家賃62,000円/月の自宅:2020.6.19
――なんじゃこりゃ。
素直にそう思った。
文末の名前、これはメールを送った人物の署名だろうか。
つまり、「キーチロー」某が文字化けしたメールを送ってきた、と。
この時点で9割9分イタズラなのだが、このメールにはいくつか気になる点がある。
1つ目、兄の名は「山城 騏一郎」
――つまり、キイチロウである。
しかし、敢えて「キーチロー」とする表記に私は見覚えがあった。
何のこだわりか、兄はゲームプレイ時のプレイヤーネームをそれで統一していたのだ。
そしてこのことは、家族と兄の恋人、友人(のうち更に一部)くらいしか知らないはずである。
そんな限られた人物しか知らないような署名のあるメールは、偶然とは言い難いものがある。
2つ目、文字化けと思われる言語だが、初めて見るものだ。
すべての言語を知っているわけではないので自信はないが、取っ掛かりが全くない。
昔歴史の授業で習った、楔形文字に近いと思うのだが…
いや本当に、なんだこれは。
ついでに言えば、私はプログラマーの端くれだ。
こんな文字の入力・表示機能を、そもそもスマホに入れた覚えがない。
デフォルトで入っているものにしては尖りすぎだと思う。
そして3つ目、これが最も気になるところなのだが、そもそも私のところにピンポイントでメールが来たのが不可解だ。
メールの宛先は「yoji.saikyou@~」(私は山城 燿司という)、小学生の時に私が初めて作ったアドレスである。
…消すのも忍びないので一応残しておいたものではあるが、黒歴史全開で居たたまれなくなるので、転送専用にしていたし、何なら今の今まで存在を忘れかけていた。
現在においては知る者もほとんどおらず、今でも覚えている可能性のある父と姉(母は当時、こういった機械にめっきり疎かったため多分知らない)は、今どきメールなどしてこない。
というよりも、このアドレスが残っていることなど想定外だと思う。私とて、失踪前の兄のメールを消せずに残しているだけなのだから。
兄のメールは思い出ということで、母にも転送して見ることができるようにしている。が、その際に「そのうちアドレスは消えるからよろしく」と嘘をついた。
だからなのか、状況から見ても兄以外の人物がこのメールアドレスにメールをしてくることが想像できない。
状況証拠は、メールの送り主が兄か兄にとても近い人物であることを示している。
とはいえ、17年経っているのだ。もう17年、失踪した時点ではまだ16だったはずだから、兄がいない期間の方が既に長くなる。
正直に本音を言うならば、こんなことで心を乱されるのは御免だった。
ともすれば意固地とも言える感情で、私は差出人を特定することに決めた。
この時点で有給を何日か使うことは覚悟の上だったが、人生を懸けるつもりは無かった。
人生を懸けるつもりは無かった、のだ。




