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36魔法を使うよ


 しばらく庭を散歩して、私もリュクスくんもフィー先生にすっかり打ち解けたころ。

 屋敷の敷地内の端にある土を硬くならした地面の広がる、お父さんや護衛の人が剣の稽古などをする場で、魔法を見せてもらうことになった。


「でぇは、この杖の先をよぅく見て下さいね」


 先生が腰にさしていた杖を取り出した。

 四十センチくらいの細い杖は、シンプルな金属製の棒に見える。

 けれどよく見ると側面には小さな石が幾つかはめ込まれている。

 この石は魔石というらしく、とても貴重な魔力を帯びた石らしい。

 

「この世でもっとも貴重でもっとも強力な魔力の秘められた石はぁ、竜石と呼ばれていまぁす。しかぁし、ほぼ流通はしていませぇん。国宝級の代物とされていて、国内でも片手にたりる程度の数しか現存していませぇん」


 竜の寿命はとても長く、しかも亡くなった竜の竜石は近しい竜が食べて自らの糧にしてしまうために人の手に渡ることはほぼ無いらしい。

 それを狩ってたカインのご先祖様は本当にやばい人だったんだろう。 

 さりげなく魔石や竜石の話を交えて知識をあたえてくれている先生は、私が竜だと言うことはしらない。

 私は病弱で勉強の進みが遅い親戚の子供ということになっている。

 洗礼式での出来事は結構な人数にみられているし、あれとつじつまを合わせるために病弱な子供設定はもうずっと付きまとうのかもしれない。

 生まれてこのかた風邪ひとつ引いてない健康体の竜なんだけどね。


 フィー先生は胸のあたりで杖の先でくるくると円を描くように手を動かした。

 すると、杖の先から淡く光る魔法陣が浮かびだす。


「う、わぁ」

「すごーい!」

「このぉように」


 先生がさらに杖をぐるぐる回すと、杖の先に浮かぶ魔法陣から水の玉がぽんぽん飛び出してきた。

 それらは太陽にきらきら反射して、シャボン玉みたいに宙を漂う。

 

「わぁぁぁ!」

「綺麗っ」


 水の玉に手を伸ばすけれど、あとちょっとで届くと言うところでふわりと動いて逃げられてしまう。


「あー! まってぇ!」

「届かないー!」


 リュクスくんと一緒に飛び跳ねながら追いかけて、はしゃいでいたら、突然水の玉がパァン! と音を立てて破裂した。


「ひぇ!」

「わ!」


 そろってビクっと跳びあがった私たちに、先生は悪戯が成功した子供みたいにクスクス笑う。

 釣られて、私たちからも笑いがこぼれた。

 

「ぼく、まほーのおべんきょすきー」

「私もっ」


 勉強嫌いなリュクスくんを夢中にさせる手腕、本当にすごい。

 それに私も、魔法に対してますます興味がわいてしまった。

 魔法ってとっても素敵だ。使ってみたいという思いが更にわいてくる。


「いいなぁ、魔法って恰好いいなぁ」


 あれを私が出来るようになるなんて、うきうきしかない。

 今は竜の姿にならないと飛べないけれど、カインみたいに足に風を巻きつけて屋根と屋根を跳んで移動するやつをやってみたい。

 なにせ私ってばあれだけたくさんの種類の洗礼の祝福をもらったんだし。才能は間違いなくあるはず! 絶対!

 きっと風も火も水も木も扱える。

 もしかすると珍しいっていわれている光や闇どころか、もっと希少な魔法だってできちゃうかもしれない。

 祝福をたくさんくれてありがとう神様!



 魔法を使って魔法少女のように必殺技を繰り出し決めポーズをする自分を想像しつつ、私たちはさっそく基礎を教えてもらうことになった。


「ではまぁずはリュクス様から。そうですねぇ……一番簡単なぁ火の魔法陣からやってみまぁすか」


 先生が杖で、地面の土に丸と、星を二つ組み合わせたような図をかいた。

 これが一番簡単な火の魔法陣らしい。


「頭の中にこの陣を、自分の中にある魔力を出しつつ宙に描いてみてください。ぜんぶ正確にしなくて構いません、最初は一番外側の円だけでも構いませんからね」

「がんばって、リュクスくん!」

「おー!」


 先生がいうには、自分の内にある魔力をあやつって、その魔力で空中に魔方陣陣を描く作業は、一番基本だけれど繊細で難しい作業でもあって、まず一回では出来ないらしい。

 最初は一本の線を描いてみるだけでも難しいそう。

 そもそも自分の中の魔力を感じて移動させて外に出すって、まったく訳が分からないけれど、これも体で覚えて感覚をつかむしかないんだろう。



「えーっとぉ」


 リュクスが自分の前へ突き出しす。

 するとすぐ手元に、手のひら大の赤く光る陣が浮かんだ。

 

「おや」


 先生が目を見開く。私も、最初からは出来ないものと聞いたばかりなのにあっさり魔法陣を完成させてしまったことに驚いた。

 リュクスくんは手の平の前に浮かぶ魔法陣をみつめつつ、更に気合いをいれた。


「えええいっ!」


 陣から力を押し出すみたいに、広げた両手をぽんっと前へ突き出す。

 すると魔法陣からポンっと手のひら大の火の玉が飛び出した。


「わ……すごい! でた!」

「おやおや! 初めてでもぉう火の玉が出せるなんて! こぉれは驚きでぇす!」

 

 火の玉も、浮かんでいた魔法陣も一秒も経たずに消えてしまった。

 けれど、本当に何もないところから魔法陣と火が飛び出したよ。すごい!

 

「どうやらリュクス様はぁ、天才的な魔法の才をもってらっしゃるよぉうだ」

「てんさい? すごい?」

「凄いよリュクスくん!」

「えへへ」

「さぁ、今度はシンシア様でぇす。最初から成功したリュクス様が特別なのですかぁらね。まずは魔力を外へだぁして、円を描けるようになれば上等です」

「シンシア、がんばって」

「うん!」


 私はちょっと胸を張る。

 だって私に出来ないはずがないじゃん?

 なにせ転生者だし。洗礼の祝福一杯もらったし。

 絶対の絶対に魔法の才能あるからね! 


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