戯れ言 ゲーム返せこのヤロー!! 心疾患兄妹編
妹はゲーマーだった。
幼い頃から娯楽に飢えて、アイドルにはまってはいたが、携帯ゲーム機で遊ぶことが多かった。
入院中や家にいるときも、ベッドの上で暇を持てあましていたのだろ。
特にRPGが好きだったようだ。
ある時、私が新しいゲームソフトを購入すると、すぐに貸してくれとせがまれた。
バイトも忙しく、プレイしている時間が無いと言う理由で「クリアするまで良いよ」と気軽に貸した。
そして一週間後、少し時間が出来たので返してほしいと伝える。すると・・・・・・
「まだクリアしてないから待ってて」と言われた。
調子が悪いのかなと思い、仕方が無いのでもう二週間待つことにした。
「そろそろ返してくれないか? 兄ちゃんもさすがに時間が・・・」と、返却を求める。
「まだクリアしてないし途中だから、もうちょっと貸して。焦らせないでよ」と、拒否される。
さすがにおかしいと思い、しびれを切らせた私は妹を問い詰めた。
「いくら何でもかかりすぎだろ」
すると妹は「まだ三周目の途中だからもうちょっと待って」と涙ながらに訴えてきた。
三周目と聞いた私は呆れて部屋を出た。
(ゲーム返せこのヤロー!!)と言いたくなったが、妹は確かに噓を吐いていない。三周目に手に入るアイテムもあるだろう。プレイも途中と言われれば途中だ。
そして、「クリアするまで良い」と言ったのは確かに自分だ。
だが、しかし、十分な時間を妹に与えたわけだし、私がゲームをプレイする時間はどうなるのだろう。
そう、頭がモヤモヤする中で母が私の部屋に押し入ってきた。
「妹にゲーム返せって言ったみたいじゃない。どうしてゲームクリアまで待ってあげられないの? 娯楽が無いんだし、楽しみを奪うような真似はやめて、お兄ちゃんなんだから待ってあげても良いでしょ!」
と怒気を込めて私を叱ったが、こちらは何故怒られているのか理由が解らない。
「いや、だってクリアしたのに返してくれないんだもん」
「途中だって言ってたわよ。どうして、待ってあげられないの? どうして意地悪するの?」
「母よ、アイツ、クリアして三周目の『途中』なんだよ。貸して一ヶ月近くになるけど、もう、俺さすがにプレイする時間無いし、新品のソフトの代金支払って欲しいんだけど五千円払ってくれる?」
「ファッ!? 三周目!?」
冷静にことの経緯を話すと、母は顔を引きつらせ妹の部屋へ向かった。
少し怒号が聞こえたが、しばらくすると母がゲームソフトを持って来た。
「三周目って知らずにゴメン。途中なのに兄貴がしつこいって妹が泣きながら言うから」
「馬鹿馬鹿しいから、もう良いよ。あと間入るならこっちの話も聞いてからにしてくれないかな? 妹がいくら殆ど寝たきりだからって、時間的に許せる範囲と許せない範囲があるわ。こっちにも予定あるし、常識的に三周目が途中ってどうなん?」
「確かにそうよね・・・・・・」
さすがの私もこの時ばかりは怒りと言うか呆れて、母の謝罪も聞く気に成れなかった。
後日、妹がゲームソフトの半額を渡してきた。
私は私で時間が無くなり、そのゲームは未だに積みゲーとなってしまった。
重い障害を持つその子供を優先してしまう母の気持ちは解るが、だからと言ってどんな状況であれ、頭ごなしに、その子が中心で世界が回っていると思わないで欲しいと、心の底からその時思った。
そして私は、妹には新品のゲームを二度と貸さないと誓うのだった。
私はゲームを返して欲しかっただけなのに・・・。理不尽に怒られたのは、結構メンタルに来た。(涙)