15 車内携帯
男は久しぶりに電車に乗って遠出し、また一人で電車に乗って帰るところだった。電車を降りるとき、男は意地でも後ろの席を見なかった。
途中の駅で女性が一人乗り、男の一つ後ろの席に座った。その子は携帯を取り出し、友達と長話をし始めた。10代の若い女性のようだった。車両の人はまばらだった。
「疲れた」
「今帰るとこ。今電車の中」
「うん、やっぱり疲れる」
「痛かった。それにほんと疲れた」
「何となく雰囲気はあった」
「2階で休んでる時に向こうから来た」
「やっぱり声は出るね」
「けっこう痛かった」
「でも相手のことは何とも思ってない。これから付き合うかとか、どうでもいい感じ」
「ただの通過点。たまたまあいつが最初だっただけ」
「ほんとに初めてなの?とか何度も聞かれた」
「これから何人も色んな人と付き合うと思うけど、最初がたまたま今日だっただけ」
「でも疲れた。親にも嘘ついたし」
「疲れただけで全然気持ちよくなかった。あいつは気持ちよかったって言ってたけど」
「でもそっちの方がエロいじゃん。舌入れたりとかしたんでしょ。色んなとこ舐めたりとか。ベロベロ音出して」
「あたしは舐めてない」
「あんたの方がエロいよ。あたしはエロくない」
「ギャハハ」
男は自分がとことん落ちていると感じた。男は意地でも後ろの席を見なかった。