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リベルタ  作者: 紫雲朔音
一章 リベルタファミリー編
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過酷な環境にて



 寝て、起きて、働いて、寝て、起きて、働いて。その繰り返しの日々。

 オレは、町外れの工事現場で新しく開通する道路工事のために働いていて、就職してからここ数ヶ月酷使されていた。

 大学に進学した後、親父が多額の借金を残したまま、ある日突然消えた。いつの間にか連帯保証人にされていたオレは、悪い所から借りたお金を返済するために大学を中退し昼夜問わずに働いている。働かされているって言った方がいいかもな。アホみたいに典型的なブラック企業だったここは残業はサービス、手当無し、ボーナス少量、休みは土日と言うのは建前で休日出勤当たり前。

 そんな状況で何で仕事を変えないのかって?噂程度だけど、この会社にはヤバい組織がバックについてるという。実際に逃げ出そうとしたやつは次の日にはいなかった。バカ正直に辞めたいって言った奴は三日後に酷い顔しながら帰ってきた。どうなったかは察したよな。


「柊!こっち頼む!」

「はい!」


 そういう訳でオレ、柊翔真(ひいらぎ しょうま)は半強制的な労働を課せられている。まぁ、お陰様で体力は着いた。


「休憩!」


 あーやっとだ。朝から昼間まで毎日毎日。我ながらよくやると思う。


「お疲れさん」

「お疲れ様っす」


 現場の先輩に声をかけられ一時の安らぎを共に過ごす。話の内容なんて最近の世間の話題すら今一つピンと来ないとなれば、仕事の話か、愚痴の二択になる。だけど、今日ばかりは違った。


「新人さんどうっすか?」


 今日入った新しい新人。確か、浅井とか言ってたような。


「あぁ、細いけど意外とやれてるな」

「へぇ、今回は何日持ちますかね」

「さぁな?長続きしてくれれば、その分俺達も楽になんだけどな」


 手にしていた、ホットだったはずの缶コーヒーを煽り例の新人に目線を向ける。

 彼の近くには教育係の先輩や他の先輩達と楽しそうに談笑しながら昼を食べている。改めてじっと見てみればその容姿は整ってると思えた。170センチちょいぐらいの身長で僅かに青みがかった少し長めの黒髪をひとつに束ねて、淡い梅のような桜の様な色を思わせる瞳。誰が見ても青年は綺麗な顔つきをしていると思う。


「……先にソッチの心配が必要っすかね」

「ハハッ!そんな気も起きねぇぐらい毎日毎日疲れてんだから大丈夫だろうよ」


 背中をバシバシ叩かれ苦笑いを浮かべる。


「冗談っすよ!」

「じゃなかったら俺は縁を切るな!」

「えー、それは困りますって!」


 先輩と話しをしながら、もう一度新人の方を見れば既に食べ終わっていたのか姿を消していた。


「オラ!サボるな!働け!」

「は、はい!」

「うっわ、また始まった」


 今日は、と言うか今日も。な気はするけど、虫の居所でも悪いのか現場責任者のお偉いさんが少しでもミスをした作業員に当たり散らしている。


「嫌になっちまうよな」

「そーですね……」


 隣で作業を進める先輩と責任者にバレないように目も合わせずに会話をする。比較的音が出ない作業だったので小声で話せたのは幸いだ。


「まったく!これだから低ランク共は!テメェらの代わりなんて何千人といるんだぞ!首飛ばされたくなかったらスピード上げて働けェ!!!」


 低ランク、ね。ホント嫌になる。確かに魔力の適性が高い人材──つまり魔力量が多い人は大切にされやすい。魔法(マギア)が使える魔道士ならなおのこと。作業効率が上がるし危険も減る。


「こんな仕事。高ランク適性持ちが好きでもない限り選ばないよな」

「もっと華々しい職に就いてるっすよね」


 それこそ、世界そこかしこにいる魔獣討伐なんて高ランクは引っ張りだこだ。低ランクでもいるのはいるが、よっぽどの才能が無いと本業としてはやっていけないだろう。

オレらなんてせいぜい体の一部を魔力で強化して力を上げるぐらいが精一杯だ。お陰で荷物運びは比較的楽な作業として人気だけどな。

 そう先輩とこっそり話しているうちに満足したのか責任者は怒鳴り散らすだけ散らして仮設事務所に戻って行った。


「これで作業しやすくなりましたね」

「本当だな」


 そのまま責任者の野郎は帰ってくることなく終業時刻となりようやく姿を見せた。一応責任者だと言うのに現場見なくていいのかよ。とは、作業員全員の意見だろう。多分。


「今日はここまでだ!」

「「「お疲れ様でした!!!」」」


 現在時刻二十二時。翌朝の集合時刻は六時。八時間後には仕事ときた。ほんと、訴えたら確実に勝てると思うわ。

寮近くのコンビニで夕飯買ってから帰ろう。そんで、風呂入って寝て、また仕事だ。

こんな日々マジで嫌になっちまう。そもそも全部親父が悪いんだ……なんて、色々考えながらコンビニで買い物をして寮へ戻る。その道中だった。


「あれって」


 目の前をとぼとぼと歩いているのは例の新人だ。確か、えっと名前は……


「浅井」

「誰ですか?」


 俺が呟いたのが聞こえたのか浅井が振り返る。流石に疲れた声色をしており可哀想に……と思ったが反応されてしまったからには何か話さねぇと。


「悪い、思わず呼んじまった」

「いえ、先輩でしたよね?えっと」

「オレ柊翔真。柊でいいよ」

「ありがとうございます。僕は浅井悠太です」


 疲れた気配は残っているが、浮かべた笑みに少し申し訳なくなった。


「よろしくな。にしても、大丈夫だったか?上司のヤツら酷いのが多いだろ」

「あはは……結構堪えましたよ。でも、いい人達もいますから」


 遠目から嫌でも目に入った浅井の姿は、上のヤツらに八つ当たり同然な言葉を投げかけられ、常に重い物を運ばされてたイメージがあった。先輩の何人かが庇ってたような気もするけど、自分の仕事もあるせいで手伝えてなかった気がする。


「だよな。まぁ、そんな新人にささやかなプレゼント」


 さっきコンビニで買ったホット缶コーヒーを軽く投げて渡す。少し驚いたように浅井は缶コーヒーを受けとりこちらを見た。


「いいんです?」

「おう。もう三月も終わりなのに寒いし、暖かくしろよ」

「はい、ありがとうございます柊さん」


 ぺこりと頭を下げた浅井は嬉しそうに笑いながらコーヒーをしまう。そんな様子にあげて良かったと思えた。


「気にすんなって。また明日もよろしくな」

「よろしくお願いいたします柊さん」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」


 いつの間にか寮の入り口に着いており、オレと浅井はそこで別れた。

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