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2 手相 脈 ミッキー・ローク
男は黙って呑んでいた。隣にいる女も黙って呑んでいた。男は仕方なしに女に聞いた。
「好きな異性のタイプは?」
「ミッキー・ロークみたいな人。あなたは?」
「とよた真帆」
「ふうん」
暗号だとか暗黙の了解だとかが人類の発展に何らかの寄与をもたらすものなのかどうか、それは男にも女にも分からないことだった。二人はワイングラスを傾け合い、怠惰な時間の中に沈み込んでいった。
いつも通りの下らない夜だった。
「私、彼氏いない歴3週間でーす!」
女は言った。
自分の腕時計を見ながら男はこう言った。
「前の彼女と別れてからさっきの9時でちょうど777時間目だ。こんな記念すべき時に君と出会えたことに運命を感じる」
「……」
女は警戒心を強め、少し目を細めた。
「ちょっと手相見せてくれない?」
男は言い、女の左手を取った。
「手相見れるんですか?」
「まあ、ちょっとね」
男は手相を見るふりをしながら、女の左手首をギュッと握った。
「脈なし、フォー!」
「バカ野郎、私は死人かァ!」
二人は夜遅くまでグラスを傾けた。女にはそこそこの夜だった。男にはいつも通りの下らない夜だった。