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グラン&グルメ 小話集  作者: えりまし圭多
あの日見た海

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21/34

ちぐはぐで変な奴

グラン&グルメ2巻発売記念、番外編です。

5話くらいの予定で毎日0時更新予定。

「うわ、潮の香りだ! 懐かしーーーー!! うひゃー! 超海だーーーー!! やっぱ夏といえば海だよなーーーー!!」

「ねぇ、君って山奥の出身って言ってたよね? なのに海を見たことがあるの?」

「え? あ? えぇーと……あーと、そうだ! 故郷から王都にくる途中に海の近くを通ったんだ!」

「ふぅん」

 この赤毛、絶対に嘘をついているけれどまぁいいや。

 そんな他人に興味があるわけじゃないし、どうでもいい。

 故郷から出てくる途中に海を見たというならば"懐かしい"って言葉が出てくるのはおかしい。


 君、嘘が下手くそすぎるよ。


 だけどその下手くそすぎる嘘に毒を抜かれ怒る気もしない。

 ただ、知られたくない何かがあるのかなって思うだけ。

 俺も知られたくないことはたくさんあるし、無理に他人のことなんか知らなくていい。

 そう、適当。上辺だけ。

 俺も君のことは信じていないから、君も俺に嘘をついても気にしないよ。


 いつものこと。どうせみんなすぐ離れていく。

 残るのは俺の正体を知って、周りをウロウロしている奴らだけ。

 みんな仕事や欲で俺の近くにいるだけだから、何も信じないし求めない。


 ただこの赤毛だけは、嘘をついたのがわかると少しイラッとする。


 何だろう、この気持ち。

 ドリー達が陰でコソコソと何かしていても気にならないのに。

 どうしてかな。赤毛に嘘をつかれるとなんだか悔しい。



 ゴトゴトと揺れる乗合馬車。

 子供のようにはしゃぎながら、その窓から外を見ている赤毛を冷めた目で見ている。

 実際赤毛は子供なのだけれど、それにしても田舎者丸出しで子供っぽすぎないか?

 赤毛が海のある町に行きたいと言うので、赤毛に借りもあるし付き合ってあげることにしたのだが、転移魔法で行けばすぐなのに赤毛が乗合馬車で行きたいとか言い出して、早起きして乗合馬車に乗って王都から一番近い港町へと向かう羽目になった。

 早起きをしたから眠いし、乗合馬車は揺れが酷くてお尻が痛いし、転移魔法なら一瞬の距離が乗合馬車だと速度は遅いし途中の町でも止まるから三時間以上かかるし、ホント最悪っ!

 もー、なんで赤毛に付き合っちゃったんだろ。


 ユーラティア王国の首都ロンブスブルクの西にある港町ポルトペルル。

 そこが俺と赤毛――グランの乗っている乗合馬車の行き先だ。

 グランが魚を買いにポルトペルルに行くとか言っているから、思わずついて来ちゃったよ。

 くそ、魚は嫌いなのになんで。

 まぁいいや、口うるさいドリーは一緒じゃないし、兄上が俺に付けている見張りもついてきていないみたいだし、せっかくだから羽を伸ばしちゃお。


 グランを王都の冒険者ギルドで見かけるようになったのは半年ちょっと前くらいからだろうか。

 やたら目立つボサボサゴワゴワの赤毛。落ち着きなくロビーでキョロキョロウロウロしている田舎出身の子供。いつもロビーで腹の減るにおいをさせながら何かしら食べている変な奴。

 いつものように究理眼で覗いてみたら、ギフトが四つもあって驚いたってもんじゃなかった。

 しかも変なスキルがいっぱい。でもなんかおかしい。

 たくさんのスキルがあるせいで職業が勇者になっているけれど、魔法系のスキルは一つもない。

 その上ギフトに生産系が混ざっているし、俺の究理眼で詳細が見えないギフトもある。

 何だこの変な子供?

 そしてそこから感じるちぐはぐさの理由が気になって仕方がない。


 ちょっと気になって悪戯を仕掛けてみたら、変顔でおちょくってきて超むかつく。

 俺の空間魔法を反射神経だけで躱せるからって、いい気になるんじゃないよ!!

 ていうか、なんで空間魔法で依頼票を横取りしようとしたのを躱せるの!?

 ほんの一瞬の出来事だから熟練の冒険者だって、俺の空間魔法の発動に反応できなくて奪われるがままなのに、なんで二回目でもう反応できるようになって依頼票を隠しているの!?

 ていうかその依頼票を隠しているの収納系のスキルだよね!?

 当たり前のようにやっているけれど、指先が触れただけで一瞬で引き込めるってことは、その年で収納スキルをかなり使い込んでいるってことだよね!?

 収納スキルだって魔力を展開して発動するスキルだから、発動して引き込むまでには僅かだけれど時間が必要だよね?

 キッ! 何なのこの赤毛!!


 しかも兄上の命令で俺を見張っていたおじさん達に気付いたし、ホント何なのアレ?

 田舎の野生児ってあんなに勘がいいの?

 あのおじさん達はプロの隠密部隊の人達なのにね。

 まぁいいや。知らないうちに見張られていたなんて気持ちのいいもんじゃないし、おじさん達はざまあみろだよ。

 赤毛に見つかって俺にも存在がバレたことを、兄上にネチネチ説教をされるといいよ。


 それと赤毛はその勘の良さを見込んで、おじさん達を追い払うために俺の傍に置いておいてあげる。

 べ、別にいつもロビーで食べている料理に釣られたわけじゃないんだからね!!



