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素人はこれだから困る

作者: BEL

素人は現実を見ずに夢想する。

本職からすれば、その語りは無知無謀な事ばかり。


でも、本職の言う事が正しいと言うのは、本当かな?


ライト兄弟が飛行機を発明した時、工学の専門家はこのような事を語ったという。


「素人は大西洋を越えて何百人もの人を運ぶ巨人機を夢想するが、そんなものは決してあり得ない。

速度は速くなるだろうから、郵便配達には使えそうだが、それ以外に飛行機の用途なんて無いだろう」


だが、現実にはジャンボジェットが数百人の乗客を乗せ、大西洋どころか太平洋までも横断している。

 地球からしょっちゅうヒトやモノが異世界転移して来る世界があった。

そしてその世界の人々はそんな転移者を「客人カクジン」と呼んで、重用し、軍事や科学の発展に活用していた。

この世界の航空技術は客人の活躍により、20世紀中盤近く、年代で言えば1940年頃のレベルにまで達していた。



 ある日、戦闘機開発を主導する元1940年代の航空機技術者の開発研究室に、元21世紀の軽めのミリオタ青年が配属になった。

ミリオタ青年は21世紀の戦闘機に関する知識を元に、万能戦闘爆撃機マルチロールファイターを提案する。

だが、それは航空機技術者にとっては、とんだ夢想の代物だった。



「何、戦闘機と爆撃機と攻撃機と夜間戦闘機を1機種でこなすだと? 君は馬鹿かね。 そんなモノを作っても、どれにも使えない駄作機になるだけだろう」



 ミリオタ青年の提案は早々に却下される。

だが、納得できない青年も食い下がる。



「1機種で全部こなせば、生産や整備にも利点がある」



 やれやれという感じで技術者は説明する。



「いいかい、レーダーなんてものは夜間にしか意味はない。 そんなものを昼間に戦う戦闘機に積んでも、重くなって性能が下がるだけだ」


「いや、十分にエンジンが強力なら」


「シロウトはよく夢想するんだよ、何でもできる万能機って夢をね。 だけど、現実は甘くないんだ。 強力なエンジンがあったとしても、敵も同じく強力なエンジンを使った『戦闘機』を作ったら、君の『万能機』は全く太刀打ちできずに落とされる。 簡単な話だよ」



 ミリオタ青年は反論したかったが、時代が古いとはいえ現場の専門家に、ただのミリオタが反論するのは難しい事だった。



 それから数週間が過ぎた。



 ある日、F/A-18Eスーパーホーネットが1機迷い込んできた。

客人は人間が身一つで現れる場合も多々あるが、たまに乗り物ごと現れる事もあり、今回はそういった事例に該当した。


 航空機技術者はスパホがマルチロールファイターと呼ばれ、昔で言う「艦上戦闘機と艦上爆撃機と艦上攻撃機と艦上夜間戦闘機に艦上偵察機まで1機種でこなす」という現実を知り、驚愕する。


 してやったり。


 まさに「ざまぁ」である。 知識チート炸裂だ。

ミリオタ青年は航空機技術者の前に立ち、ドヤ顔で自分の考えの正しさを語る。

航空機技術者は反省し、ジェットエンジンの開発を進める事を決めた。


 だが、この日転移して来たのは戦闘機とその乗員だけでは無かった。

全く無関係に、一人の少年が転移して来ていた。


 彼は軍事に関心があるという事で、この開発研究室に配属になる。

彼は軍事に関心がある割には戦闘機には詳しくなかった。 別に分野違いと言う訳でもなく、戦車についても知識が乏しく、艦艇についても同じだった。

その代わり、ロボットアニメが好きで、将来の軍隊は戦車も戦闘機も無くなって、ロボットに統合されると語る。


 そんな彼をミリオタ青年は笑う。



「あのね、ロボなんて無駄に背か高いから、ただの的だし、空を飛んでも飛行機より遅くなるでしょ、使い物にならないよ。

戦車と戦えば戦車に負ける、戦闘機と戦えば戦闘機に負ける。 何と戦っても、専門兵器には勝てないんだ。 万能ロボなんて夢物語なんだよ」



 だが、少年は自分の正体を隠していた。

ロボットが活躍する娯楽が好きなのは本当だが、彼がやってきたのは23世紀末の日本からだったのだ。

彼は特定の作品の設定について語っていたのではなく、自分が知る兵器について語っていたのだった。

彼にとっては戦車も戦闘機も、生まれる前に廃れた歴史上の兵器でしかなかった。



 誰しも、自分の知る常識の範囲でしか物事を考えられない。

航空機技術者はエンジンのパワーを速度や加速能力に割り振っても「カンスト状態で意味がない」という20世紀末の状況を理解できなかった。

同様に、ミリオタ青年も21世紀初頭の常識から離れる事が出来ていない。

核融合炉やさらにそれを凌駕するパワープラントが出現した時、それまで「不利」とされていた事が、パワーに余裕があるため特に意味がないという状況が生まれるのである。


 ミリオタ青年は過去の航空機技術者を笑ったが、彼が航空機技術者より優れた思考能力を持っていた訳ではないし、航空機技術者が「誰でも気づく事」に気づかない愚か者だった訳でもない。

