はじまり
「あーあ、やっぱ倒産か……」
今までの違法行為や、郊外での仕事において義務付けられているはずの魔獣避けである防衛結界術が無かったこと、それを世間に知られ拡散され、大炎上の末にオレ達は地獄のような劣悪な労働環境から開放されたのだった。
「金もある程度手に入ったけど、返済には全く足りねぇ……」
寮は元々会社の物だったため、取り壊しが決まり追い出されてしまった。引越し用の料金は少し出された為、今は安くて狭いアパートで暮らしている。
あれから月が変わって四月の平日と言う新入生とか新社会人とか、新しい季節に色んな人達が頑張ってるってのに、真っ昼間の公園のベンチで一人……いや、散歩してる爺さん婆さんに子連れの母親はいるけど。空を見上げて盛大にため息を漏らした。
にしても、最近ようやく暖かくなってきたよな。
「あっれ、寝てたのか?」
多分時間にして数十分程度だけど、まだまだ疲れが残ってんだろうなオレ。まぁ仕方ないだろ!春眠……なんとやら。この暖かい春の陽気には逆らえませんって!
一人で自分自身に、ははは!と笑ったところでガクリと項垂れる。
「あー……新しい職場探さねぇとなぁ」
「では、いい所を紹介しましょうか?」
「へぇ、どんなところ……っ!?うぉあ!?」
返ってくるはずの無い声に驚き勢いに任せて振り返ってしまいベンチがひっくり返ってしまった。
「いってぇ!固定しとけよベンチ!!!」
「あっはは!」
こっちを見てケラケラ笑う姿は何を隠そうあの日、オレを助けてくれた後輩の姿だった。
「おまっ、浅井!?」
「えぇ。一週間ぶりですね。柊さん」
浅井は薄手のロングコートにワイシャツにベストと言ったオレと違ってしっかりと綺麗な服装だった。髪もハーフアップにしていて、その表情はあの時と同じで笑みを浮かべているが自信に満ちている気がする。とてもあの仕事をしていた浅井とは思えず、双子の兄弟って言われた方が納得できるほどだ。
「一週間ぶり……いや、何でここにいんだよ」
「探してたんです。スカウトするためにね」
「スカウト?」
さっき言ってたいい所って浅井が今働いている所ってことか?
「へぇ、どんなとこ?」
「歩合制な所もありますけど、初月から平均月収七十万」
「是非紹介してくれ!!!」
「はい!」
つい食い気味に頷いてしまった。だって、単純計算年収八百万超えるだろ?何を隠そうオレの借金は一億五千万円だ。普通に働いてたら一生かかっても返せない額だ。それを年間五百万返済したとしても三十年……いや、ある程度終わってるから二十八年ぐらい?とにかく、こんな美味い話食いつかない方がおかしいだろ!
「じゃあ、車あるんで乗ってくれますか?」
「おう!」
これが、オレの人生の分岐点だった。
きっと、こうなることは運命なのだと。
オレは、知ることになる。
だが、この後のオレの意見はこうだ。
後悔した。工事現場時代なんかより労働環境はマシだとしても、ここまで死と隣り合わせとは聞いてねぇよ!!!
初めまして、こんにちは、紫雲朔音です。
オリジナル初投稿でドキドキしながら書いています。
今回柊翔真の登場でした。明日の夕方前にまた投稿したいと思いますので、よろしくお願いします!
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