 ただの田舎者。ちょっと勘と反射神経のいいだけの非常識な子供。

 そう思っていたのだが、ギフトやスキルのことを差し引いても、やはりこの赤毛からは理由のわからない違和感が見え隠れしている。

 世間知らずの非常識なのに、学がない田舎の子供とは思えない話術と交渉術。フランクに話していい相手と丁寧に話すべき相手のラインをちゃんと見極めている。

 そしてさりげない駆け引き。懐っこさの陰に見え隠れする強かさ。

 子供だと思い接してくる大人の懐に飛び込み、恩を受ければ必ず礼を返す。意識しているのか、そうではないのか、上手く駆け引きを成立させ相手の心を掴んでいく。

 無邪気に話しているようで、相手を上手く持ち上げることも忘れない。かと言って自分を下げすぎるわけでもない。

 その立ち回りは弱者のふりをした何かが、強者を上手くコントロールしているように見える。

 子供っぽい素振りが時々演技なのではないかと思う時もあるが、今日のように本当に子供っぽいところもある。

 しかもどこか非常識でありえないことを平気でやるし、知らないものに対しても警戒心より好奇心の方が強い。

 そして、俺の周囲では見たことのないほどの注意力散漫でうっかり。

 それを見るとやはり世間知らずの子供に見える。


 今もほら、山奥の村出身と言っていたはずなのに、海の香りを懐かしいと言っている。

 そのことを突っ込めば、見え透いた嘘をつく。

 何か怪しいけれど、何故か嫌な感じはしない。

 そのうち話してくれたらいいやって思うだけ。

 きっとこれは俺がこのグランにあまり興味がないから。

 グランのことには興味はないけれど、話してくれるならちゃんと聞いてあげるからね。

 それに俺もグランの秘密には興味ないけれど、グランも俺のことを深く追求しないのがちょうどいい。

 面倒くさい身の上話なんて話すのも聞くのも退屈だから、このくらいの距離感がちょうどいいや。


 そう、上辺だけの付かず離れずがちょうどいい。

 どうせグランもそのうち俺のことを面倒くさがって離れていくか、俺の正体を知って媚びるかよそよそしくなるに決まっている。 

 だったら深く踏み込まない方がいい。

 だけどもし、俺のことを知っても変わらずに――。


 ゴトンッ!


「いたっ」

 もう! これだから乗合馬車は嫌いだよ!

 大きく揺れた拍子に体が跳ねて、固い座席にお尻がぶつかってメチャクチャ痛かった。

「確かにこれは尻が痛いなぁ、帰ったら乗合馬車に乗る時のために衝撃吸収の付与をしたザブトンを作ろ。アベルもいる? 転移魔法でどこでも行けるからいらないか」

「ザブトンって何!? 何かよくわからないけど乗合馬車でお尻が痛くならないものなら貰うよ! それと転移魔法は行ったことのある場所しか行けない。ていうか君、衝撃吸収の付与なんかできるの?」

 またよくわからない単語が出てきた!

「あ、ザブトンじゃない、クッション。そうだクッション! 付与のやり方はギルドの講習で習って後は独学でなんとかやってる。まだまだ上手くできないけど、衝撃吸収は防具にも使えるから本を読んで、少しはできるようになったから乗合馬車で尻が痛くならないくらいならできるよ」


 グランからはよく、今みたいに俺の知らない単語が飛び出す。

 王都から遠く離れた地方の出身だから、地方の固有の言葉だとか物だとかグランは言うけれど、俺は子供の頃から語学を学びユーラティア語は方言に至るまでほぼ頭に入っている。もちろん近隣諸国の言葉も、海の向こうの言葉だってマスターしている。

 知っている単語の数には自信があるのに、グランの口から出る言葉はどこの言葉?

 ねぇ、本当に俺が学んでいないほど使う人が少ない方言だとしたら、どんだけ人が少なくて外部と交流のない場所の出身なの?


 それにギルドの講習で付与を学んで、後は独学? それで本を読んで衝撃吸収の付与もできるようになった?

 ギルドで教えてくれるのは初歩中の初歩、一番簡単な魔力の属性耐性系だよね?

 衝撃吸収って物理防御になるから、ギルドで教えてくれるような属性耐性の付与よりずっと難しいよ?

 防具に付けるため? 馬車の揺れを吸収できるって相当だよね?

 そんなの本を読んだ程度で誰でもできたら付与職人の商売が成り立たないよ!!


 ガタンッ!


「いたぁ! また揺れた! もー! お金は払うから衝撃吸収のクッション作って!」

 もう! 細かいことを考えるのは一旦やめて、とりあえず次に馬車に乗るまでに衝撃吸収効果付きのクッションを作ってもらお。

「おう、帰ったら作ってやるよ。それよりほら、馬車が町に入るぞ。何だっけ、ポ……ポポポポ……ポロンペペロンチーノの町?」

「ポルトペルル! そんな長くない名前だからちゃんと覚えて!」


 もう! 何なのこの赤毛!!






お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々、本当にいろいろと言い訳をしているけど、そこまで言い訳しなきゃならないほどに気になってるなら、アベル、グランがある日、ふらっとなんの伝言も、痕跡もなく、居なくなったら、必死に探しちゃえん…
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