単なる「知識の差」でしかないのだ。

そして両方とも、「外挿能力」に欠く、未来予測が出来ない残念な「普通の人=凡人」でしか無かっただけなのである。


 歴史は繰り返す。 これこそが真理なのだ。


 さて、ミリオタ青年が航空機技術者と同じ運命を辿って「ざまぁ」される日はいつ来るでしょう。

それは明日か明後日か。

付録 ロボット開発史(年代は無い)


 こちらのほうが長いですが、あくまで付録です。


 少年の住んでいた世界でのロボット開発史になります。


●パワードスーツ

 歩兵の筋力を強化するパワードスーツが普及する。

これにより、行軍速度や戦場での移動速度が向上し、二、三人で運用していた重量のある兵器も一人で運用でき、大量の物資を携行出来るようになり、戦闘能力は大きく向上する。



●装甲スーツ

 パワードスーツの発展は続き、甲冑のような装甲で兵士を守るようになる。

強化されたスーツは装甲があっても、その機動力や運搬性能は低下せず、自動小銃の弾を跳ね返すスーツにより、戦場に革命をもたらす。



●無人スーツ

 スーツを構成するテクノロジーシステムはまだまだ発展余裕があった。

しかし、人間が装着する限り、人間サイズに規制される。

そこで、遠隔操作ドローンの技術と統合され、人が装着しないスーツが作られる。


 破壊されても人員が失われず、生命維持も不要な無人スーツは新たな主力に躍り出る。

これには、電波に代わりニュートリノを通信システムとして利用できる様になったことで実現した。

ビルの中でも、深い地下室でも、それどころか山の向こう、いや、地球の裏側であっても衛星を介す事無く制御できるようになったのだ。


 無人スーツの制御は操縦者の脳と直結したシステムで行われる。

操縦者は何かの操作をするのではなく、単にバーチャルの中で体を動かすだけ。

脳からの指令はそのままスーツへ渡り、スーツからのフィードバックは安全性を確保した上で、ほぼそのまま脳へと伝えられる。

脚がぬかるみにはまれば、その感覚が脳に伝わるし、被弾して損傷すれば、軽い痛みとして伝わる。

モニタに「ぬかるんでいます」とか「右脚に損傷」といった赤文字が踊るよりずっと判りやすい。

こういったシステムのため、実際の手足等が動く事は無い。


 そして、腕や脚が4本あるスーツは作れない。

4本ある腕は制御できないし、4本ある脚からのフィードバックを脳は受け入れる事が出来ないからだ。

同じ理由で視界も人間と同じ。

常時360度全周を見る事は出来ない。

その代わり、レバー操作やディスプレイ表示などより数桁速い反応速度と正確性、そして習熟訓練の容易さを確保している。



●大型ロボット

 人が着ていないのにスーツとはこれ如何に。 やがてこれらはロボットと呼ばれるようになる。

それはともかく、人間サイズの規制から解き放たれたロボットは、そのサイズを拡大し始める。

大人と子供では戦いにならないのと同様、ロボットも大きい方が強い。

もちろん、単純に大型化はしない。


 サイズが大きくなると、重量が増える。

重量は体積に相関し、体積は長さの三乗で増える。

だが、体を支え力を発揮したり伝達する腕や脚の能力はその断面積、つまり二乗でしか増えない。

足の接地圧も同様。 足の面積は二乗でしか増えないため、サイズが大きくなれば、自然に増加する。

そうなれば、軟弱地盤の戦場などで使用に制限が発生する。

だからといって足の面積をやたらと大きくしても、操縦者が違和感を感じるので、おのずと限界がある。



 サイズが大きくなると、動きが鈍る。

腕を回すのにかかる時間を出力相関させると、大きくなることで、遅くなる。

腕の先端が「同じ速度」で動くと、90度回すのにかかる時間は増えてしまう。

同じ角速度で動かすには、より速く動かさなければならない。

それが出来なければ、大きくなるにしたがって鈍重になる。

これは、制御システムが脳と直結しているため「体が重い」という違和感となって操縦者に伝わり、人型兵器としての利点を失ってしまう事となる。


 だが、これらは素材工学やパワープラントのブレイクスルーなどで、いずれ解決されていく。



●二極化するロボット

 歩兵の代わりをするロボットは自ずとサイズに上限がある。

むやみに大きくしても、建物に入れず、占領が出来ない。

