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26 鯨海賊団結成
金曜日の朝、まだ空が薄暗い時間、男は鯨に乗って岸へと引き返した。
服を着て近くのネットカフェに行き、自分の持っていた証券口座にアクセスした。そして目一杯レバレッジをかけて、日本株を空売りした。
金曜の夜から週末にかけて、御前崎の浜岡原発、天竜川上流の佐久間ダム、三重県長島町の長良川河口堰、長崎県諫早湾の水門を回った。時限爆弾を一個ずつ仕掛けて回った。
日曜の夜、爆弾は静かに炎を上げた。
週明けの東京株式市場は波乱の幕開けとなった。爆発の規模は小さく、けが人も出ず、被害も少なかったのだが、日本の安全保障に対する懸念や日本で将来連続爆弾テロが拡大するのではないかとの憶測から、外国人投資家を中心として幅広い銘柄に対し大量の売り注文が出た。全面安の展開だった。男はいったん株価が底をついたところで買い戻し、値が戻ったところで売り抜けた。
そして再び鯨の背に乗り、男は南の海へと消えた。