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28ティーパーティー


 神殿での儀式が終わった後。


 洗礼式に出席した人たちはそれぞれがいったん馬車に乗って通路をとおり、隣接した王城の庭園へと案内された。


 そこでは国王主催で、今日洗礼を受けた貴族の子供たちのためのティーパーティーが開かれるのだ。

 国内各所の神殿でも、子どもたちに祝い菓子がふるまわれるように王命で手配されているらしい。


 通された広い庭園のあちこちにはテーブルやいすが並び、おいしそうなお菓子に、サンドイッチなどの軽食が用意されていた。


「我が国の未来を担う子供たちの記念すべき洗礼の日だ。大いに祝い、楽しんでいってくれ」


 髭もじゃの国王陛下は挨拶と乾杯の音頭をとっただけで、主役は子供達だからあとは気楽にと場を離れていった。

 出席者はばらばらになって好きに歓談をしたりご飯を食べたり。

 ひらけたあちらこちらで子供が走り回って遊んでいたりもする、明るい雰囲気の楽しいパーティーだ。


「王城でのパーティだっていうからちょっと緊張してたけど、ずいぶん砕けた、カジュアルなものなんだね」


 事前に畏まらないティーパーティーだとは聞いていたけれど、本当に気楽な会だった。


「シンシアは、この国の地理とか歴史とかは知らないのか」

「勉強したことない」


 お父さんが納得したように頷いた。

 リュクスくんには家庭教師がついているけど、私は竜だからと教育は施されていない。

 文字くらいは勉強していきたいなとは思ってるけどね。


 話をきくところによると、この国は大陸の端にある、いわば田舎の小国というやつらしい。

 それゆえに国全体がのどかな雰囲気で、私が想像していたようなお貴族様の豪勢で堅苦しいパーティーというのはそれほど多くはないのだとか。

 社交シーズンにはやや多くはなるけれど、毎晩毎晩パーティー三昧という貴族は数える程度だそう。


 リュクスくんと一緒に、お父さんからそんなことを聞いていた時。

 すっと横から男の人がやって来て、お父さんに話しかけてきた。


「失礼いたします。シンシア様をお連れさせて頂いてもよろしいでしょうか」

「うむ?」

「シンシアだけ? ぼくは?」

「申し訳ありません。二人でお話しになりたいとのことでして」


 男の人は、お父さんに耳打ちをした。

 納得したようにお父さんが頷く。


「あぁ、分かった。――――シンシア、先ほどの方が改めて話をしたいそうだ」


 先ほどの方、と言われて私は誰が呼び出しているのかを察した。

 さっき「後で話そう」と言われていた人。

 つまりは神官であり王子様であるカインなのだろう。


「行った方がいい? お父さん」

「そうだな。シンシアが嫌でなければ」


 王族の人からの呼び出しだから、なんとなく気が乗らないていどの理由では断れないんだろう。

 まぁ別にものすごく嫌ってわけじゃない。

 それに洗礼式でやらかしたせいでひしひし感じる注目の視線が痛く、場を離れてカインとのお喋りのほうが気楽そうな気もする。

 私はもっていたジュースをお父さんへ渡して、使いの男の人について行くことにした。



 ――――そうして、男の人に連れられてきたのは、お城の二階。


「カイン王子殿下、お連れしました」

「入れ」

「失礼します」


 扉をあけられて入室した先、窓際にたっていた人に私はつい口を滑らせた。


「王子様になってる……」


 カインは「ふ」と小さく笑いを漏らす。


「正真正銘、王子様だからな」


 そうだった。王子様だった。

 でも神殿に居た時の白い神官服とも、夜中に会った黒ずくめの怪しい衣装とも違い、紺色のジャケットに仕立ての良いシャツという貴族の男性風の服に着替えていたカインは、どこからどうみても『王子様』だった。

 

「呼び出して悪かった。あそこでは静かに話せなさそうだったからな」

「ううん。視線が痛くて大変だったからむしろ助かったよ」

「そうか。座ろうか」


 促されて、私は部屋の中央にあった布張りのソファに座った。

 グリーンのワッフル生地が張られたソファも、観葉植物の多い部屋の雰囲気も、城の中にしてはカジュアルな感じだ。部屋全体が柔らかく、なんとなく居心地がいい。

 もしかしてここはお客を通すところではなく、私的な部屋なのかなと思いながら、すでにローテーブルに用意されていたチョコレートを摘まんだ。うん、美味しい。


「さっそく菓子か」

「だってあの注目のなかじゃ、食べにくかったんだもん。美味しそうなお菓子いっぱいあったのに! ……あれ?」


 てっきり向かい合って座るんだと思ってたのに、カインは私の隣に腰掛けてきた。

 正面の席に置かれていた紅茶をわざわざこっちに引っ張ってまで来て。


「……?」


 首を傾げながらも隣を見上げると、カインは金色の瞳でじいっと私を見下ろしてきていた。

 やっぱり綺麗な瞳だな。

 きらきら輝いていて、宝石みたい。

 でも私、どうしてこんなに見られてるんだろう。

 

 あぁ、そういえば話があるって呼び出されたんだっけ。

 仕方ないから真面目に聞く姿勢に入ろうか。

 私はチョコレートをごくんと呑み込んで、紅茶で流してから佇まいをただした。

 さぁお話しどうぞ? と視線を返す。




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