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第3話:ギャルメイク、ハラのウチだけは、シロくいて

 四方を取り囲む純白の壁。頭上には燦然(さんぜん)と輝くシャンデリア。

 優美なその空間を⋯⋯――25本の赤い物体が飛び抜けた――ッ。


「――どんどんいくの! 浮遊魔法(チビビフライ)――ッ! それ! 飛んでくのーーーー!」


「⋯⋯そうくるかッ! ははっ、受けて立つぜ――」


 さいわい、魔法の使い手である金髪の美女と、Tシャツに短パンで仁王立つ俺との距離は⋯⋯7、8メートル程度の余裕がある。

 つまり、あの物体の軌道を読み、狙いをさだめる時間はゆうにあるのだ。が、しかし――。


魔力調整(コントロール)! 曲がれ(カーブ)! あはは! タクト――! わたしの魔法は自由自在に変化するの!」


「なっ⋯⋯くぅぅッ! 卑怯だそリアラーーッ!」


 金髪の魔法使いが杖を振り上げると、それにともない赤い物体は弧を描く。


(――くそ、この山なりの軌道じゃ⋯⋯退がるか⋯⋯それじゃ間に合わない⋯⋯ならば、飛ぶしか⋯⋯だけど⋯⋯⋯)


「たっくん! 諦めないで! 届かない距離じゃないわッ! あなたならいける、諦めないで!」


「っ――ありがとうあいかねえちゃん!」


(そうだ、いけるかいけないかじゃない。 やる。 俺はやる――ッ)


 瞬間、両眼をかっぴらいた俺は、膝を曲げて床を蹴る――。


 ⋯⋯そして⋯⋯その赤い物体へと⋯⋯


 ――おおきく、口をひらいた。


 むぐぅ――ッ!


「⋯⋯⋯うまっ!異世界のホットドッグまじでうんまっ!」


「ああー!タクトに食べられたのーー! あっ、あいねえまで!」


「⋯⋯んぐぐ⋯⋯⋯⋯ぷはあっ! おねえちゃんは二本連続キャッチに成功したわ!」


 赤いケチャップがたっぷりのった、アツアツのホットドッグをむさぼり食べる俺。 キッチンで悔しげに飛び跳ねる、出会ったばかりの魔法使い――リアラ。 口いっぱいに詰め込まれたホットドッグ、その二本を両手に持ち胸を張る長女・愛花。⋯⋯と。


「⋯⋯あーもう、うち頭いてえわ」


「んっ。 二人とも。 はしゃぎすぎ」


 ソファーに腰掛け、テーブルに肘をつき、ヒタイに手をあてる次女と、無表情のまま(あき)れる三女。



 ⋯⋯⋯ここに落ちてより数時間。


 俺は、魔法世界を、全力で楽しんでいた。



 ――そして食べすぎた。

 ヒモナシバンジーを乗り越えた安堵感からか、食欲が止まらなかった。


 結局、ホットドッグ20本とアイスコーヒーを3杯。小ぶりだったとはいえ、さすがに食べすぎた。


 パンパンにふくれたお腹をさする。 

 それから正面を見る。

 俺と三姉妹が助かったのも、このお腹が満足気にふくれあがっているのも、ひとえに彼女のおかげである。


「リアラ、ありがとう、おかげで助かったよ――」


 キッチンで、お皿とフライパンを洗う、金髪金眼の女性。彼女にお礼の言葉を投げかける。


 ⋯⋯⋯⋯⋯。


 ⋯⋯ぜんぜんきこえてないや。


 あれ?誰か何か言った?みたいな反応もない。

 蛇口から、ぶわあと流れ落ちる水飛沫(しぶき)の音がさえぎるのか、るんるんと口ずさむ彼女の鼻歌が、俺の声を遠ざけているのか。


(⋯⋯まあどっちでもいいか。楽しそうだしなあ――)


 ――ふううう。大きく息を吐きだした俺は、ソファーにあおむけで寝っ転がった。


(食べすぎた。 まじで食べすぎた。 食べすぎたの?ってきかれたら「食べすぎた」って言うくらいには食べすぎた。 はあ。 食べすぎた)


