27 MISIAの波長
大学の研究室に籠って、男女のベストマッチングについて研究を重ねていた頃、男は気晴らしに一人でミーシャのライブに出掛けた。
カーオーディオで聴く彼女の歌声から彼女の体格はとてもマッチョだと想像していたが、実際の彼女のはとても華奢な体格だった。身長が低く、腕も細くて、マイクが重そうに見えた。MCの時の声も華奢な感じだった。歌っている時の力強く伸びのある声とは違い、普段の彼女は小鳥がさえずるようなとてもかわいらしい声で、聞いているとくすぐったく感じられるほどだった。
その時に、ひょっとしてこれかもしれないなと思ったのだ。『人は見た目が9割』という本もあったけれど、美人は3日で飽きるとも言う。もし長く付き合うのであれば、見た目よりも声質や話し方の方が大事なのではないかと、ミーシャを見ながら男は思ったのだ。
翌日から、男は多くの声のサンプルを集め始めた。長く結婚生活が続いている夫婦のものや、離婚手続きが長引いている夫婦のものがサンプルとしては分かりやすくて有効だった。別れた芸能人カップルが想像以上に多く、研究には大いに捗った。情報化社会も、まあ悪くない。サンプルはすぐに膨大なものとなった。
男の予想通りだった。円満な家庭生活を築いている夫婦の声の波形は、2人の声を掛け合わせることでとてもきれいな波形を表す。逆に仲の悪い男女の声だと、掛け合わせた声の波形に乱れが生じる。「恋の波長」がどうのこうのとよく言われるけれど、昔から分かってたことなのだな。ただそれを数値化し視覚化し単純化する技術がなかった。男はちょっとしたアイデアからそれを成功させた。そしてそれをビジネスにしたのだ。