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第16話 反撃のポエム

 幾重もの床を透過して届いた赤面ビームはそのまま天井も突き抜けていた。

 ピンクの光の立っている僕は温かいと感じるだけだが、今まさに僕を嚙み砕こうとしていた獅子型人喰イにとってそれは有無を言わせぬ絶対的な破壊の光だった。

 獅子型人喰イはその鼻先を、鼻があるのかどうか知らないが、赤面ビームによって瞬時に削ぎ落とされた。

 金色の火花と白い灰が散った。

 惜しい。かすっただけだ。

 (れん)にはこの人喰イの姿は見えていないので狙いようがない。かすっただけでも幸運だと考えよう。


 それでも獅子型人喰イが味わう苦痛は相当なもののようだ。鯨の声を圧縮して甲高くしたような絶叫をあげ、滅茶苦茶に悶絶しながら後退ると、壁を突き破って落下していった。

 致命傷になったとは思えないが、あの様子ならもう戻ってはこないだろう。


 窓から見える、新宿コロニーを取り囲む無数の巨大人喰イの乳白色の目が大きく拡大して小刻みに揺れた。

 だが奴らの動揺はそれだけだった。

 巨大人喰イたちは統率のとれた様子でじわじわと包囲の輪を狭め続けている。

 ここまでの距離は残り100メートルほどだろうか。

 逃げ場などもうどこにも無い。

 やるか、やられるかだ。


 僕は恋のノートをぱらぱらとめくった。

 これは活動日誌ではなく、ポエムノートだった。

 恋は日誌と偽りながら、毎晩せっせとポエムを綴っていたのだ。


 許せよ恋。


 マイクに向かって朗読を始めた。


「春よ来い ~世界はキミで変わる~」


 ぎゃあという恋の悲鳴が遠くからまた聞こえた。


「暗闇に捕われた私を、照らしてくれたのはキミだね。ズッキュン。光に手を伸ばせばすべてが鮮やかに色付いてゆく。きらきらきらきら、キュンキュンキュウウーン。同じ空の下、私は翼を広げて、今会いにいくからね。Oh Yes ! My Spring Love」


 さっきとは比較にならない猛烈なピンクの輝きが5階フロアを垂直に貫き、極太の光の柱となって屹立した。

 窓の外に見える無数の人喰イがびくりと足を止めた。

 そして全方向から一気に突進してきた。


「恋、ビルのまわりを見ろ! 人喰イに囲まれてるぞ!」


 恋の状況は知らないがマイクに向かってそう叫ぶ。光が振り下ろされるのを見て間髪入れず「回れ!」と付け加えた。

 一緒に踊ったとき僕の手の下でくるりと回った恋の姿が脳裏に浮かんだ。


 5階の窓から目撃したその光景は圧巻だった。何キロにも伸びた超巨大な光の剣が、水平に鋭く一回転した。

 包囲の輪を狭め、新宿コロニーを圧し潰さんと襲いかかってきた無数の人喰イたちは、まとめて斬られたことにはたして気付いただろうか。一瞬遅れて人喰イたちの胴体が上下に分かれ、そして絶叫とともに盛大に爆散した。

 新宿コロニーが轟音と巨大な光に囲まれた。昼間以上の眩しさだ。視界が真っ白になった。


「やった……」


 やがて光が消えると、大量の白い灰が雪のように舞っているのが見えた。

 確かな手応えに僕はマイクのスイッチを切り、放心状態となってその場に尻餅をついた。

 何かが荒々しく階段を駆け上がってくる音が聞こえた。

 まずい、人喰イがまだ残っていたかと振り返ると、鬼の形相の恋が走ってくるのが見えた。まだ赤面してピンクの炎を全身にまとっている。


春人(はると)のバカーッ!」


 蹴り飛ばされる。目を固く閉じ、歯を食いしばった。

 どん。ほら暖かくて柔らかい。


「え」


 蹴り飛ばされていなかった。

 もの凄い力で抱きしめられていた。

 シャンプーとボディソープのいい香りがした。

 恋の髪はまだ濡れていた。


「どこにもいないから恐かった! 死んだのかと思ったよ!」


 泣きそうな声で、恋がそう言った。


「ごめんな。勝手にポエム朗読して」


 僕がそう答えた途端、恋は腕の力をはたと消失させた。

 そして無表情に立ち上がり。


「バカーッ!」


 今度こそ僕は蹴り飛ばされた。


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