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13.鑑定士の救出劇。

「マーガレット。もう大丈夫だ」


 とリカルドは優しげな声語りかけマーガレットを見つめる。

 が、マーガレットはリカルドの側に浮いている画面を凝視。


「…………………。」


「ああ、怖かっただろう。声も出せないほど怯えている」


 いや、違う。呆れているのだ。

 なぜならマーガレットの視線の先には、


『茶番狂言→見え透いた下手な芝居』


 と表示されていたからだ。

 つまり、リカルドの自作自演。


「……リカルド様」


 マーガレットは冷たい声で元婚約者の名を呼ぶ。もはやそこには恐怖などない。


「私とあなたの婚約はとうに解消されましたでしょう? ミリア様はどうしました」


 お前、ふざけんなよとマーガレットはブチギレ寸前だ。

 

「ああ、あの女は本当に酷かった」


 やや芝居かかった口調でリカルドはよくぞ聞いてくれたとばかりに話を続ける。


「君の言った通り、アレは結婚詐欺師」


 私は騙されていたんだと今更被害者ぶるリカルド。


「君のおかげで目が覚めた。私は真実の愛に気づいたんだ」


 キラキラとした笑顔でリカルドはそう告げる。


『……((((´◦ω◦`)ススス』


 鑑定スキルすらドン引きするレベルである。


「お前、真実いくつあるんだよ」


 縛られたままぼそっとマーガレットはつぶやく。


「マーガレット?」


「しょうもない芝居なら他でやって頂戴。今更私がアンタの元に戻る気はない! 今すぐ離しなさいよ」


 マーガレットはキッと睨みつけ、リカルドに怒鳴る。

 せっかく楽しい気分で食材調達していたというのに、なぜリカルド(こいつ)のひとり劇場の演目に出演せねばならぬのか。

 そこには怒りしかない。

 が、マーガレットの一喝にリカルドがビクッと肩を震わせた事でマーガレットは若干冷静さを取り戻す。


「もう、帰ってもよろしくて? 今なら不問にしてあげます」


 本当は出るとこ出るか!? と喧嘩を売りたいところだが、さっさとロキと合流して魔術研究所に戻りたい。

 元婚約者(こんなの)の相手なんてはっきり言って時間の無駄である。

 こんな小物、押せばすぐ解放するに決まっている。そうたかを括っていたマーガレットだったが、予想に反してリカルドは冷たい表情を浮かべていた。


「残念だよ、マーガレット。せっかく、美談(そういう事)にしてあげようと思ったのに」


「……?」


 リカルドがニヤっと笑って近づいてくる。マーガレットは後ろに後ずさるがすぐ壁際に追い詰められた。


「君はさぁ、ほんっと可愛げがないよね」


 気づかなければ幸せだったのに、と言ったリカルドは、


「マーガレットがいなくなってから、領地の管理が上手くいかないんだ。他にも、社交とか色々」


 マーガレットの頭上に淡々とした声を落とす。


「戻っておいでよ、マーガレット。そうしたら全部元通りだ」


 部屋にあった大量の書物。どうやら元のマーガレットは婚約者であるリカルドの仕事を肩代わりさせられていたらしい。

 ここまで不遇なら、確かに異世界にでも逃げたくなるだろう。

 だが、憑依した今のマーガレットには逃げ場はない。


「お断りよ!」


 キッパリと断ったマーガレットは、


「あなたの思い通りになるなんて、2度とごめんよ」


 と吐き捨てる。


「そう、残念だ」


 そう言ったリカルドはマーガレットに手を伸ばし、腕を取るとあっという間に組み伏せる。


「……っ!?」


「まぁでも、既成事実さえできてしまえばマーガレットに逃げ場(選択肢)はないけど」


 背中側を取られ、耳のすぐ側でリカルドの不快な声が聞こえる。


「な、に……」


「私にももう後がないんだ。悪く思わないでくれ」


 マーガレットの足にリカルドの指が這う。

 気持ちが悪くて吐きそうだ。

 振り解こうにも男と女では力の差は歴然で。その上腕を拘束されているマーガレットには抵抗する術がない。


「……イヤ」


「ああ、後ろじゃなくて、前に縛らせれば良かった。そうすれば君の怯える顔が見れたのに」


 耳元で囁かれる声にイヤイヤと首を降って抵抗すればポトっとロキにもらった髪飾りが落ちる。

 ロキの瞳と同じ淡い青色。


「ロキ……様」


 嫌だ。とはっきり思う。

 ロキ以外にこんなふうに触られるのは、絶対に、嫌だ。


「ロキ様、助けてーー!」


 そうマーガレットが叫んだ瞬間、突風とともに不快な手から解放される。


「呼ぶの遅ぇよ、マーガレット。国中に探知包囲網張るとこだったぞ」


 覚えのある香りと安心できる声。

 髪飾りと同じ色の瞳。


「ロキ、さま」


 マーガレットはロキに抱え上げられていて、腕を拘束していたロープもロキが手をかざしただけでまるで生きているからのように自ら解けた。


「な、なんで。魔術騎士団師団長がここに!?」


 病休中じゃと怯えた顔をしたリカルドが叫ぶ。


「情報が古い」


 師団長? 病休? 何のこと? と疑問符いっぱいのマーガレットをそっとおろし、ロキはマーガレットの亜麻色の髪を優しく撫でる。


「マーガレットのおかげで全快した今、俺は絶好調な上にすこぶる機嫌が悪い」


 覚悟はできてるんだろうなと言ったロキは、


「ま、まて。俺はクレバ侯爵家の」


「知るか」


 リカルドの主張を聞くことなく、魔法を展開。瞬殺で片付けてしまった。


「ロキ様って、実は強かったんですね」


 壁に叩きつけられ至る所から血を流して伸びているリカルドを指差しマーガレットは感想を述べる。


「本当はミンチにしてもよかったんだがな」


 ぼそっと吐き捨てるように言ったロキは赤くなっているマーガレットの手首をそっと撫でる。


「すまない。目を離すべきじゃなかった」


 もっと早く見つけられたら、こんな傷作らずに澄んだのに。

 ロキの瞳に後悔の色が馴染む。


「マーガレットが無事で良かった」


 ああ、本気で心配してくれたのだ。

 そう思ったら、先程までの恐怖なんてどこかに行ってしまって。


「……無事、ですよ」


 そう言ったマーガレットは勢いよくロキの腕に飛び込む。


「引きこもりのロキ様が今日はとっても頑張ってくれたのであとでご褒美作ってあげます」


 大きな子どもみたいなこの人を安心させてあげたくなった。

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