14 サマルカンド
年を重ねるたびに男は飽きっぽくなっていった。下らない夜に男は一人、街で自作の歌を歌っていた。
モンスーンやらサイクローンやら
バリではガムラン トムヤムクンはバンコクで
昨日の彼女は鼻毛がちょろり 前歯に刻み海苔
振る前に振られた 今日はラッキーデー
サマルカンドで青い廟の広場で
Tシャツのプリントはピンク色の GO TO HELL
彼女はまさに地獄そのもの
いつも理不尽 俺が出てく前に出てった ヘイ
振る前に振られた 今日はラッキーデー
イースター島のモアイ像バックの
記念の写真は逆光で真っ黒になってて
すねて黙りこむ彼女 モアイ像状態
絶海の孤島にたたずんで歩きだすこと二度とない
振られる前に置いてきた 今日はラッキーデー
インカ帝国の奥深く迷い込んで
抜け出せたのはいいけど そこはエルドラドじゃなかった
その街はマチュピチュ 打ち捨てられた街
金のかけらも見つけられない彼女の心の中みたい
叫び続けるしかない 今日はラッキーデー
カンチェンジュンガの大氷河滑り降りて
タクラマカンの砂漠のキャラバン彷徨って
トンレサップ湖で遠い故郷の夢を見る
イリアンジャヤの口笛吹いてるオランウータン
色の付いた夢の続きの ゲヘナ ラッキーデー
誰も救えない、下らない夜。