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23魔法というもの


 リュクスくんの居る部屋へいくと、彼はぱあっと花が咲いたみたいに顔を綻ばせ寄って来てくれた。


「わぁ! ようせいさんみたい! すごいかわいい!」

「そう、かなぁ」

「うん。かわいいねぇ。すてき」


 リュクスくんは本当に誉め上手な子だ。

 おしゃれした女の子は褒められればもちろん嬉しい。

 しかしそれをしてくれる男の子は存外に少ないものだ。

 これは将来モテるんだろうなぁ。


「それで、本日届いたドレスの中で、今度のパーティーにはどれをおめしになりたいですか?」


 控えていたエルメールさんの言葉に、私は首をかしげた。


「こんどの、パーティー?」

「せんれいしきだよ!」

「あぁ、それは聞いてる。リュクスくんのでしょ?」


 少し前からリュクスくんの周りの人から良く聞くようになった『洗礼式』のこと。


 なんでもこの国の子どもたちは、四歳になった年の秋の初めに神殿で洗礼を受けるのだとか。

 日本でいう七五三みたいなものかな? 違うかな?

 通常は家から近い地域の神殿でうけるらしい。

 けれどリュクスくんの場合は公爵という高位の貴族なので、城の隣にあるこの国で一番神聖な場所である本神殿でそれをうけるのだとか。


「でもパーティって?」

「本神殿での洗礼式の後に、隣の王城で国王陛下主催のパーティーが開かれるのですわ」

「がくだんも! てじなしもくるんだよ!」

「へぇ」


 手品はちょっとみたいな。


「パーティーとは言っても主役の皆様が四歳ですので、二・三時間で終わる立食形式のティーパーティーだそうです」

「おかしもいっぱいでるって!」

「楽しそうだね。でもリュクスくんの洗礼でしょう? 私は関係ないよ?」

「洗礼式にもパーティーにも、家族の同席が許されております」


 まぁ四歳児だからね。親が一緒じゃないと不安か。


「へぇ。それに私も出られるんだ? いいのかなぁ」

「しんしあはかぞくだよ! ちちうえもいいっていった!」

「お父さんがいいって言ったなら大丈夫かな」


 夜のお散歩はときどきしているけれど、昼間にお出掛けはあまりない。

 楽しみになってきた私の前で、エルメールさんがリュクスくんに声を掛けた。


「洗礼式ではリュクス様の魔法の種類がわかります。使えるようになるのが楽しみですね」

「うん」

「ちょとまって、魔法って?」


 エルメールさん、魔法といいましたね?


「えぇ、シンシア様。魔法ですわ。ええと―――このような」


 なんとエルメールさんの手のひらに小さな魔法陣が浮かびだし、そこから火の玉が現れた!


「魔法だ!」


 この間の謎の青年だけでなく、結構使える人いるんだ。


「エルメールさんも魔法使えたんだね」

「えぇ。私も四歳の洗礼式の時に、このような火の祝福を授かりました」

「祝福ってなに?」

「洗礼式では子供たちに神より祝福が与えられるのです。生まれながらにもつ魔力と、神から賜る祝福が合わさり、魔法を使えるようになります。火の祝福を賜れば火の魔法が使えるように、水の祝福を授かれば水魔法が使えるようになります――もちろん魔法のお勉強と練習をしなければ使いこなせませんが」

「へぇ、すごい……異世界っぽい」

「いせ……? 良く分かりませんが、リュクス様はご両親ともに高い魔力をお持ちですし、祝福を受ければ素晴らしい魔法使いになれるはずです」

「ねぇねぇ、エルメールさん」


 私は、エルメールさんの服の裾を引っ張った。


「どうしました?」

「私は……竜は、魔法は使えないの?」

「え? ……ええっと、竜も魔法を使えますよ? 普通は」

「普通は、どうやったらいいの?」

「え、ええっと……普通は、ですね……」


 エルメールさんが困った顔になって戸の横に立っているトマスさんを振り返り見上げた。

 私も期待を込めて彼を見上げる。

 リュクスくんもなんとなくトマスさんを見上げた。

 

 注目を受けたトマスさんは頬を掻きながら「うーん」と思い出しつつ口を開いた。


「たしか、竜は生まれながらにつかえるはずだぞ? 赤ん坊の竜がうっかり森林火災を起こしたとかを十年に一度くらい聞くし」

「あぁ、そういえば有りましたねそんな事件が」

「また生まれながらに!? よその竜は優秀過ぎない!?」


 普通の竜は生まれながらに飛べるはずなのに、私は飛べなかった。

 そして普通の竜は、生まれながらに魔法だって使えるというのか。


 私はまったく使えないのに!  

 

 異世界だからとそれっぽく『ファイヤー』や『ヒール』とこっそり呪文を唱えてみたことだって何度もある。

 けれど、まったくもって使えなかった。


「しんしあ、だいじょうぶ?」


 ガックリ肩を落とした私の背中を、リュクスくんがぽんぽん叩いて励ましてくれた。有り難う。


「シ、シンシア! 洗礼式が終わればリュクス様は魔法の授業を受けるようになる! 一緒に習えるように旦那様に頼んではどうだ!」

「そうですわ! シンシア様は親竜に習ってないから使えないだけなのかもしれませんし! お勉強すればきっと!」

「そ……そうかなぁ」



 でも他の竜より遅くても、結果的にちゃんと私も飛べるようにはなったし。


 魔法だって、やり方さえわかれば使えるようになるかもしれない。

 私は希望をなくさず、リュクスくんの洗礼式後から始まる魔法の授業に混ぜてもらう事にした。







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