 ――働かない。 脳みそが。 働かない――。


 なんだろうこの感じ。まるごと一本ごくりといったソーセージが、胃液をまとって、腸の中を逆ウォータースライダーしている気がす⋯⋯⋯うぷっ⋯⋯ヴ〆<:〒:〆>。



 ――下品な雑音は置いときまして。



 キッチンの美女。

 恩人である彼女の名前は――リアラ。

 わけありの、家出お嬢様だ。


 年齢は俺と同じ16歳で、シュミは“メイク”のギャル嬢様で。腰下までのびたブロンド髪はさらっさらで、そのフリルのついたドレスは純白で。


 絵に描いたようなお嬢様で――っ。


 しかし何かしらの事情で家を飛びだし、お付きのメイドと二人で、こんな樹海の真ん中に身を隠していたらしい。

 この、外観からは想像もつかない広さを持つ、純白の馬車の中で。


 で、そんな折。俺と三姉妹が、彼女の馬車を守る“結界”の上に落下してきたもんで――。



「――敵襲なの!? それとも居場所が見つかったの!? レイラ逃げるの――!」


 ――ぽよよーーーーーーん。


 屋根裏からきこえた、結界が何かを跳ねかえす柔和な音。

 目覚めの一杯に、ウッシーミルクをごくりごくり飲んでいたリアラは、反射的にメイドに声をかける。


 が――。


「――お嬢様、落ち着きましょう」 


 キッチンのすぐ近く、壁際に設置された純白のソファー。

 そこに寝そべったメイドは、天井を見上げたまま言った――。


「――ワタクシの結界からは微弱な魔力が四つ触れた感触しか伝わっておりません。三賢者様の瞬間移動(テレポ)ではないでしょう。


 それに四人。追手としては数が少なすぎます。

 山賊としても魔力が小さすぎます。


 とゆーことでお嬢様。ちょっと見て来ていただいてもよろしいでしょうか?お嬢様の実力ならそこらの賊などわけもないでしょうし。はい。結界は解きましたんで。それではなるはやでお願いしますね」


 主従関係にあるメイドから、倍速でまくし立てられたリアラは、涙目で杖を手にとった。⋯⋯⋯胸中で、ぶつくさ文句をいいながら――。


(――レイラはいっつも強引すぎるの。家出の時だってそうなの⋯⋯。

 深夜に、馬小屋と馬車庫の鍵を管理室から盗んで、裏門の警備隊を魔法で眠らせて、天井からわたしのベッドに落ちてくるなんて。非常識、きわまりないの)


 それでも怒る気になれないのは⋯⋯このメイドの持つ自由さ、我が道をゆくその姿に憧れをいだいたからだろうか。

 それとも⋯⋯逆らえないよう躾けられたのかな。


(たぶん後者なのね⋯⋯6つしか変わらないだけに、ちっちゃいころから⋯⋯ああ、思い出すだけでゆーうつなの)


 魔法の特訓と称したメイドのひまつぶし(あまたの悪夢)の記憶に、こめかみを押さえながらも、馬車の扉をひらく。

 

 そこでリアラは、長女と三女のリクライニングチェアと化した俺を発見してしまう。


「――なにこれどーゆ状況!?」 手のひらをグーにしてびっくりするリアラと。


「――ガチギャルヤマンバ!? モンスターか!?」 腰を抜かしてへたりこむ次女・さしみちゃん。


 ヤマンバ⋯⋯深山に住むという女の妖怪。

 ――ではなくて。


(異世界のヤマンバ!? いや、ヤマンバメイクのガチギャル!? 目の周りなんてパンダだし⋯⋯⋯どっちにしろこわいわッ!)


 ――と次女が恐怖に頬を引きつらせたところで一旦、話は現在に戻る。

 俺はちらりと元ヤマンバを見る。

 先に言った通り、彼女のシュミはメイクである。

 

 ただし、その腕前は⋯⋯⋯ストップ。

 ぷにぷにしてそうな、柔らかそうな頬をプクッとふくらませた、すっぴんの色白美女が俺を睨みつけているため⋯⋯⋯実際にヤマンバを見た次女・門松沙清水(さしみ)ちゃん(17歳)に、当事の心境をきいてみよう。


「えっ、うち? あのときどうだったって? そうだな⋯⋯リアラの背後に――包丁をとぐ老婆の幻覚を見たよ」


 で、数秒の膠着状態が続いたあと、四人は意気投合する。

 それはまさにテンアゲ、チョベリグ、まじアゲポヨ状態。

 リアラは誘いをかける――。


「――よかったら馬車に来るの! お昼ご飯食べながら、お話の続きがしたいの!」


「いいのかリアラ? うちら、話した通り別世界から落ちてきたんだぞ? 怖くないのか?」


「もちろんだよさっしー! こんなかわいい服を着た悪い人なんているはずがないもんっ! あいねえのメイクなんてわたしの理想だし、おシズは⋯⋯ああもう!かわいいからいいのー!」


 自慢のメイクを褒められた長女・愛花は頬をゆるめ。

 突然の飛びつきハグをくらった三女は「んっ。 シズクは。 かわいい」まんざらでもない顔でそれを受け入れる。


 四人は和気あいあいとして、馬車へ足を運んだので、あった。


 おしまい⋯⋯ああそうそう、俺はというと。


「あれ? さっしー、そういえばあの男の子はいいの?」


 ――四人が馬車に戻った数分後、リアラは気づく。


 クッションにされ。リクライニングチェアにされ。あげくには不法投棄の粗大ゴミのように放置された、あわれな少年の存在に。


「男の子⋯? あっ、タクトか!? タクト忘れてた!」


「大変! たっくんも運んであげないとっ!」


「んっ。 たくにー。 食べられてないといいけど」


 三女が不穏な言葉を口にする頃には。


「⋯⋯みんな、どこいったの? おーーい⋯⋯あれ? 俺、異世界の樹海に放置されたの!?」


 ぐすんっ。


 意識を取り戻した俺は、三角座りで半べそをかいていたのであった。



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