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1 カトリーヌの大殺界
ホームセンターで買ってきたバラの苗を庭に植えた。1480円、バラの苗はどこで買っても安くはない。バラの名前はカトリーヌ・ドゥヌーブ、フランスの大女優の名にちなんだか。ピンクの大輪の花が咲くそうだ。
私は今までに何本もバラの木を枯らしてきている。
「名前は?」
男は女に尋ねた。
「カトリーヌ・ドゥヌーブ」
「良い名前だね。僕は綾小路紀彌雅。はじめまして」
「……」
「カトリーヌ・ドゥヌーブって良い名前だけど、綾小路カトリーヌっていうのもいいよね?」
「エッ?あ~、うん、そうかもね」
女は努めて冷ややかに答えた。
「プロポーズは一度断るのが女の子の礼儀だゼ!」
男はそう言って女の額を小突いて笑った。女もつられて笑った。
男はその日、カトリーヌと一夜を共にした。いつもどおりの下らない夜だった。
男には大殺界が近づきつつあった。