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27迫真の涙

 


 神殿中を舞う光の粒は、とても優しい感じがした。

 あまりに綺麗な光景にほとんどの人は見惚れて息をのんでいる。

 

 その後少しずつ、ゆっくりと光の粒が消えて、数拍たったあと。


「っ、すごーい! すごいねシンシア! すっごく綺麗だったー!」


 響いたリュクスくんの歓声と拍手に、みんなハッと我に返った。


 そして今起こった現象に誰しもが慌て、動揺し、ざわめきが起こる。


「なんなんだ今のは!」

「神の……祝福なの……? こんなのありえるの?」

「そうなのか……? では一体どれほどの数の祝福を賜ったのか……」


 みんなが何が起こったんだか訳が分からないといった感じ。

 騒ぎの中心になってしまっている私は、心地が悪いやら恥ずかしいやらで小さくなるばかり。

 なにより今日の主役だった子供たちの、場を壊してしまって申し訳なさすぎる。



「――――静粛に!」



 騒ぎのなか、ふいに静かに厳かに響いた声。


 そのたった一声は鋭く強く、一瞬にしてざわめきは収まり、全員がそろって振り向く。

 みんなの視線の先では、カインがこちらへと真っすぐに歩いてくるところだった。

 私は背が低いから見えやすいようにと通路側にいさせてもらっていたから、立ち止まった彼とはすぐ目の前で向かい合う。


「君、名前は?」

「シ、シンシアです。殿下……」


 さすがにこんな注目を浴びているところでため口を使って顰蹙を買うようなことはしない。

 返事を返しつつ腰を落として挨拶をし、姿勢をただしたときにはなにやらカインと、私の隣にいるお父さんが目配せを交わし合っていた。

 こっそりなにやらを通じ合わせた二人が頷き合う。

 首をかしげていると、お父さんがやや大きめの……会場のみんなに聞こえるような声でゆっくりと話し出す。


「カイン殿下、実は彼女は私の遠縁の娘でございまして。身体がとても弱く病気がちで、幼いころからずっと床に伏せっていたため、神殿での洗礼が受けられないままこの歳まできてしまった子なのです」


 カインが大きく二度頷き、また会場のみんなに聞こえるように意識しているような声の大きさで話す。


「なるほどなるほど。――そうか! これはきっと慈悲深い神がこの機会にと君にも祝福を授けてくださった結果なのだな!」


 女神像をハッとした感じで振り向きあおぐカイン。

 ちょっとワザとらしすぎない……?


「なるほど! うちのシンシアは病気と戦い続け、今もいつどうなるかわからない身……今日はたまたま調子がよかったので気分転換にと連れ出したのですが。神は彼女が病に負けぬよう、素晴らしい力を授けてくださったようだ。あぁなんとお優しい!」

「その通りだハイドランジア公爵殿! 神は病弱な娘を案じ、力を分け与えてくださった!」

「この子は病床で毎日ずっと祈りをささげているような信心深い娘です。だからこそ神は答えてくださった! なんと有難い……! 神よ! 神よ! あぁ感謝を!」


 お父さんもだいぶとワザとらしいな……。

 大げさな身振り手振りで演技するお父さんとカインが、今度はバッチンバッチンと私に目配せを飛ばしてくる。

 えぇ、えぇ、私は空気を読める子ですからね! ちゃんと出来ますとも!


「な、なんてこと! 神は私に病と戦うための力を与えてくださったのですね!? 本当に慈悲深いお方! 心からの感謝と祈りを捧げますわ……!」


 祭壇の女神像の方を向き、大げさな素振りで感激してみせたあと、手を組んで祈りのポーズを決めてみせた。完璧な演技だ。もしかして女優の才能あるんじゃない?

 

「本当に、本当に有り難うございます神よ! あぁ、これで病気が少しでもよくなればよいのだが……うぅっ」


 お父さんが一緒に祈りのポーズを決めながら涙を流す。

 すごい、本当に涙がでてる。お父さんもプロの役者顔負けだね!



「……あぁ、あの令嬢にはそういう事情があったのか」

「とても可哀想な子なのね……」

「今日もらった祝福で、よくなるといいな」

「神はなんて慈悲深い方なのかしら……私、これから毎日祈りの時間をつくることにするわ」

「お優しい神だ」

「すばらしい。奇跡をみてしまったぞ」


 私とお父さんとカインの迫真の演技によって、なんとかその場はおさめられた。

 中には涙まで流して私を励ましてくれる人もいた。

 いい医者を紹介しようかと提案してくれる人だっていた。

 みんないい人だなぁ。

 でもごめんなさい、本当は生まれて半年たつけれどいまだ一度も風邪さえひいていない健康体なんですよ。


 リュクスくんはずっときらきらした目をして拍手をしていた。


「すごい! かみさますごーい!」


 せっかくの洗礼式に水をさしてしまったかと心配になったけれど、意外にもほかの子供たちも無邪気に大喜びだった。


「すごいねぇ」

「きらきらしてたわ! おほしさまみたい!」

「かっこいいい! おれもひかりたい!」


 なんだかすごく疲れたけれど、子どもたちが喜んでくれたからまぁいいか。



 ――その後、大神官様とカインがしきり直し、残りの子どもたちの洗礼の祝福もつつがなく終えることが出来たのだった。


 なんであんなふうに盛大に光ったのかは、まったく分からないままだけど。



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