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リベルタ  作者: 紫雲朔音
一章 リベルタファミリー編
9/31

リベルタ諜報部



 色々と思考している間に目の前で八雲が立ち止まりコンコンと扉をノックする。中から男性の声でどうぞ。と声がかかる。


「戻ったよ」

「あ、お疲れ様です」

「おかえりなさい冬樹さん」

「そうだった。今日ほとんどが外仕事だったね」


 ちらりと見えた部屋の中は内装はオフィスのような場所。けれどオシャレというか、中世ヨーロッパっぽい?って言えばいいのか?貴族の執務室とかそんなイメージがする。


「誰ですかそれ」


 俺が浅井、じゃねぇや。八雲よりは身長が高いせいで中からはよく目立つだろう。ジッと見上げてくるのは、少し跳ねた短い紫髪に黒い瞳、少し灰色がかったような。そして左目の泣き黒子。動きやすいシャツにパーカー。ショートパンツと言うラフな格好をしていて目の前のロングコートを羽織る八雲やさっきの茅名さんとは違い女子高生や女子大生みたいな印象を受け、部屋の印象とは合わない。

 そんな女性が椅子に腰かけてぐだっと仰け反りながら顔だけをこちらに向ける。


「新人だよ」

「なるほど」


 もう一人奥から声が聞こえてきた。今度はさっきも聞こえた男の声。少し目線を動かして中を窺う。

深い青緑の整えられた髪。優しげなイチョウ色の瞳。二十代後半ぐらいの男性の第一印象は優しげなイケメンだ。ニコリと柔らかく笑い腰掛けていた椅子から立ち上がりこちらに向かってくる。スラッとしていて、細すぎずしっかりとした体をしていると思う。


「初めまして俺は来栖孝(くるす こう)。君は?」

「柊翔真っす。えっと」

「あぁ、まだここがマフィアってこと以外なぁんにも説明してないんだ」


 あははっ。と笑う八雲。この野郎もっと説明してくれよ!こちとら不安で仕方ねぇんだぞ!


「後で纏めて説明しようと思ってね。二回もするのは面倒だから」

「あぁ、そうですね」

「纏めて?俺以外にも誰か居るんすか?」

「柊くんとあと二人。この後来るから」


 二人。こんな世界に来るぐらいだ。どっちも訳ありなんだろうな。


「あー、オレは何を?」

「とりあえず入って」


 手招きされて室内に入る。中にはジトっとこちらを見る紫髪の女性。若干の気まずさを感じながら八雲さんに椅子を引かれて座るように招かれる。

オレが大人しく席に座れば全員が席に着いて八雲さんが口を開いた。


「改めて私は八雲冬樹。ファミリー内の諜報部の幹部。工事現場に関しては訳あって潜入してたんだ。まぁ、あのトラブルで必要なくなっちゃったんだけどね」

「そうだったんすね」

「うん。あ、柊くんからすると直属の上司に当たるからよろしくね」

「あ、はい!」

「孝くんはさっきしてたから凛香ちゃん」

唯城凛香(ゆいしろ りんか)


 ……えっそれだけ?腕と足を組み背もたれに体を預けながら面倒くさそうにぶっきらぼうに名前だけ言う。


「凛香ちゃん」


 咎めるように静かに一言名前を呼ぶ。ふと八雲の表情を見てみれば困ったように笑っているのに、オレにはどうしても冷ややかな何かを感じてしまって、ぞわりと背筋に寒気が走る。

なのに二人は慣れているのか気付いてないのか、調子を崩すことなく唯城さんが、仕方ない。と言わんばかりに体を起こす。


「ハァイ。アタシは諜報部の戦闘員だ。アンタ戦士?」

「えっ、はい」

「んじゃアタシと一緒。ってか、冬樹さんも来栖さんも戦士だからな」


 戦士って、何かもっと屈強な人のイメージがあるんだよな。来栖さんは鍛えてる気配があるし分かる。結構細身な印象がある八雲さんはあの時弓矢を使ってた。

彼女の武器は遠距離タイプか?


「そうなんですね。ちなみに武器は何を?」

「無い」

「えっ」

「凛香ちゃんは体術使いだよ」

「こんな細い女の子が!?」

「あ"!?」


 ガタッ!と椅子を鳴らしながら立ち上がりギッ!と睨まれる。


「すみません!」


 オレは反射的に謝っていた。

何この人怖いんだけど!?超威圧的じゃねぇか!


