得ることはできません。この光景について、少なくとも父や母からは私は何も聞かされていません。私の方も父や母に何も尋ねることなしに、ここまでやって来てしまいました。このような光景については、聞くだけ野暮なことのようにされていたのです。きっと世界中の多くの地域で。

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