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40新しいお母さん


 お母さんが亡くなってから、半年ほどで新しいお母さんが来てしまうとか。


 しかも後に聞いた話だと、お父さんと後妻さんは顔合わせを兼ねた食事会を一度しただけらしい。

 それでも心配しているのは私だけ。

 使用人さん達からも、『早すぎる』というような声は聞かなかった。

 やっぱりこちらの世界の文化では、政略結婚は当たり前で、何も変なことじゃないんだろう。



「大丈夫かな。上手くいくかなぁ」

「だいじょーぶだよ」


 ニコニコしているリュクスくんと一緒に、ただ一人ハラハラしている私は階段をおりていく。




 なんと今日、もうすぐに、後妻さんがこの公爵家に到着するらしい。


 数日前から総出でお母さんの部屋の片づけが行われ、ほとんどのものが倉庫や別室へと移動させられ、屋敷の廊下に飾っていた大きな家族の肖像画も取り外された。

 壁紙が貼り換えられ、後妻さんの嫁入り道具らしい真新しい家具や衣服が新しく入ったお母さんの部屋は、もうまるで違う雰囲気になっている。


 お母さんとは一週間ほどだけの付き合いだった私なのに、お母さんの存在をこんなにあっさり『過去のもの』として片づけてしまうのは嫌な気分だ。 

 この家からどんどんお母さんが消えて行ってしまうような寂しさがあるのに、リュクスくんは笑ってる。

 感覚が違うだけなのか、無理しているのかがいまいち分からない。

 その私の心配は、どうやら顔にでてしまっていたらしい。


「シンシア、だいじょうぶだよ」

「……本当に?」

「うん」


 リュクスくんが、きゅっと私の手を握ってくれた。

 彼は、ふんわりとはにかみ私を見上げてくる。

 

「だいすきなシンシアが、いるから」

「っ……そっか」


 私がいるから、大丈夫。

 そう思って貰えるほどに、私はリュクスくんの支えになれているということたろうか。

 だったら嬉しいな。

 それでもこういう反応をするからには、義母の存在が否じゃないにしても不安はあるってことだよね。

 見知らぬ人が家族として入って来る戸惑いを、やっぱり感じてるってことかな。

 

 私は小さな手を握りかえした。

 リュクスくんと顔を見合わせて頷き合ってから、覚悟をきめて一緒に階段を下りて行く。





 ……そして、後妻さんが公爵家の玄関扉をくぐったのは、私たちが玄関ホールについて五分ほどがたったころ。

 使用人のみんなが後ろにずらりと並ぶ中、まずはお父さんが前へでる。


「サラサ。ようこそ我がハイドランジア家へ、歓迎するよ」

「………」


 にこやかに対応したお父さん。

 でもサラサ、と呼ばれた女の人はお父さんの言葉に返事は返さなかった。


 やや眉を寄せて、屋敷の中を見渡す後妻さんは肩を超すくらいの桃色のふわふわの髪をした女の子。

 ローズピンク色の丸みのある大きな瞳に、血色の良いバラ色のほっぺと唇。

 控えめに言って可愛い、髪も目もピンクなこともあって、本当にふわふわした綿菓子みたいな女の子だ。

 しっかし…………若いなぁ。

 十五歳のカインと同年代か、もう少しだけ上くらい?

 絶対に十代だ。

 お父さんがたしか二十七歳だから十歳以上は離れているだろう。


 そんな黙ったままの女の子に、お父さんはもう一度声をかける。

 

「サラサ、さぁ私の息子たちを紹介しよう、みんな今日から君の家族になるんだよ」

「リュクスです」

「シンシアです」


 私も家族として紹介してもらっていいものなのかな。

 認めたくはないが、私はこの家で飼われているペットの身だ。

 まぁペットも家族のうちってことか。

 それにこの家の人になるってことは、私が人間にもなれるびっくり竜だって知って貰わないとだし。

 家の中でまで隠してるなんてしんどいからね。

 まずは言葉を話せて意思疎通が出来る人間の姿で会うことにした。


「ははうえ! よろしくおねがいします!」

 

 リュクスくんが一歩前へ出て、元気に挨拶。

 握手をしようと手を差し出した―――が。 



「触らないで!」



 ――――パチン!


 鋭くも高い第一声と共に、リュクスくんが差し出した手は高い音を立てて叩き落された。

 リュクスくんを見下ろすサラサさんをとっさに見上げると、その顔はとても嫌そうに歪んでいた。


「わたし、子どもって嫌いなのよね。近寄らないでちょうだい」


 ぽかんとする私たちの前、サラサさんはふんっと鼻をならす。

 固まる私達から視線をはずした彼女は腰に手をあてて顎をくいっとさせ、屋敷の奥をさした。


「ねぇ、私の部屋はどこなの。いつまでも玄関に立たせないで。早く連れて行ってちょうだい」

「サ、サラサ、まずは家族で親睦を深めるためにティータイムをと思っているのだが」

「いらないわ。仲良しの家族になるつもりなんて更々ないもの。政略結婚なんだから親睦なんて必要ないでしょう」

「だが」

「い、ら、な、い! それとも何? 公爵様は嫌がる妻を無理矢理引きずってお茶の席に出すような乱暴な方なのかしら? 私、社交界で触れ回ってやるわよ」

「そんなことしないよ」

「だったらいいでしょう。ねぇ早く、もうそこのメイドでいいわ。部屋に案内なさいな」

「は、はいっ」


 サラサさんに指名されたメイドさんが肩を跳ねさせつつも前へでていく。


「旦那様、よろしいでしょうか」

「あぁ……構わない。頼んだよ」

「かしこまりました。奥様、どうぞこちらへ」

「奥様なんて呼ばないで!」

「さ、サラサ様……?」

「ふんっ」


 メイドの案内する方へ、サラサさんは不機嫌なまま背を向けて歩いていってしまった。




 玄関ホールで残された私たちは、ただただ呆然とするばかりだ。


「ちちうえぇ……」


 眉をハの字にしたリュクスくんがお父さんをみあげる。


「ううん……まぁ彼女にも色々あるんだよ。悪い子ではないから、気長にゆっくり仲良くなれるようにしていこう」

「はい……あたらしいははうえ、むずかしい」

「そうだな。なかなか難しい奥さんのようだ」


 しょんぼりしているリュクスくんを、お父さんが頭を撫でて慰めている。


「シンシアも、悪い風にとらないであげてくれ」

「えぇ? でも、態度最悪だったよ? 私ああいう子ってきらい」


 私は向こうに仲良くなる気がないなら、こっちも別にいいやって感じで近寄らないようにするタイプだ。

 保育園の受け持ちの子ならともかく、あの年にもなって初対面で挨拶一つせず嫌な態度をとる相手にわざわざ近寄って仲良くしようと頑張るようないい子じゃないもん。

 とにかく態度が気に入らない。

 好きじゃないタイプの女の子だ。


「シンシア、頼むよ」


 お父さんが懇願するふうに頼んでくる。

 気乗りはしない……けど、お父さんを困らすつもりもない。

 ため息をはいてから、仕方無しに頷いた。



「……まぁ、喧嘩はしないようにする。たぶん」


あのままの態度が続くなら、いずれ堪忍袋が切れそうな気はするけれど。






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