「まぁまぁ唯城も怒らない。柊君もパッと見で判断しない方がいい。この世界で先入観は命取りになる」

「は、はい」


 来栖さんに窘められて舌打ちをしながら勢いよく座る。


「さぁ、次は柊くんだよ」

「はい、オレは柊翔真っす。二十歳で属性は火です。使う武器は剣……です。よろしくお願いします」


 緊張とさっきの動揺で何を話していいのか全然分からない。ヤベェ。キレられるんじゃ!?


「大丈夫だからそんなに縮こまらないでいいよ」

「はい!」


 来栖さんってめっちゃいい人なんじゃねぇの?なんでこんなマフィアなんかに

トントン。


「どうぞ」


 八雲さんがノックに返事を返すと扉がゆっくり開いて、さっきの茅名さんが大量の資料を運んでいた。

それにしても凄い、自分の背丈以上の物を積み上げて持って来たのか……この子もやっぱり普通じゃないって事だよな。


「戻りました!」

「ありがとう雪音ちゃん、半分貰うよ」

「あ、く、来栖さん!」


 いつの間にか立ち上がっていた来栖さんが軽々しく半分とか言いながら、半分以上持ち上げて歩き出す。

スゲェスマートで紳士的な人なんだな。


「わわ、すみません……!って、柊さん!?」

「どうも」


 パッと振り向いた茅名さんが驚いた表情でこちらを見る。少しぶれたがそれでも積み上げられた資料を崩さないあたりバランス力はしっかりしてるんだろうな。


「何、雪音会ってたんだ」

「うん!玄関ホールでたまたま」


 この二人仲良いのか?あんなに冷たい表情が少し和らいでうっすらと笑ってる……気がする。

両極端で相性は多分良くないと思ったんだけど分かんねぇな。


「そう。変な事されてない?」

「えっ!?大丈夫だよ!?冬樹さんもいたから」

「あー、なら平気か」

「どういうことですか!?」


 何か酷い誤解が起きてないか!?

誰か味方いねぇのか?と八雲さんを見ても頬杖着いて笑ってるし、来栖さんは資料の影に隠れてしまって見えない。


「冗談に決まってるだろ」

「諜報部は人数が少ないからみんな仲良いんだよ」

「はぁ……」


 1時間も経ってないのに疲れた。すっっっげぇ疲れた。


「さて、他の新人が来るまで後三十分……柊くん悪いけどここで待っててくれるかな。私達まだ仕事があってね」

「分かりました」

「じゃ、アタシ訓練場行ってきまーす」

「行ってらっしゃい」


 そう言って気だるそうに立ち上がりグッと伸びをしてからポケットに手を突っ込んで出ていってしまった。


「あの、唯城さん何であんなに怒ってるんですか」


 コソッと隣に居る八雲さんに聞けば立ち上がりながら、なんて事ないように


「別に怒ってる訳じゃないよ。あれが素というか……まぁ、付き合ってたら分かるんじゃないかな?」


 アレが素なら怖いことこの上無いぞ。


「そう、ですか」

「うん。多分君なら大丈夫だよ」

「それって」

「じゃあ、あっちの部屋にいるから何かあったら孝くんか私に声をかけて」


 オレの言葉を遮って声を掛けたと思ったらまた後で。と言い残しすぐ近くの扉を開けて部屋に入ってしまった。

 ……いや、何すればいいんだよコレ。来栖さんも茅名さんも書類を見て何か書き込んだり、仕分けたりしてるし、何も知らないオレじゃ足でまといだよな。三十分か。


「あの」

「どうした?」

「部屋の中見てもいいですか?」

「大丈夫だよ。今書類の山だから気をつけて」

「ありがとうございます」


 立ち上がって改めて見渡せば、エントランスと同じでアンティーク調に纏められており、やはり昔の西洋の貴族の部屋みたいだった。

 そもそもこの建物内自体が結構それらしくなっていて昔に迷い込んだみたいな錯覚になる。広すぎず狭すぎずで置いてある椅子や机を見ると会社みたいな固定の席は無さそうだ。八雲は幹部って言ってたから例外か。

その八雲の部屋はガラスではなく普通の木の扉なので中を見ることは出来ない。窓際は薄手のカーテンが降りており外を見ることは出来ず、部屋は僅かにオレンジかかった白い電気。

 ……そう言えば、あまりにも緊張と色々考え込んでいて何階まで上がったのか覚えてなかった。

てか、建物内にエレベーターあるんだな。そこだけ現代だ。

 そのまま部屋の中を二人の邪魔にならないように歩き回り、売ったらいくらになるのかとか気になりながらも時間が過ぎていった。

コンコン。

 扉を叩く音が鳴る。来栖さんが顔を上げてチラリと掛け時計を確認する。


「どうぞ」

「戻りました。さぁ、どうぞお入りください」



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