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18お菓子作り




「ほう、赤と白の模様が浮き出て綺麗ですね。これは面白い発想です」

「でしょう? 味もちゃんと美味しいから!」


 しばらく作業をすすめて型に流し込んだのはプレーンな生地と、すり潰した人参を入れた生地。

 一緒に合わせて少しだけフォークで混ぜて、マーブル模様になった状態のものをシェフにオーブンに入れてもらった。


 そのまま後片付けをしつつ待機。

 二十分もすると、オーブンから香ばしくも甘い香りがただいだす。

 

「匂いのせいでお腹減ってきたわ」

「だんだん美味しそうに見えてきました……」

「美味しいんだってば」


 ここまでくると、どんなものが出来るのかとシェフも楽しみになってきたらしい。

 一緒にわくわくとオーブンの前で待ち構える。


 そしてオーブンといえば、ボタンを押すだけのものしか知らない私にとって、薪ストーブの扱いは難しい。

 でも外側に温度計が付いていて、中の温度がどれくらいか目視できるようになっていたから、百八十を五十分保ってほしいとお願いした。

 さすがのプロであるシェフは、下の釜部分の薪を増やしたり減らしたり移動させたりと色々技を駆使してしっかり焼き上げてくれた。

 

「よし、時間だ。開けて開けてっ」

「はいはい、ただいま」

 

 素早く取り出してもらった型は逆さにして置かれた。

 シフォンケーキは柔らかすぎて自身の重さでさえ潰れてしまうのでこうして粗熱を取るのだ。

 シフォンケーキ自体は普通にこの国にもあるものなので、型もあったしわざわざシェフにお願いする必要もなくやってくれた。

 火傷するからと自分でやるのはとめられたけれど。



* * * *


「あ、シンシア。どこいってたのー?」

「リュクスくんは、お菓子は好きだよね」

「すきー」

「おやつにしよう!」

「するー!」


 ばんざーいと両手をあげて喜ぶリュクスくん。

 さっそく部屋のテーブルに、さっき作って切り分けてもらったキャロットシフォンケーキとミルクティーを二人分用意してもらった。

 

「あかいね?」

「かわいいでしょ?」

「うんかわいい」

「私がつくったんだよ」

「え! すごい! シンシア、すごいねぇ」


 やっぱりリュクスくんは誉め上手だ。

 嬉しくなっちゃうよね。

 

「いいにおい」

「でしょ? さあ食べて食べて。きっと美味しいから!」


 私は何が入っているか聞かれる前にリュクスくんを促した。

 バレちゃうと初めの一口から拒絶されそうだからね。

 

 リュクスくんは素直に頷き、シフォンケーキのふわふわさに苦戦しながらも一口サイズにナイフで切ってフォークをさす。

 添えてあったクリームをたっぷり付けて、何の躊躇もなく口に入れた。


 もぐもぐと、小さな口もとが動く。


 吐き出されないか、苦いと泣きだされないか。

 味見してもらったシェフには好評だったけれど、大丈夫かなと心配になりながら私はドキドキで見つめ、反応を待つ。

 事前にこっそりニンジンのケーキだと教えていたエルメールさんと、給仕をしてくれた使用人のお姉さんもどことなく緊張した面持ちで控えている。

 

 私たちの真剣さは伝わってないようで、リュクスくんは呑気な様子だ。

 そのまま飲み込んで、待ち構える私達へにっこり笑顔をくれた。


「っ、おいしーい! シンシア、すごいねぇ。おいしいねえ!」

「本当!? これ好き?」

「すきぃー」

「やった! さあどんどん食べて! もっと食べて!」

 

 私は自分のお皿のケーキもフォークで刺して、リュクスくんへと差し出した。

 このままの勢いをなくさず食べて欲しいから。


「あーんして?」

「あーん」


 大変素直な良い子のリュクスくんは、さらにもりもり食べてくれる。

 そのまま半分くらい減ったころ、そろそろいいかな。と思って種明かししてみることにした。

 

「……リュクスくん。これ、実はニンジンのケーキなんだよ」

「んんっ!?」


 あ。リュクスくん、盛大なショックをうけている。


「にんじん……なの……?」


 騙されたと、青くなった顔が語っている。

 あぁ、泣きそうに目がうるうるしてきてしまった。

 『美味しくてびっくり! ニンジンって美味しいんだね!』と期待していた通りにはならなかったみたい。

 これは駄目だ、盛り上げなくては!


「えー……えーっと。す、すごーいリュクスくん! ニンジン沢山食べたね! かっこいいー!」

「……?」

「あんなに嫌いだったのにすごいよ! 本当に凄い!」

「ぼく、すごい?」

「すごい! にんじんたくさん食べれてすごい! 天才! 私、嬉しい!」


 盛大にほめながら拍手する。

 私は周りに視線を向け、エルメールさんと、控えていた使用人さんたちを促した。


「すごいですリュクス様」

「人参がはいってるのに食べるなんて尊敬しますわ」

「本当に、素敵な紳士になられましたね」


 私とエルメールさんたちは一緒に褒めまくった。

 それはもう褒めておだてて崇めまくった。

 すると、ショックを受けていた顔がニコニコの笑顔に変化していく。

 リュクスくんはどことなく胸をはり、今度は大きな口をあけて自分からほおばって見せてくれたので、さらにみんなで褒めちぎった。


「ひゅー! すてきー!」

「またやりましたね! 世界一です!」

「惚れ惚れしますわ!」

「きゃー! リュクスくんかっこいいー!」


 歓声にやる気を刺激されたリュクス君は、柔らかなほっぺをもっと膨らませながら、もりもり食べる。

 とっても得意げな顔でたくさん頬張る。

 進んでキャロットシフォンケーキを食べてくれ、ホールに五本の人参を入れていたから、二分の一本以上は食べてくれたことになる。

 とってもいいことだ。


「ねぇ、シンシア」


 食べている合間、ミルクティーを飲んだリュクスくんが、どこかおずおずとした感じで聞いてきた。


「うん?」

「おやさいたべるのって、かっこいいの……?」

「うん! 恰好いい!」

「……お野菜食べるぼく、すき?」

「大好き!」

「そっか。そっかー」


 よし、となにやら意気込むリュクスくん。


「ぼく、おやさいがんばるね!」


 おお、やる気になった!

 私はせっかく湧いたやる気をもり立てるためにまためちゃくちゃ応援した。

 リュクスくんはますますやる気を燃やしたようで、シェフに夕飯に人参を入れてもらうよう頼んでくると走って行ってしまった。


 これはいい流れだ。

 ニンジンだけだけどひとつ野菜を克服できた……かな?

 普段の食事ではまだ試してないけれど、やる気があるようなので多分食べてくれるだろう。


 出来るならもっといろんなものを食べてほしい。

 そうして大きな病気をせず、健やかに成長していってくれたら嬉しいな。





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