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43仲良しなんてむりじゃない?



「きゅう」


 ……昼間、リュクスくんへあて付みたいに嫌な態度をとったのはだめだと思う。

 でもそうするだけの苛立ちと怒りがこの子の中にはあったんだ。


 好きな人がいたのに離されて、家の政略の為だけにひとまわり以上の男に嫁がされた。

 望まずして送られた場所では子どもまでいて、しかもその子は無邪気に話しかけてくる。

 こんなところに居たくはないのにと、苛立って当たってしまった。


 前世で言えば高校くらいの女の子で、まだまだ未熟な年頃なのに、政略結婚で人生を決められて。


「会いたい。……ダンのお嫁さんになりたかった。…ダンの子どもを産みたかった。貴族になんて生まれなければ、私も彼と同じ平民だったなら、きっと彼と一緒になれたのに……!」


 しゃくりあげながら、ぬくもりに追いすがるみたいに、サラサさんは私を抱き寄せる。

 きっと言葉を話せない動物だと思っているから、本音を吐き出してくれるんだろう。

 きっと人間のシンシアにはこんな風に本音を話してくれない。

 うーん……人間になれる竜なんですって、言い出しにくくなっちゃったな。

 だって誰にも言えない秘密を知られているだなんて、耐え難い程に恥ずかしくて悔しいことのはずだ。プライドの高い子みたいだから余計にね。

 しばらくは私の正体をばらさない方がいいかもしれない。


 ぽろぽろ泣くサラサさん。

 私はつい、背を伸ばしてぺろりと頬の涙をなめとった。

 

「っ……」


 すると席をきったように、さらに大粒の涙があふれてくる。


「ふ……ぅ、ひ、っ―――――――」


 

 ………泣き続ける彼女に、私はただ寄り添うしかなかった。

 

 しばらく経った頃、サラサさんは泣き疲れてソファで眠ってしまった。

 私は彼女の腕に抱きこまれたままで動けない。


「きゅーう」


 うーん、もしかすると朝までこの体勢かな。

 リュクスくんに抱きしめられながら寝られても抜け出せるけれど、それより力が強いのか動けない。しんどい。

 どうするべきかと悩んでいたら、静かに部屋の扉が開いて行った。


 ―――うん? 


 開いた扉の方をみると、静かにお父さんが部屋の中へ身を滑り込ませているところだった。


 私と目があうと、口元に人差し指をたてて「しぃ」って指示してくる。

 言われなくても、泣き疲れて眠ってる子がいるところで騒いだりしないよ。

 こちらへ近づいてきたお父さんは、眠る前のようでパジャマにローブを羽織っていた。

 いつもきちんとした格好しか見て無かったから新鮮だ。

 髪もきちんと整髪剤でまとめている昼間とくらべると乱れていて、セクシーな感じ。

 彼はソファにもたれて眠るサラサさんの顔を覗き込むと、頬にかかった桃色の髪をはらい、涙の後を指で摩りながら静かに声を落とす。


「……どんな経緯があるにせよ、私の妻になり、我が家の家族になった子だ。お前も仲良くしてやってくれな」


 お父さんはそう言って、私の頭をひと撫でしてから私を抱きしめるサラサさんの腕をほどくと、お腹の上から下ろしてくれた。


 見上げたお父さんの目は優しくて、でも少し寂しそうで―――あぁ、お父さんはサラサに好きな人がいることを知っているんだって分かった。

 だから彼女の横柄な態度を叱らなかった。

 立場的にサラサさんの伯爵家よりハイドランジア公爵様の方がよほど上だから、サラサさんの態度はあまりよい事ではないのに赦した。

 それでも家の利益のため、お父さんも感情よりも婚姻を結ぶことは受けいれたのだ。

 

 お父さんは、死んだお母さんを今でも大事に思ってる。

 それでもサラサさんを妻として彼は受け入れる。

 相手に嫌われていようとも、家族として、奥さんとして、大事にしようとしている。


 お父さんはサラサさんをそうっと優しく抱き上げた。

 細身なのに意外に力があるようで、軽々と運んでいこうとしている。きっと夫婦の寝室に連れて行くつもりなのだろう。

 

「じゃあな。おやすみ、シンシア。良い夢を」

「きゅう」


 部屋を出ていくお父さんの背中を見送ってから、私はお散歩に戻る為に廊下にでた。

 さっきより、少しすっきりした気分だ。





 ……たとえ始まりが政略結婚でも、お父さんは妻としてサラサさんを迎え入れるつもりでいる。

 リュクスくんも、仲良くしようと自分からあゆみ寄っていた。

 二人とも死んだお母さんが大好きなのは変わらないはずなのに。


 でも、サラサさんの胸の中には恋人がいて、だからお父さんとリュクスくんを受け入れられない。


 

 少しだけ複雑でたいへんな環境だけれど、誰が悪いわけでもない家族。

 昼間に初めて会った時はこんなやつ追い出してやろうと考えたけれど、今はいつか仲良くなれるといいなと、私は思ってしまった。





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