一方、野戦用ロボットのサイズを制限するのは、技術力とコストだけ。

こうして、事実上の人間サイズのロボットと、人間の1.5倍、2倍、3倍と大型化を進める大型ロボットに分かれて進化していく。



●ロボットの時代へ

 大型ロボットは進化を続け、やがて陸戦の王者としての地位を戦車から奪い去る。

戦車砲に匹敵する砲を持ち、戦車よりも高い機動力を持ち、戦車と変わらない防御力を持つ。


 一方、戦車に同じパワープラントを載せても、戦車の能力はあまり向上しない。

既に技術的・運用的にカンストしている部分は、強化の恩恵も無いのだ。

時速500キロとか1000キロで走れるパワーがあっても、そんな速度に履帯は耐えられない。

タイヤやホバークラフトを使えば耐えられるが、戦場でそんな速度を出しても、建物や丘、木々にぶつかる事故を起こすだけ。

精々高速道路を利用した作戦機動/戦略機動でしか意味はない。


 完全AI制御なら事故は避けられるかもしれないが、そこまでやるならロボットのほうが汎用性が高く、わざわざ戦車を維持する必要性が無いのだ。

銃の発達で弓が戦場から消えたように、戦車もロボットの発達により、姿を消す。



●戦闘機にも同じ運命が来る

 進化が進むことで、戦闘機も戦車と同じ運命を辿る。

ロボットも空や宇宙を飛ぶようになると、戦闘機も同じ戦場で戦う事になる。

これまでのように「上から空爆」ではなく、「空戦」をする羽目になるのだ。

戦闘機より強力な武装と装甲を持ち、戦闘機と変わらない機動力を持つ。

ならば、戦闘機に勝ち目はない。


もはや戦闘機は溢れるパワーを速度に極振りして、防御を紙装甲にしただけの存在になってしまう。

使い捨て兵器(爆弾やミサイル)をてんこ盛りにした一撃離脱という「特殊運用」でしか使い道が無くなり、コストをかけて開発運用する意義は失われる。



●総括

 上記の流れでロボットの時代が到来する。

この想定は時間のかかり方に長短はあっても、いずれ起きるでしょう。

兵器の歴史は拡散と統合の歴史。


用途が増えるたび、専用の兵器が生まれ、技術の進歩はそれを統合していく。


 この流れと異なる流れになる分岐点は「大型ロボット」の所。

ここで大型化する前にAI化が先行すると、人型である利点が消えます。

人型の利点は唯一「脳とリンクできる」事だけ。

人が制御しないなら、人型である理由はありません。


ただ、その後の流れは同じでしょう。

AIが制御する「何か」が戦車と戦闘機を統合して駆逐する。

形状が違うだけで、結果は同じ訳です。



 大型化が先行すれば、後からAI化が進んでも、二系統の兵器を開発生産する利点が十分で無ければ、人型のまま進むでしょう。

人型ロボットをAIが制御する訳です。

少なくとも、歩兵は人間サイスであり、占領するには人間用に作られたインフラを活用できる人型が最適な形状でしょうから。

余程メリットが大きくなければ、大型ロボットも同じ制御機構をベースにするほうがコスト的にも有利。


 もっとも、人間の数倍サイズを遥かに超えた、全長何十メートルとかの巨大なものになると、話は別。

どうみても別カテゴリーの存在ですが。

人型がそのサイズに耐えられる技術が発達する前に、形状を問わなければ、そういったサイズの「巨大兵器」を実用化可能になるでしょう。

(可能になる事と、登場する事はイコールではありませんけどね)


 日本一有名なロボットアニメに登場する「***アーマー」みたいなものですね。 陸上用のはあまり見かけませんが。

(陸で使える一番メジャーなのはサイコの名を冠する奴ですが、あろうことかロボットに変形しますな)

「重い物」という意味の名を持つ物体が活躍する作品もありますね。


 リアルなものなら、陸上戦艦(陸上巡洋艦)ラーテですね。

日本一有名なロボットアニメをはじめ、アニメでも陸上を走る船というのは、時折出てきますね。

歩く機械を搭載する陸の船。 やっぱりロボに変形する奴もありますが。

昔のコミックスでは砂漠を走る空母もありましたね。


 そういった存在が地上で主力兵器たりえるのかは疑問が残りますが、無いとは言い切れないのが未来という物でしょう。

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