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7.鑑定士、イケメンを拾う。

 お昼時を過ぎた市場は少し人の波が引いていてゆっくり出店を見て回るには丁度良かった。


「うわぁ、色んなモノが置いてある」


 見た事のないよくわからないモノから見知った形の果物まで出店に並ぶ品は多種多様。

 ラベルが貼られていないモノも多いが心の中で"鑑定"と唱えればそれが何であるのか勝手に表示されるので問題なし。


「出来立ての見たことないファンタジーごはん!」


 はぅわーと感嘆の声を上げるマーガレットは庶民の屋台ごはんに興味深々で目を輝かせる。

 見たことのない魔法道具で食材が宙を舞い、調理されていく。

 マーガレットの身体は貴族令嬢だし、食べ慣れないものを買い食いなんかして胃腸が持つだろうか、と心配になるが。


「いや、でもここは食べる一択でしょ」


 マーガレットは拳をぐっと握りしめ決意する。

 エヴァンス伯爵家で口にしたごはんは正直全て美味しくなかった。

 冷めている上に油はギトギトだし、味はほぼ塩か塩っ辛いか無味。

 パンは硬くて、肉も魚もパサパサ。

 サラダは野菜を切っただけ。しかも萎れていた。

 だが、市場には様々な食材が見られる。ここが異世界なのだとしても、これほど物資豊かなら人間の文化なんて食と共に発展して来たに決まっている。

 エヴァンス伯爵家の食卓が特殊だったのかもしれない、と希望を待ったマーガレットは気になったモノを片っ端から注文していった。


ーー数分後。


「……なんで、どれもこれもこんなに不味いのよ」


 嘘でしょとマーガレットは悲しみにくれる。

 残念ながら庶民の味もエヴァンス伯爵家と大差なかった。はっきりいえば美味しくない。

 マーガレットはやる気なく鑑定文を読み上げる。


『串焼き:タンパク質等必要な栄養が取れる』


「いや、そうだけど」


『特性ミックスジュース:これ1杯で1日に必要な栄養素網羅』


「これが売れ筋とかびっくりだわ」


 勿体無いのでズズーッと飲み干しマーガレットは顔を顰めた。とりあえずリピートは絶対しない。

 市場に出て分かった事はこの世界の人にとって食事はただの栄養補給でしかなく、効率重視。魔法を使った派手な調理スタイルはただ観客を沸かせるためだけのもので大道芸と変わらないということだった。


「全員味覚死んでるとかやばいでしょ。あーあ異世界転移(選択)誤ったかなぁ」


 なんて思った時だった。

 ふらふらと向こうから歩いて来たローブを羽織った青年がマーガレットが座っているベンチの前で盛大にこけた。


「え、ちょっと! 大丈夫ですか!?」


 慌てて近づいて生存確認をするマーガレットの耳はぐぅーっという盛大に鳴り響く音を拾う。

 勿論、音源はマーガレットではない。


「お腹、空いてるんですか?」


 なんてベタな、と思いつつ色々買ってみた屋台メシのほとんどは手付かず状態だったので、


「良かったらどうぞ」


 マーガレットはこれ幸いと屋台メシを押し付ける事を選択する。

 マーガレットの口には合わないが、この世界の住人なら問題あるまい。なので、マーガレットとしては善意100%のつもりだったのだが。


「……いい、いらない」


 フードから見える部分の顔色は青白く、これでもかとお腹のムシは鳴いているのに行き倒れの青年は受け取りを拒否。


「えーと、遠慮しなくても」


「してねぇよ。んなマズイもん食えるか!」


 威勢はいいが声に覇気がない。

 あと口が悪い。まぁ、それは置いておくとして。


「……ごはん、が美味しくない……と?」


 一番気になった事を復唱する。


「よく食えるな、そんなモン」 


 そして青年からは当然のように答えが返ってきた。


 うん、間違っちゃない。

 確かにこの世界のごはんは大変微妙。はっきり言えば美味しくない。

 ないのだけど。

 

「ええー!? この微妙な味わいがこの世界のソウルフードなのではないのですか!?」


「なんだそれは」


 美味しくないごはんが平気なのがこの世界での普通の感覚なのだろうと思っていたマーガレットには今日一衝撃の出来事だった。


「とにかく、何か食べないと」


「……食べたくない。吐き気がする」


 そこまで頑なに拒否しなくてもと思いつつもここ数週間の食生活で我慢の限界を振り切っているマーガレットとしてはなんだか他人事には思えず可哀想になってくる。

 さて、どうしたものかとマーガレットが思案していると。


「ロキ、やっと見つけた」


 フードを深く被った青年が足早にかけてきた。


「お前、また栄養補給抜いたろ」


 今回は何食抜いたんだと呆れた声でロキと呼んだ行き倒れに話しかける。


「……放っておけ」


「ほら〜ガキみたいな事言ってないで食べろよ。王太子からの命令ですよー」


 じゃなきゃ強制的に高カロリー点滴打たせるぞと笑顔で脅す。

 え、何この会話!? こわっ。ていうか、この人今王太子って言った!?

 そんな偉いヒトと知り合いの人達なの? と思ったマーガレットの目に、


『ハインリヒ・ヒルデブロンド。王太子:本人』


『ロキ・アルヴァーノ。大魔導師:本人』


 の表示が映る。ご丁寧にどっちがどっちか分かるように矢印付きで。


「えー!? 王太子と大魔導師!?」


 衝撃が強過ぎて思わず叫んだマーガレットは慌てて自身の口を手で塞ぐ。

 近くには誰もいない。が、当然当人達には聞かれてしまったらしく、訝しげな2人分の瞳がマーガレットを捉える。


「キミ何者かな?」


 フードをとった王太子はにこやかな表情を作る。が、目は全く笑っていない。

 絶対ヤバいヤツだコレと特に悪い事などしていないのに冷や汗が吹き出す。


「……何で勝手に鑑定が発動して」


 動揺したマーガレットは思わずそう口にする。


『消音モード発動中』


 それに答えるかのように半透明のディスプレイが表示される。

 そうだ、消音モードでは心で思った事に反応するんだったと思い出す。


『( ,,ÒωÓ,, )ドヤッ!』


「……鑑定スキル(うちの子)がシゴデキ過ぎる」


 ついでにこの状況の解決策も教示して欲しかったのだが、専門外らしく何も表示されなかった。


「鑑定士、だと?」


 ハインリヒが驚いた様子でマーガレットをまじまじと見てくる。

 とにかく敵意はないのだと伝えなくてはと思ったところで、


『ぐぅーきゅるるるるる』


 と、地鳴りのような音がした。無論、地鳴りではなく、大魔導師の腹の虫だ。


「あの、なんかお腹の音が盛大過ぎて切なくなってくるので、とりあえず何か食べません?」


 話はそれからで、とマーガレットは控えめに手を上げ発言する。


「食べてくれれば苦労はしない。が、コイツの偏食は並大抵じゃないんだ」


 そう言ってハインリヒはため息を漏らす。


「美味しくないごはんが問題なのでしょう?」


 マーガレットはロキが食事を取らない原因を上げる。


「ごはん、美味しくないのは同意です。なので、私がごはんを作ります。無闇矢鱈と高カロリー輸液に頼るのは良くないと思うので」


 そして美味しかったら無罪放免で、とちゃっかり約束を取り付けたマーガレットはとりあえずごはんを作れる場所に行きましょうかと顔を顰める2人にそう促した。

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