26神様からの祝福
神官の指が子どもの額に当てられ、すぐに離された。
すると―――。
「わぁ!」
濡れた指の当てられたばかりの額が赤くて淡い光を放ち、そこから光の帯が飛び出してきた。
その帯は子供のまわりをくるりくるりと舞うように回りつつ体を包んでいく。
まるで赤く光るリボンが子供の体をラッピングしていくみたい。
リボンが子供の全身をラッピングし終えると、すぐにふわっと光は霧散して消えていった。とても綺麗で、神秘的な光景だ。
一拍を置いて、神官はにっこりと子どもに微笑んだ。
「君は火の祝福を受けたようだ。神に感謝し、大切に使いなさい」
「あ、ありがとうございます!」
火の祝福?
なんのことだろうと不思議に思いつつその隣の神官と子供を見ると、その子は水色の光の帯にラッピングされていた。
「君は水の祝福をさずかったらしい。よかったね」
「はいっ! ありがとーございます!」
なるほど、光るリボンの色で祝福の種類に違いがあるのか。
「お父さんお父さん」
「なんだ、シンシア」
「火とか水の祝福って、つまりその属性の魔法が使えるようになるってことだよね?」
「そうだな。赤ければ火の適正、水色ならば水の適正を授かったということだ」
「火と水の他には何があるの?」
「火、水、風、木がほとんどで、たまに光や闇がある。光や闇は解呪や治癒などに役立つから重宝されているな。あとはとても希少だが氷や花、金属などの珍しい祝福もあるんだが……あぁ、ほら。リュクスの名前が呼ばれた」
説明を中断してお父さんが指した先では、名前を呼ばれたリュクスくんが祭壇に歩いて行っているところだった。
ずいぶん緊張しているみたいで、手と足が一緒にでている。
わたしはがんばれ! と心の中で応援した。
五人いる神官のうち、リュクスくんが呼ばれたのはなんと第二王子カインのところだった。
知っている人が相手だった為だろう、祭壇についたリュクスくんから肩の力が抜けるのが見て分かった。
「では、――――――リュクス・ハイドランジアに神の祝福を」
片手にもった器に浸したカインの指が、リュクスくんの額を濡らす。
とたんにリュクスくんの額が淡い光を放ち、赤と青の二本の光の帯が伸びて小さな体をくるくるまわり覆っていった。
あれ、他の子は色はさまざまながら一本だけだったのに、リュクスくんだけ二本ある?
これってどういう意味なんだろうと不思議に思っていると、それを眺めていたまわりがザワリと騒々しくなってきた。
「あれはどちらの家の子……?」
「たしかハイドランジア公爵家の嫡男では」
「あぁ、公爵家か……どうりでいい祝福を受けるはずだ」
「神に愛されているのね」
周りの反応を見る限りやっぱり珍しいみたいで、私は隣のお父さんの服をひっぱった。
「ねぇお父さん、どうしてリュクスくんだけリボンが二本なの」
「どうやらリュクスは複数の祝福を授かったらしい。しかも火と水という反する力を共にするとはな……これは凄い」
「凄いんだ。ええと、嬉しい事? 困ること?」
「とてもいいことだ。戻ってきたら祝ってあげよう」
「そっか。うん分かった」
他の子たちと違ったから大丈夫かとちょっと不安になったけれど、大丈夫らしい。
それに何だか凄い力をもらえたらしいし、良かった良かった。
あとでたくさん頭を撫でてあげようと決めた時。
「なんだ!?」
カインの大きな声が聞こえてそちらを見ると、なぜか彼の持っている器の中身の聖水が凄い光を放っていた。
いままで光りだすのは子供の額にあててからだった。
しかも淡い優しい光だったのに、強力な懐中電灯みたいでピッカーンと天井にまで強い光が伸びている。あれは近距離だとめちゃくちゃ眩しいだろう。
「え、え? 何?」
私はもちろん、周りも驚いている。
一体何がおこったのだと誰かの緊迫した声があがった瞬間――――カインの持つ器から放たれていた強い光がぐいんと勢いよく曲がって、一直線にこっちに飛んで来た! なんで!
「ひえっ!」
なにあれ、怖っ! 私は向かってくる光を手で払いのけようとしたけれどまったく意味はなかった。
「あう!」
光は私の額に体当たりするかのような凄い勢いでぶつかってきて、たぶんバシッと竜石に当たった。
とたんに、竜石から強い光が放たれる。
「ななななななんで! どうして私のおでこ光ってるの! やだこれなに! お父さんたすけて!」
「し、シンシア! おおおおおおちつけ!」
お父さんも落ち着いて無いね! 私の竜石すごい光ってる。
前髪で隠れているから石自体はたぶん見えないだろうけれど、大注目を浴びてて恥ずかしすぎる。
私の額から出ている、神殿の中の隅から隅までを照らす強い光は、やや間を開けて何十本ものカラフルな光の帯に変化した。
光の帯は神殿の天井から壁際あたりまで、様々な方向へうねり広がる。
それはやがて私の方へとあつまり、旋回しながら私を包み込む。
訳が分からなくて凄く怖かったけれど、お父さんがずっと強く手を握ってくれていて、心強かった。
「シンシア、落ち着け。落ち着け、だ、だだ大丈夫だからな!」
「う、うん……!」
私の体を包んだ何十本もの光の帯は、最後にぶわりと広がって光の粒子に変化し、散っていった。