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36劣等生



「さぁシンシア様。集中して、体の中にある魔力を感じ取って、ゆっくぅりと外で出してみてくださいな」

「はいフィー先生!」


 集中して、体の中にある感触を感じる。


 ……感じ……る。


 ………うーん?


 先生の言うとおりにしてみたけれど、どれだけ集中しても自分の中の魔力とやらが分からなかった。

 魔力なんて、そんなの欠片も感じないのですが。

 

「そのままぁで感じるのが難しければ、目をつむってぇ、視界を閉じてみてくださぁい。そうすれば自分だけに集中できままぁすから」

「は、はい!」


 言われた通り、目をつむる。

 真っ暗になって、なるほど確かに集中できそう。

 でもどれだけ集中しても、自分の中に魔力のようなものは何にも感じない。


「うーん? とりあえず……」


 魔力というやつがもうまったくさっぱり分からないが、踏ん張って手のひらからきばって何か出そうと頑張ってみることにする。


「ふんっ! ふんふんっ! ふんぬぅー!!」


 ……あれ? どれだけ気張ってもなんにもでないよ?


「ふんっ! ふん! ふんー! ぜぇ、はぁ……でない……」


 どれだけ力を込めても、なんにもでない。

 リュクスくんはあんなにあっさり火の玉をだしたのに、なぜ……。

 先生は眉を下げて困った顔をしている。


「陣をかけなぁいにしても、力をこめれば微小の魔力の魔力くらいは必ず出て来るはずなのでぇすが……これは……」

「せんせぇ」


 助けをもとめて見上げたけれど、ますます眉を下げられた。 


「もぉしかすると、魔力が著しく少ないか……本当にめったにないことですが……ここまで何も出ないと魔力が無い可能性も考えた方がよぉいかもしれませんね」

「……えぇ? 私、確かに洗礼で祝福をもらったんですけど」

「祝福は、魔法の適正を賜るだけでぇす。もとから体内にある魔力がなぁいとあっても意味がないのでぇす」

「意味が、ない……」


 聞くところによると、初めてでは陣の外枠である円が描ければ上等。

 普通だと腺が一本引けるかどうか程度。

 でもどれだけ魔法の才能の無い子でも、魔力の粒がぽろぽろこぼれ出るくらいはするらしい。

 でも私からは魔力が何も出て来ない。

 魔法陣を魔力でかけないと魔法が発動しない。


 ここまで魔力が出て来ないと言う事は、魔力量ゼロも視野に入れたほうがいいのではという話だった。

 ちょっと待って、私、髪で隠してるけどすごい魔力を秘めてると噂の竜石はまってるんですけど。

 なのに魔力なしってこと?

 これはただの飾りなの?




「申し訳ありませんが、魔力のなぁい子に魔法を教えるのは、私にはどうやっても出来ませぇん」

「ですわよね」


 授業が終わったあと、廊下に出た先生がエルメールさんに説明して心底申し訳なさそうに頭をさげた。

 それを聞いたエルメールさんは憐れむような目で私の頭を撫でた。




 結果、私は魔法の授業は一回でおわった。

 だって魔力が確認できないのに授業をしてもどうしようもないから。

 今後はリュクスくんだけがフィー先生に教わるらしい。


「シンシアと、もうおべんきょうできないの?」

「ご、ごめんなさい」


 目をうるうるさせるリュクスくんには、本当に申し訳ない。




 ――そんなわけで、私には人間になれる珍しい竜というのに加えて、魔法が使えない珍しい竜という評価も加わったのだった。

 


* * * * *



 魔法のつかえない竜ということが判明した日の夜。



 リュクスくんが眠った、夜中というにはまだ少し早いくらいの時間。

 私は部屋をこっそり抜け出した。

 大人の時間を堪能する為に。

 この時間は屋敷で働いている人の数も少ないので、廊下でも誰かにぶつかる心配なく気ままに飛べるのがいい。


 歩くと部屋から出るのに十五分はかかるくらいな私の足だが、飛べば早いので、可能な限り移動は飛んでしたいのだ。 

 飛べるようになって本当によかった。

 それに人間に変化すると着替えをしないといけないから、ちょっと手間があって面倒くさいんだよね。

 基本は裸体な竜の姿が気楽でいい。



 そんなわけで私は気ままに、特にあてもなく屋敷の広い廊下を飛んでいた。

 しばしして、たまたま通っていた廊下の曲がり角の向こう側から、夜勤中らしい使用人さんたちの話し声が聞こえてきた。

 仕事の合間の井戸端会議かな? 

 私も混ぜてくれるかな? 

 と近寄っていくことにした――けど。


「……あぁ、やっぱりシンシアは親竜に捨てられた子なのね」


 声をかけようとしていた私は、その言葉にピタリと動きを止めた。

 

「そのようだ。どうやら教師がついて教えても魔法を使えないらしい……普通の竜は生まれてすぐにある程度は使えるのに」

「飛ぶのもずいぶん遅かったし、竜としては失格なんだろう」

「人間にはなれるけれど、それも捨てられた後からだしねぇ」

「かわいそう……」

「せめて私たちは愛情込めて育ててあげましょう」

「あぁ、竜として多少不出来でも俺たちには関係ない!」

「そうよ! それにシンシアはとってもいい子だわ!」


 使用人たちの会話を、私は曲がり角の影から聞いてしまってしょんぼりしてしまう。

 別に陰口というわけでもないし、むしろ私を大切に思ってくれているのだと分かる内容で、嬉しくはあるけれど……。


『捨てられた子』


 という言葉が、胸にツキンと突き刺さるのだ。


 彼らの言う通り、私は竜としてはだめだめで、親竜にとっていらない子だったのだろう。

 普通の竜なら生まれてすぐに出来るはずだった飛行ができなかった。 

 今も魔法はまったくできない。

 その時点で竜としては失格で、だから捨てられたのだろう。

 野生の動物は、生まれて直ぐに歩けない子供は置いて行ってしまうと聞いたこともあるし。


 私は前世の記憶を思い出す前の自分のことはさっぱり覚えていないから、産んでくれた親竜のことはまったく知らない。

 それでも親に捨てられた身ということには、やはりショックを受けてしまう。



 ――いらないと思われてしまうことは、とても寂しいから。

 


 でも泣いても喚いても状況は変わらない。

 お母さんが欲しいなんて駄々をこねたって困らせるだけ。


 それでも使用人たちの会話をきっかけに一度沈んでしまった心はすぐには戻らなくて、私はしょんぼりしながら、風通しの為にあけられていた窓から外へ飛び出した。

 空を飛ぶのはとても好き。

 風が気持ちよくて自由に飛び回れる感覚は楽しいから。

 今日は予定になかったけれど、夜のお散歩に出掛けよう。




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